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「3年未満で辞めた」大卒新入社員のその後を検証する

リクルートワークス研究所 古屋星斗氏

「3年未満で辞めた」大卒新入社員のその後を検証する

現代の日本企業で、新入社員の早期離職に頭を悩ませていない企業はない。こう言い切って良いだろう。転職希望者数はすでに2年前同月比が106.8%と、コロナ前を上回っているという調査もある(※1)。また、2021年に公表された厚労省の調査(※2)では、転職後の勤務先を満足とした割合は53.4%で不満の11.4%を大きく上回っており、仕事の環境をよりよいものにする選択肢として転職が認識されていると言えよう。

もちろん、企業の人材活用の観点からは、コストをかけて採用した新卒人材の早期離職は生じないに越したことはない。しかし個人のキャリアに注目した場合、学卒後の早期離職について、「石の上にも3年」という意見もあれば、「辞めるなら早ければ早いほど良い」とする意見もある。今回は企業を悩ますこの問題について、個人のキャリア側から検証を試みる。

結論を先に言えば、3年未満離職をした大卒新入社員のその後のキャリアはネガティブではない。以下の分析結果をご覧頂きたい。

仕事満足度はほとんど変わらず、むしろ早期離職者の方が高い傾向

今回の分析はリクルートワークス研究所が毎年実施している全国就業実態パネル調査を用いて実施した。対象は、初職が正規社員、大学卒で2010年~2017年に入職した者である。この対象者において、3年未満で離職した者とそうでない者を分けて2021年調査段階でのキャリア形成に関する回答を分析した(※3)。サンプルサイズは2353であった。結果を図表1に示す。

図表1:仕事に関する満足感(早期離職の有無別)(「あてはまる」割合)
図表1:仕事に関する満足感(早期離職の有無別)(「あてはまる」割合)

図表1は以下のことを示している。なお、差の有意検定(5%水準)をした結果として有意な差があったのは、「仕事そのものに満足していた」(早期離職者の方が高い)と「これまでの職務経歴に満足していた」(早期離職者の方が低い)であった。

①現在の仕事に関するほとんどの項目で、過去に早期離職したかしないかは関係がない。(有意な差がない)
②「仕事そのものに満足していた」は早期離職者の方が有意に高い。
③「これまでの職務経歴に満足していた」は早期離職者の方が有意に低い。これは、大学で就活して入社した会社を3年未満で辞めた、ということ自体が職務経歴上の引け目だと感じていることに起因しているのではないか。

いずれにせよ、その後のキャリア形成という観点で見た場合には、実は早期離職の有無はほとんど関係がないことがわかった。3年未満で早期に離職した若手が、その後不遇の職業人生を送る、といったことはないようだ。

満足感の低い仕事に直面する新入社員が離職しているという単純な事実をどう受け止めるか

続いて早期離職した若者が離職前に従事していた仕事の状況を見てみたい(図表2)。

図表2では、翌年に3年未満離職をする若手の前年の仕事への不満足感や違和感を集計している。離職した若者が、前年の調査で離職前の職場をどのように感じていたかを知ることができる。この結果は明確に、翌年に辞めている新入社員の方が、仕事の満足感が低く義務感でこなしている傾向が強いことがわかった。翌年に辞めている新入社員の40.0%が仕事そのものに満足しておらず、これは翌年も同じ会社で働く新入社員の21.0%より高い。

会社としてリテンション施策やモチベーション活性化の打ち手を検討する余地は当然あるが、この結果を見ると、若手が自身のキャリアを考える上では著しい不満足や違和感を覚えた場合には早期に離職することは決して否定できない選択肢であると考えられよう。離職して新天地を見つけた結果は図表1の通り、早期離職の有無による差は観測されていないのである。

図表2:仕事への不満足や違和感に関する状況(翌年に早期離職する者の前年の状況)(※4)
図表2:仕事への不満足や違和感に関する状況(翌年に早期離職する者の前年の状況)(※4)

「最初の会社」は特別か

今回の分析からは、個人のキャリアの充実という観点からは、大卒新入社員の3年未満離職についてネガティブな要素を見つけることは難しい、という示唆が得られた。ただ、人材獲得の多くの部分を新卒採用に依存してきた日本の大手企業(※5)にとっては死活問題となるのが3年未満離職の多寡である。ただ、かつての日本企業がOJTを中心に若手に提供できていた教育機会は、近年の教育訓練費の低下(※6)などからもわかるように漸減している。こうした中で若い世代で、「就職後に仕事に不満を感じた人にとって、早期離職することはキャリアにとってポジティブな選択肢になりうる」という今回の結果は、企業にとっても新卒採用者をただ引き留めておくことの難しさを物語っている。

「最初の会社」が自分のキャリアにとって「最適な会社」であった若手も大勢いるが、すべての若手がそうではない。この当たり前の前提が共有されたとき、「最初の会社」が特別だった時代は終わるのかもしれない。

(※1)doda,転職求人倍率レポート(2021年7月結果)
(※2)厚生労働省,2021,転職者実態調査2020年版
(※3)集計においてはクロスセクションウェイトxa21を用いた
(※4)2018年・2019年の初職入職者を対象とし、2020年に離職した者と離職しなかった者の2019年時点の回答結果を表示している。サンプルサイズは1310である。集計においてはクロスセクションウェイトxa20を用いた
(※5)5000人以上の企業では単年度の正規社員採用全体のうち62.6%が新卒採用で獲得した人員だが、日本全体の平均では34.7%に過ぎず、大企業の新卒重視は際立っている(リクルートワークス研究所,2018,中途採用実態調査2017年度実績)
(※6)厚生労働省,就労条件総合調査によると2006年までは一人当たりの一か月の平均教育訓練費は1400円前後で推移していたが、2011年・2016年では1000円前後と減少した

リクルートワークス研究所

リクルートワークス研究所は、「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会の創造」を使命に掲げる(株)リクルート内の研究機関です。労働市場・組織人事・個人のキャリア・労働政策等について、独自の調査・研究を行っています。
https://www.works-i.com/

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【用語解説 人事辞典】
合同入社式