ATD 2015 International Conference & Expo 参加報告
~ATDに見るグローバルの人材開発の動向~
[ 取材・レポート ] 株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 川口 大輔
『2015年5月17日~20日に、米国フロリダ州オーランドにて、“ATD 2015 International Conference & Expo(ICE)”が開催されました。本カンファレンスでは、毎年、世界各国から集まった先駆的企業やプラクティショナー、教育機関・行政体のリーダーたちが、現在直面している課題やこれからの人材開発のあり方について、組織の枠を超えて多くの人と学び合います。 昨年、名称がASTD(American Society for Training Development)から、ATD(Association for Talent Development)へと変わりましたが、今回はATDとして初のインターナショナル・カンファレンスになりました。名称が変わったことも影響してか、カンファレンスの雰囲気や話されている内容・フォーカスにも少し変化があったように感じました。本レポートでは、ATD 2015の現地の様子、またどのような議論が行われていたのかを紹介することで、グローバルの人材開発の動向を探っていきたいと思います。
ATD2015 International Conference & Expo の概要報告
■ATDとは
ATD(Association for Talent Development)は、企業や政府などの人材開発・組織開発の支援をミッションとし、米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置く会員制組織(NPO)であり、1943年に設立されました。世界120ヵ国以上に約40,000人の会員を持つ、タレント開発に関する世界最大級の組織です。
■ATD International Conference & Expo(ATD国際会議)とは
ATD International Conference & Expo(ATD国際会議)は、ATDが年に一度開催している人材開発や組織開発に関する世界で一番大きなイベントです。通称ATD ICE(アイス)と呼ばれています。2015年は、オーランドにて開催され、四日間で三つの基調講演と400以上のセッションやワークショップが実施されたほか、EXPOのブースも350以上出展されました。参加者は、米国に加えて、アジア、欧州、南米、中東など世界92ヵ国から約9,600人を数えました。
日程 | 2015年5月17日(日)~20日(水) |
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場所 | 米国フロリダ州オーランド、オレンジ・カウンティー・コンベンション・センター |
セッション数 | 約400件
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基調講演 |
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コンテント・トラック (10カテゴリー) |
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インダストリー・トラック (4カテゴリー) |
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■ATD2015 International Conference &Expo開催実績
- 参加人数:9,600名以上
- 海外からの参加:2,300名
- 参加国数:92ヵ国
- 参加者の多い国の状況:韓国…291名、カナダ…211名、日本…172名、中国…163名、ブラジル…146名
※参考 過去の実績
2014年 | 10,500名 |
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2013年 | 9,000名 |
2012年 | 9,000名 |
2011年 | 8,500名 |
2010年 | 8,000~9,000名 |
2009年 | 8,000名 |
4年ぶりのオーランドでの開催
ATDは毎年、アメリカの主要都市(ワシントンD.C.、シカゴ、ダラス、デンバー、サンディエゴなど)で順繰りに開催されますが、今年は4年ぶりにオーランドで行われました。オーランドは、観光地としても人気の高い都市で、ディズニー・ワールドを始め、ユニバーサル・スタジオやシーワールドなど、世界的に著名なアミューズメントパークが立ち並びます。カンファレンス期間中にATD主催で行われる「ネットワーキング・ナイト」は、ユニバーサル・スタジオのハリー・ポッターのアトラクションを貸し切って開催され、大変盛り上がりました。
今年は、昨年と比べると全体の参加者数がやや減少したものの、海外(米国外)からの参加者は増えており、全体における海外参加者の比率がさらに高まりました。特に今年は日本から昨年の136名を大幅に上回る172名が参加し、日本におけるATDの認知度や関心が高まっていることが伺えました。
多様なラーニングの機会
ATD ICEは、多様なラーニングの機会にあふれています。日曜日から水曜日までの4日間で、基調講演は3回開催。メインとなるコンカレント・セッションは、毎朝8時くらいから夕方5時過ぎまで行われます。例年、コンカレント・セッションは毎日3枠程度の時間帯で行われていたのですが、今年は一日4枠に時間帯が拡大されてたため、その分、得られる情報の量も多かったように思います。
また、今年は初の試みとして、「コミュニティ・シアター」というセッションが行われました。これは、たとえば「グローバルHRD」「ヒューマン・キャピタル」「ラーニング・テクノロジー」などの主要テーマごとに、パネル・ディスカッション形式でセッションが行われるものです。一人の発表者だけではなく、複数のプラクティショナーが多様な見解を述べるので、対話的に学ぼうとする機会が、今後さらに増えていくかもしれません。
コンカレント・セッションの合間には、350以上のブースが出展したEXPOに参加したり、ブックコーナーで書籍を購入したり、グローバル・ビレッジで他国から来た参加者と交流を深めたりするなど、多様な学びの機会があります。今年は、ブックコーナーで、パフォーマンス・コンサルティングのデーナ&ジェームス・ロビンソン夫妻や1分間リーダーシップで著名なケン・ブランチャード氏など、人材開発の領域におけるレジェンド・スピーカーたちが机を並べ、ブック・サイニングに応じたり、対話を楽しんだりしていました。こうしたレジェンド・スピーカーたちと、気軽に触れ合えるのもATDならではと言えます。
今年は、日本からの参加者数が、昨年と比べて大幅に増えていましたが、セッション終了後には、各ツアー・グループ内で情報交換や振り返りのミーティングを設けていたところも多かったようです。ATDでは、400を超えるセッションが開催されるので、一人で参加できるセッションには限りがあります。参加した複数のメンバー同士で、お互いが出たセッションの情報を交換し合い、カンファレンスの全体像を把握したり、そこから何が学べるかを対話することが、ラーニングをさらに深いものとしてくれます。私が所属するヒューマンバリューで開催した情報交換会の中でも、企業の人事・人材開発担当者やコンサルタントなど、多様な知見と経験を持つ皆さまが、組織の垣根を越えて毎晩遅くまでダイアログを行い、多くの気づきや発見を得ることができました。
ATD(Association for Talent Development)として初の大会
上述したように、今年はASTDからATDへと名称を変えて初のカンファレンスとなりました。それを反映してか、タイトルに「タレント・ディベロップメント」という言葉を付けたセッションが多数見受けられ、セッションの中でも、この言葉が語られる場面が大幅に増えたように感じました。
CEOのトニー・ビンガム氏は、カンファレンス期間中に行われたプレス会見の中で次のように語っていました。
「今日組織にとって重要なのは、トレーニング単体を扱うことではなく、戦略的にプログラムを構築したり、素晴らしい人材を獲得したり、働いている人々のエンゲージメントを高めることなどを通して、人々が組織により大きな価値を提供できるようにすることにあります。タレント・ディベロップメントが担う役割は、より高次に、幅広くなってきています。私たちATDのミッションは、トレーニングや人材開発に携わる人々が、領域を広げて貢献できるようにサポートすることにあるのです。この1年間で、私たちはブランド名の再構築をほぼやり遂げました。マーケットの反応も、海外を中心にとてもポジティブです。」
組織の名称が変わり、自分たちのミッションもより明確になったこともあってか、トニー・ビンガム氏の語り口も例年以上に自信にあふれていたように感じました。
また、カンファレンスそのものも、「タレント・ディベロップメント」を切り口として焦点が絞られることにより、全体的なクオリティや議論の視座が高まったのではないかという声も多く聞かれました。ATDが、人材開発に関するグローバルのプラットフォームとなりつつあることを鑑みると、今後は「タレント・ディベロップメント」という包括的な切り口を軸にして、人材開発に携わる人々の役割を見直していこうという動きも増えてくるかもしれません。