【解説】「テレワーク」ガイドラインの変更点と実務対応
一般社団法人日本テレワーク協会 主席研究員
今泉 千明
5 労働時間制度の適用と留意点
使用者には、原則として労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務があります。労働時間制度には、通常の労働時間制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制の三つの労働時間制度があります。以下に掲げるそれぞれの留意点を踏まえたうえで、労働時間を適切に管理する必要があります。
(1)通常の労働時間制度における留意点
1:労働時間の適正な把握
【変更点】労働時間の把握方法について具体化
通常の労働時間制度に基づいてテレワークを行う場合、使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に基づき、適切に労働時間管理を行わなければなりません。
同ガイドラインでは、労働時間を記録する原則的な方法として、「パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録による」ことが示されています。専用の労務管理ソフト等を利用することも可能です。
自己申告制によって労働時間を把握する場合も、同ガイドラインを踏まえた措置を講ずる必要があります。特にサーバーへのログイン時間と申告時間との差が大きくならないことに留意すべきです。
2:テレワークに際して生じやすい事象
【変更点】 中抜け、移動時の扱い、一部テレワークについて新たに記載
テレワーク時には、以下のような特有の事象に留意する必要があります。テレワークガイドラインのハイライト的部分の一つです。
ⅰ 中抜け時間について
在宅勤務などのテレワークに際しては、私用と業務を混在させたいというニーズがあります。このため一定程度労働者が業務から離れる時間が生じやすいと考えられます。
テレワークガイドラインでは、「使用者が業務の指示をせず、労働者がその時間を自由に利用できる場合、次の二つの方法が考えられる」とされています。
●中抜けの開始と終了時間を報告させ、休憩時間として扱い、始業時刻を繰り上げるかまたは終業時刻を繰り下げる
●その時間を休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として扱う
始業時刻や終業時刻を変更する場合には、その旨を就業規則に記載しなければなりません。また、時間単位の年次有給休暇を与える場合には、労使協定の締結が必要です。
ⅱ 通勤時間や出張時の移動時間中のテレワーク
通勤時間や出張旅行中の移動時間に情報通信機器を用いて業務を実施することは可能です。
テレワークガイドラインでは、「これらの時間について、使用者の明示または黙示の指揮命令下で行う場合は、労働時間に該当する」とされています。
ⅲ 勤務時間の一部をテレワークする際の移動時間等について
午前中だけ自宅やサテライトオフィスで勤務後、午後からオフィスに出勤するなど、勤務時間の一部にテレワークを利用する場合があります。
このような場合の就業場所間の移動時間が労働時間に該当するか否かが従来必ずしも明確ではありませんでした。テレワークガイドラインでは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間であるか否かによって、個別具体的に判断されることになる」とされています。
ガイドラインでは「使用者が移動することを労働者に命じることなく、単に労働者自らの都合により就業場所間を移動し、その自由利用が保障されているような時間については、休憩時間として取り扱うことが考えられる」となっています。ただし、その場合でも、「使用者の指示でモバイル勤務などに従事した場合には、その時間は労働時間に該当する」とされています。
一方でガイドラインでは、「使用者が労働者に業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じており、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は労働時間と考えられる」としています。例えば、使用者がテレワーク中の労働者に対して急きょ出社を求めたような場合は、当該移動時間は労働時間にあたります。
テレワークの導入にあたっては、中抜けの時間や部分的テレワーク時の移動時間の取扱いについて、労使間で合意しておくことが望ましいでしょう。
(2)フレックスタイム制
【変更点】 フレックスタイム制の導入方法をより具体化
フレックスタイム制は、労働者が始業および終業の時刻を決定し、生活と仕事の調和を図りながら効率的に働くことのできる制度です。清算期間や総労働時間を労使協定で定め、清算期間を平均し、1週当たりの労働時間が法定労働時間を超えないようにします。
テレワークガイドラインでは、「労働者の都合に合わせて、業務の開始や終了の時間を調整することや、オフィス勤務の日は労働時間を長く、在宅勤務をする日の労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を確保するといった運用が可能である」としています。
フレックスタイム制の導入にあたっては、労働基準法32条の3に基づき、始業・終業の時刻を労働者の決定に委ねます。また労使協定において、対象労働者の範囲、清算期間、総労働時間および標準となる1日の労働時間等を定めることが必要となります。
(3)事業場外みなし労働時間制
【変更なし】 在宅勤務ガイドラインから変更なし
テレワークガイドラインでは、「テレワークにより、労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、労働基準法第38条2で規定する事業場外労働のみなし労働時間制が適用される」としています。
テレワークにおいて、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難であるというためには、以下の要件のいずれも満たす必要があります。この点は、以前の在宅勤務ガイドラインと同じです。
1:情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であるということです。労働者が使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態、または手待ち状態で待機している状態にはないことを指します。
回線が接続されていても、労働者が自由に情報通信機器から離れることや、通信を切断することが認められている場合、労働者に即応の義務が課されていない場合などがあたります。
2:随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
「具体的な指示」には、例えば当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、基本的事項について変更の指示をすることは含みません。
事業場外みなし労働時間制を適用する場合、テレワークを行う労働者は、就業規則等で定められた所定労働時間を労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第1項)。
ただし、業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務に関しては、当該業務の遂行に通常必要とされる時間を労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第1項ただし書)。
この当該業務の遂行に通常必要とされる時間は、業務の実態を最もよくわかっている労使間で、協議したうえで書面による協定により定めることが望まれます。当該労使協定は労働基準監督署へ届け出なければなりません(労働基準法38条の2第2項および3項)。
(4)裁量労働制の対象となる労働者のテレワーク
【変更点】 対象となる労働者をより具体化
専門業務型裁量労働制や企画業務型裁量労働制の適用には、労使協定や労使委員会の決議により、法定の事項を定めることが必要です。これを労働基準監督署長に届けた場合、対象労働者を決議や協定で定めた時間労働したものとみなされる制度です。業務の性質上、業務遂行の手段および時間配分を使用者が労働者に委ねる必要がある場合に適用されます。
テレワークガイドラインでは、「裁量労働制の要件を満たし、制度の対象となる労働者についても、テレワークを活用することが可能である」としています。
この場合、労使協定で定めた時間もしくは労使委員会で決議した時間を労働時間とみなすこととなります。
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