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マニュアル的な対応は要注意!
裁判例にみる“組織を乱す社員”への対応実務

弁護士

増田 陳彦(ひかり協同法律事務所)

企業規模を問わず、組織を乱す問題社員がいることがあり、企業はその対応に頭を悩ませています。問題社員の態様は、特異な言動で職場を混乱させる、無気力で同僚のモチベーションを下げる、上司の指示に従わない・反抗的な態度をとる、顧客とトラブルを起こす、自己中心的で協調性がないなど、様々です。

その対応方法は、個別事案ごとの事情に応じて慎重に検討する必要がありますが、本稿では、実務的な対応の考え方について、近時の裁判例を踏まえつつ触れていきたいと思います。

*(この記事は、『ビジネスガイド 2016年5月号』に掲載されたものです。)*

1. 改善の機会を与える姿勢を大切に

本稿において、問題社員に対する実務的対応について筆者の実務経験等も踏まえた考えを述べますが、問題社員への対応を考える場合にまず申し上げておきたいことは、当初から問題社員を企業から排除するような姿勢で臨むのではなく、まずは注意改善指導によって改善の機会を十分に与え、実際に改善させることを目指す姿勢を大切にしていただきたいということです。

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企業は、本来は一戦力として活躍することを期待して社員を採用したはずです。ところが、残念ながら、本採用後ないし入社後数年経ってから、本人の性格的傾向や言動に問題が見られ、当初はそれが顕在化していなかったものの、徐々に会社内での行動として出現し、問題社員であることが判明していくことがあります。

そのような場合に、企業側が強い拒絶反応を示してしまうことがありますが、企業も縁あって当該社員を採用し、少なくとも採用時点において、社員としての適性があるものと考え、問題が生じる前はある程度のパフォーマンスを発揮していたわけですから、本来持っているパフォーマンスが発揮できるようなチャンスを与える姿勢を大切にしていただきたいと思います。そして、実際に改善すれば企業の一戦力として活躍してもらえばよいのです。他方、残念ながら改善が見られないならば、それなりの対応をしていくこととなります。

本稿では、まず始めに、“組織を乱す問題社員”というものが、労働契約関係においてみた場合に、一体どういう法的問題として捉えるべきものか、について触れたいと思います。続いて、問題社員については、最終的に解雇に至らざるを得ないことがありますので、その場合にどういうプロセスになり、どのような点に留意するべきなのか、また、実際の問題社員の解雇をめぐる近時の裁判例において、どのような判断がなされているのかも含め、問題社員について考察してみたいと思います。

2. 問題社員は労働契約上どのように理解すべきか

問題社員と向き合う場合には、ついつい問題言動に対する感情が先行してしまいがちですが、その問題社員が労働契約においてどう位置付けられるのかを理解したうえで対応を検討することが適切です。

結論としては、問題社員には、労働契約関係において労働者として債務不履行があるということになります。

つまり、労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者と使用者が合意することによって成立します(労働契約法6条)。この労働契約では、使用者の指揮命令に従って労働者が労務を提供し、労務提供に対して使用者が賃金を支払うことが本質的要素となります。したがって、労働者が使用者の正当な指示(注意改善指導)に従わないということは、労働契約関係における債務不履行があるということになるわけです。

また、この労働契約の締結に際して、使用者が合理的な労働条件を定めている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によることとなります(労働契約法7条)。

就業規則の服務規律では、例えば次のような服務の原則の条項が設けられています。

第●条(服務の原則)
社員は、会社の規則を遵守し、上司の業務上の指示、命令に従うとともに、職場の秩序・規律の維持、向上に努め、職務遂行に際しては、互いの人格を尊重するとともに、協調性をもって誠実に職務遂行しなければならない。

これと同じでなくとも、類似の条項は多くの会社で設けられていますが、就業規則のこのような条項も労働契約の内容になっているということになります。

そこで、問題社員が、会社の規則を守らない、指示命令に従わない、他の社員の人格を尊重しない、協調性を持たない、または職場の秩序を乱す言動をすることは、労働契約においては、労働者の義務(就業規則に従って労務を提供する義務)について一種の債務不履行がある状態になるものと整理することができます。

社員が債務不履行の状態にあるわけですので、債務不履行状態の解消を求める使用者(会社)による注意や改善指導は、当然労働契約における正当な対応であるということができます。そして、その改善指導に従わないということは、当該社員の債務不履行状態が積み重なることになりますので、最終的には、使用者から、契約関係の解消を図る対応、すなわち解雇という手段は、やむを得ないこととなるわけです。

3. 問題社員への対応の姿勢

問題社員といっても一括りにできるものではありません。冒頭に述べたように、問題の現れ方は様々であり、その対応も会社ごと、社員ごとに慎重に検討する必要があり、人相手の対応となりますので、筆者は問題社員について、マニュアル的な思考で対応することは適切でないと考えています。

問題社員に対して適切に対応するためには、当該社員の言動の傾向・性格のみならず、上司や周囲の社員との関係性、担当業務の重要性、対応する社内体制等の様々な事情を考慮しながら、個別対応していくことが大切であり、個別ケースごとに当該社員と向き合い慎重に対応していく姿勢が重要であると思います。

ケースによっては、問題社員に対して、会社から順次注意文書を出していく、という対応が有用なこともありますが、一律の対応手順で臨むことは、かえって問題を複雑にすることもあります(本来不要な感情論になることもありますし、早々に合同労組に加入したり、文書の乱発で精神不調になったと言われることもあり得ます)。

また、文書化することが一面で有用と思えても、その文書の記載自体が不十分であると、かえって後々に企業にとって不利に働くこともあります(事実関係の確認が不十分で、後に事実関係が異なっていたことが判明するなど)。問題が複雑で根深い事象であればあるほど、文書の記載は専門家と相談のうえで、証拠関係に照らして慎重に行うことが望ましいでしょう。そして、内部的に慎重な検討をしつつも、現場での対応として、当面は口頭対応で行っていくという対応も必要です。

4. 問題社員に毅然と対応することの意義

筆者は、問題社員に対して会社が必要かつ相当な注意改善指導を行って毅然とした対応をすることの意義は、会社が、職場の秩序を維持回復するとともに、真面目に働いている現場の社員を守り、ひいては会社を守ることであると思っています。

周囲の社員から見ても、誠実に働いておらず、上司にも反抗的な姿勢で、仕事を適切に遂行しないために周囲の社員の負担を増して、業務上の支障を生じさせる社員であっても、賃金が普通に支払われ、会社がそれに対して何も対応せず放置状態にしていれば、真面目に働いている社員の士気は確実に低下します。

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その揚句には、真面目に働いている社員が、問題社員に対して嫌気がさし、また、何も対応しない会社の無責任な体制にも嫌気がさして退職してしまい、本来必要な優秀な人材が確保できないということにもなりかねません。そのようなことになると企業は競争力を失い、衰退してしまいます。

このように考えると、問題社員に対して会社が必要かつ相当な注意改善指導を行って毅然と対応するということは、上記の通り、職場秩序を維持回復するとともに真面目に働いている社員の士気を維持回復し、また、現場の社員を守り、ひいては会社を守るという重要な意義があると言えます。

実際に相談を受けるケースでは、問題社員に周囲が疲弊してしまっていて、職場の雰囲気が非常に悪くなってしまい、能率が低下しているということもあります。そのような状態を直ちに解消することは困難ですが、会社として、状態改善に向けて本人への指導などを実施して動いているということを、現場の社員にも見えるようにし、理解してもらうことは非常に重要であると思います。

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