ESGインサイト『生成AIが労働市場に与える影響』
第一生命経済研究所 総合調査部 マクロ環境調査G 主任研究員 白石 香織氏
生成AIの特徴は「汎用性」
Chat GPTに代表される生成AIの登場により、我々の想像を上回るスピードで、AIによる業務の自動化・効率化が始まろうとしている。これまでのAIと生成AIとの違いの1つは、その高い「汎用性」にある。従来のAIは自動運転車、軍事、囲碁、翻訳等、特定の分野で活用されるケースが多かったため、雇用の代替性は限定的といえた。一方、生成AIは文章、画像・動画、コード等を自由自在に生み出し、ホワイトカラーが担う多くの業務を効率化・代替できる点で、幅広く労働市場に新たな影響をもたらすことが予想される。
コンピュータやインターネットに匹敵する汎用技術
2023年3月にOpen AIとペンシルベニア大学が発表した共同論文“GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models”では、生成AIで使われるLLM(大規模言語モデル)による効率化の影響は、米国の約8割の労働者の仕事量の少なくとも10%程度、同じく残りの2割にとっては少なくとも50%程度におよぶと指摘した。
さらに、タイトルの“GPTs are GPTs”が示すのは、Chat GPTに代表される自然言語技術処理モデル(GPTs: Generative Pre-trained Transformers)は、社会に大きな影響を与える汎用技術(GPTs: General-Purpose Technologies)となるという壮大な結論である。
つまり、近年の汎用技術(下表参照)といわれるコンピュータやインターネットのように、我々が日常的に生成AIを使いこなす日が目前に迫っていることを意味する。
労働市場への新たな影響
従来から「AIが人の仕事を代替する」といわれてきたが、生成AIの登場は、その代替され得る労働者のすそ野を広げ、その代替スピードを速めることで、労働市場に想定以上のインパクトをもたらすと考えられる。こうした生成AIによる新たな影響を加味したうえで、将来の労働需要やAIとの協働による労働のあり方について、国をあげての議論が始まりつつある。
政府は2023年5月に「AI戦略会議」を設置し、国のAI活用に関する課題やリスクに対する取り組みを検討している。また、厚生労働省「雇用政策研究会」では生成AIが労働需要に与える影響を含めた議論を開始した。日本社会が生成AIの恩恵を十分享受できるよう、今後、産官学で労働市場の展望や課題についての議論を深めていく必要がある。
社会全体での「AIリスキリング」が重要になる
こうした状況下で、今求められるのは、社会全体での「AIリスキリング」である。かつて、コンピュータやインターネットが登場したときに労働者が新しい技術に適応していったように、生成AIを含めたAIを学ぶリスキリングを社会全体で進めていくことが重要となる。
その際、従来のように一部の専門家がAIに関する専門スキルを学ぶのではなく、一社員から経営者まで幅広い労働者がAIに関するスキルを身につけることが肝要となる。こうして社会全体で「AIリスキリング」を進めることは、人口減少社会における労働者不足を補い、日本の生産性向上と賃上げの好循環を図るまたとないチャンスとなるであろう。
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