ATD 2015 International Conference & Expo 参加報告
~ATDに見るグローバルの人材開発の動向~
[ 取材・レポート ] 株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 川口 大輔
ATD2015に参加された皆さんの声
最後に、今回、日本からATD2015に参加された方々より寄せられた、コメントを記載いたします。最新の人材開発、組織開発に関する情報をまさに“体感”した皆さまからの、熱いメッセージをご覧ください。
定義や意味合いを少しずつ変えて、「リニューアル」
和光 貴俊さん(三菱商事株式会社 人事部)
今回のATDで印象的だったのは、過去に何度も取り上げられてきたテーマが、環境の大きな変化とその加速化に伴い、その定義や意味合いを少しずつ変えて、「リニューアル」した形で議論されていたことでした。例えばID(インストラクショナル・デザイン)については、「クロス・ボーダー」で、「(ベビーブーマーの退出後の)XY+ミレニアルそれぞれの世代に対応」且つ、場合によっては「バーチャル」な環境下での学習を、どのように設計し、実行するか、という文脈で語られているケースが多くありました。また、「70:20:10」というセオリー(仕事や経験から学ぶのが7割、ソーシャルに学ぶ(薫陶)のが2割、クラスルームでの学習が1割)の「20」「10」それぞれの重要性や、それを組織として後押しするためのメソッドの変化が多くのセッションで語られたことが具体的な事例としてあげられます(”Small Bite=切片学習、あるいは断片的な学習、とでも訳すべきか”がキーワードとなっていました)。また、人事部門の施策の”ROI”(投資の費用対効果)についても、ビッグデータの活用により、その検証にかかる時間もコストも大幅に削減が可能になってきている、したがって、きちんと経営にも説明すべきだという論調が多かったことにも時代の趨勢を感じました。いつもながら、学びと気付きの多い四日間でした。
日本らしい「コミュニケーション」が”Team”の能力を高める!
西出 恵美さん(日産自動車株式会社 アライアンスR&D人事部 R&D人財育成グループ)
「学習する組織」「組織開発」「ATD-GNJタレントマネジメント委員会」への関心から、個人で参加しています。韓国勢に圧倒された2011年ASTDから4年振りの2015年ATDは、日本勢の参加が目立ちました。参加したセッションのメッセージには「コミュニケーションが大切」「ストーリーで伝える」が多く含まれ、自身が人材育成や組織開発で大切に取り組んでいることに間違いがないと背中を押された気持ちになりました。「個」の能力を高める個人主義から”Team”で能力を高め合うことが主流となり、日本らしい「コミュニケーション」の有効性を感じました。2013年からセッション・トラックとなった「ニューロサイエンス」が「ラーニングの科学」としてセッション数を増やしました。多くのセッションでエビデンスが示され説得力を増した「ニューロサイエンス」は、人材育成や組織開発に取り入れやすい印象でした。2011年に第一線を退くこととなった、ドナルド・カークパトリック氏の最後のセッションで直接パワーをいただいた思い出を胸に参加したジェームス・カークパトリック氏のセッションでは、偉大な父の追悼とともに「LEVEL3」「LEVEL4」の評価に重点を置き、指標をどのように生かし評価していく「最新のカークパトリック・モデル」が紹介されました。自信を持って実践していくパワーが生まれた四日間でした。
事業成長のための“人・組織・風土”実現にHRとしていかに取り組むか
山口 豊さん(パナソニック株式会社 人事労政部)
今回初めて参加しましたが、日常の自らの領域を超えたさまざまな内容に接し、非常に多くの刺激を受けることができました。激しさを増すグローバル競争の下、事業成長のための“人・組織・風土”実現に向け、HRとしていかに取り組むべきかヒントを得たいと思いセッションに参加しましたが、これまでの価値観を改めて振り返る貴重な機会であったと思います。特に脳科学的な観点から、「ポジティブな」「楽しい」状態が重要である旨の指摘は大変示唆に富む内容でした。この点を踏まえると、パフォーマンスやエンゲージメントを高めるためには、「会社(上司)が個人(部下)の能力を引き出す」との視点に加え、「個人がいかに自らの能力を自発的に発揮していくのか」という視点に基づく仕組みや取り組みが重要だと思います。セッションで取り上げられていたパフォーマンスマネジメントの見直し(レーティングやランキングによるジャッジを止め、育成促進に向けた話し合いを行う)や、職場マネジメントにおける望ましい上司のあり方(例:サーバントリーダーシップの精神、ポジティブなコーチング、定期的に部下とコミュニケーションを行うこと)は、その具体施策の一つであると認識しました。今後の人材開発の参考にしたいと思います。