「予防」に着目した「メンタリティマネジメント事業」で社会性とビジネスのバランスを追求する
株式会社 アドバンテッジ リスク マネジメント
鳥越慎二さん
企業のニーズから広がったメンタリティマネジメント事業
その後、メンタルヘルスケア分野にも進出されて、現在では、メンタルヘルスケアの売上のほうが大きくなっていると伺いました。そもそも、メンタルヘルスケア分野に進出されたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
GLTDは、メンタルで長期休業した場合も保障しています。そこが非常にユニークなポイントの一つではありましたが、必ずしもそこにフォーカスしてGLTDを始めたわけではありません。正直なところ、当初はメンタルヘルスケアに進むとは考えていませんでした。メンタルヘルスケア分野に進出したのは、2002年くらい。お客様からの声を受けて始まりました。
GLTDは働けない人に対して保障する制度なので、顧客企業の働けない人のデータを分析し、顧客企業にフィードバックをしていました。そんな中、ある顧客企業の方に、「これまで分析したデータでは、メンタル疾患で30日以上休んでいる人は全体の3分の1強くらい。単体の原因としては一番多い」という話をすると、その通りだとの反応が返ってきました。しかも、「どうもその比率が増えているような気がする」と言われたのです。さらに、メンタル疾患の場合は、原因が会社であると責任を問われることもある。なおかつ、休む前後も、マネジャーや人事部などの手間がかかり、ほかの病気とは決定的に違う。会社の問題として、「病気になる前に予防するサポートや、病気になった人がいた場合も、ただ休職手当を支払うだけではなく、他のサポートもあるといい」と言われたのです。
そこで、メンタルヘルスケアの事業について考えはじめました。まず、アメリカの事例を調べると、「EAP(従業員支援プログラム)」がありました。もちろんEAPはメンタルヘルスケアだけではないのですが、近年メンタルヘルスケアの側面が強くなってきている。日本でもEAPの事業を展開できないかと考えました。
アメリカの場合は、従業員がカウンセリングを受けることに抵抗がないので、窓口さえ作れば利用してもらえる。しかし、日本の場合は抵抗感が強くて、窓口はあっても誰も利用しない。ただ状態が悪くなってから使うのではなく、予防としてEAPを活用できないかと考えました。
例えば健康診断で異常の兆候を見つけて病気を予防するように、全員にストレスチェックを受けてもらって、悪い数値が出ている人に声をかけていくと、利用率も上がるのではないか。チェックの中でストレスの原因を聞いて、それを会社側にフィードバックすることで、職場や業務の改善に役立てられるのではないかと考えたわけです。
既にあったカウンセリング窓口ではなく、チェックを実施して能動的にこちらから病気の兆候を探し出してアプローチする。なおかつ原因も調べ、予防にも役立てるという我々の事業がスタートしたのです。これはまさしく、2014年に成立したストレスチェック義務化法で定められたのと同じような、我々のサービスの原型といえるものでした。
その後も当社は、研修、カウンセリング、ストレスチェックなど、メンタルヘルスケアのパイオニアとして新しい商品を開発してきた自負があります。「単にパーツの提供にとどまるのではなく、いかに成果を出すか。どうすれば、メンタルヘルス対策上のリスク軽減、コスト軽減につながり、生産性が上がるのか」というように成果が出ることが最も重要と考え、サービスを提供しています。
それで貴社では、「メンタルヘルスケア」を「メンタリティマネジメント」と呼んでいるのですね。
そうです。「メンタリティマネジメント」は、メンタルヘルスケアも含むもっと広い概念として定義しています。メンタルヘルスケアというと、うつや自殺、休職など、病気に関してネガティブなイメージがあり、「コスト削減」や「リスク管理」という発想になりがちです。しかし、メンタルに関することはそれだけではありません。逆にメンタルが良好な状態であれば、生産性が上がり、価値が上がっていく。昔から「モチベーション」の重要性はよくいわれますが、モチベーションはきわめてメンタルな話なわけです。
最近では、「エンゲージメント」が注目されていますが、従業員がイキイキと楽しく仕事をしている状態を創り出すことと「メンタルヘルスケア」とは、本当は密接に関係していて、両者がバランスよく機能することが重要だと考えています。そういった総合的なアプローチを目指しているのが、当社のメンタリティマネジメント事業です。
先ほど少しお話にも出てきましたが、2014年に成立したストレスチェック義務化法についてはどうお考えですか。
間違いなくマーケットは広がると思っています。しかし、まだまだ企業の人事部の方々はのんびりされているという印象です。2015年12月から年1回、必ずストレスチェックをして、報告書も出さなくてはいけないのですが、対策が遅れているように思います。
法律の検討段階では、「ストレスチェックを実施して従業員から申し出があったら医師の面接を受けさせる」という程度でした。しかし、実際に成立した法令や指針では、チェックをした後のフォローが重要と定められており、医師だけでなく、カウンセラーなどの心理職も含む専門スタッフがきちんとフォローすることが明記されました。しかも、ストレスチェックや面接指導の実施状況を労基署に報告しなければいけません。加えて、組織的な予防も重要で、ストレスチェックをしたらストレス原因を調べ、組織分析を行って職場環境の改善を行うように努めなければならないとあります。
これは、人事部にとってかなり大変なことです。しかし、どうせなら、きちんと実施してリターンを得たほうがよいと思いませんか。単にストレスチェックをするのではなく、ストレッサーを減らし、会社にとっても生産性を上げていくことにつながる法律だと思います。私は、実態を伴った良い法律ができたと思っています。
法令化で一気にストレスチェックが広がるのは、大歓迎です。ただ、本当の勝負はそこから。一番重要なことは、これをきっかけに我々がどう価値を生み出すかどうかだと思います。価値にフォーカスして、ストレスチェックを有効に活用する企業を増やしていきたいと思っています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。