ヤフー株式会社:
四つのバリューで働き方のリズムを変える!
ヤフーの“爆速”経営を支える“ワイルド”な
新評価制度とは
人事本部 人事企画室 室長
湯川 高康さん
すべての評価コメントを公開してフィードバックを活性化
有効な360度評価を行うために、人事として評価者に何か働きかけを行っていますか?
こだわっているのは、フィードバックの活性化です。評価者からのアドバイスコメントを必須にして、評価される本人にも開示するようにしました。前は点数だけで、コメントは自由。書かれたコメントも見るのは上司だけで、本人には見せていなかったんです。でも点数だけだと、見ても「ふーん」で終わってしまう。生の言葉のほうがやっぱり効くんですよ。自分でも何となく思っていたことを人からずばりと指摘されたら「やっぱり」と納得するし、自分ではまったくそう思っていなかったことを言われて気づく場合もある。点数より言葉のほうがわかりやすく、印象に強く残るので、今後のアクションに結びつきやすいんです。
だから評価者には、単なる批判やコメントではなく、本気の「アドバイス」を求めています。相手がバリューを発揮しているのはどういうところで、不十分な点は何か。それを改善するにはどうすればいいのか。本人にもフィードバックするので、今後に向けた建設的なアドバイスを書くように呼びかけています。
さて、新制度導入から半年が過ぎ、最初の評価対象期間も終了しましたが、湯川さんからご覧になって組織の変化はいかがでしょうか。
最初に「爆速」とか「ワイルド」といった言葉が出てきたときは、正直なところ、社内から不安や戸惑いの声もたくさん上がりました。とくに管理部門。現業部門ならまだしも、管理部門で「急に“ワイルド”なんて言われても困るよ」というわけです。われわれも管理部門なのでわからなくもありませんが、そうした考え方自体を変えていかなきゃダメでしょうと働きかけを始めました。バリューやバリュー評価への理解を深めるための研修を全社レベルでかなり実施しましたし、評価のときだけバリューを持ち出すのではなく、日々の仕事の中でもっとバリューについて語りましょうという取り組みを、いろいろな施策をからめて行ってきたつもりです。
トップも自ら、胸に「爆速」と書いたTシャツを頻繁にオフィスで着ていますからね(笑)。慣れというのはおそろしいもので、そういうメッセージの繰り返しや意識への擦り込みがだんだんと効いてくるんですよ。おかげで言葉や考え方はかなり浸透してきました。私がいま関わっているプロジェクトでも、会議中に「これ、どっちにする?」「そりゃ、ワイルドなほうで行くべきでしょう」といった会話が実際に飛び交っていますし、どんどん増えているように感じますね。
言葉や考え方が浸透したら、あとは成果に結びつく行動ですね。
そのとおりです。実際のアウトプットとしてはまだ物足りないと、経営陣も見ています。当社の場合、さまざまなユーザー情報をはじめ、これだけのビッグデータがリソースとしてあるわけですから、それを有効活用すれば日本全体の課題を解決することも不可能ではありません。そう考えると、われわれの行動はまだまだワイルドなほうに振り切れていないし、フォーカスも絞り切れていない。働き方のリズムを爆速にできていない面もあるでしょう。もちろんこれだけの大きな制度改革であり、価値観の転換ですから、組織全体を啓発する施策だけでなく、社員一人ひとりの個性や能力に応じた細かいフォローも欠かせません。上司と一対一で面談する時間を週に一度、定期的に設けるなどして、コミュニケーションを密にしてもらっています。
最後に、湯川さんご自身は人事のキーパーソンとして、この新しい評価制度にどんな手応えを感じていらっしゃいますか。
人事制度の構築の成否は、いかに仕組みに魂を込めるかにかかっています。当社で10年、前職でも約10年、ずっと人事畑を歩いてきてもう20年になりますが、今回の制度改革を通じてその思いをさらに強くしました。われわれ人事サイドが一方的に制度をつくって導入していたら、おそらくここまでは機能しなかったでしょう。経営のコミットが絶対に必要なんです。バリュー評価制度は、人事視点というよりも、マネジメント視点でつくられました。だから構築段階では、人事としては「本当に大丈夫?」ということが多々あったんです。評価者を20何人も設けてうまく回るのかとか、お互いの目標や評価コメントを公開して中傷の嵐になったらどうしようとか、違和感がありすぎて、当初は正直ものすごく悩みました。人事の常識からすると、それくらいワイルドな制度なんです。
ただ、会社も個人も成長していくためには、見える化やフィードバックによる刺激が欠かせないという経営陣の思いに強く共感しましたし、何よりもトップがこれでいい!と言い切ってくれたおかけで、われわれも自信をもって、制度の浸透・定着に専念することができました。トップが腹落ちしていないと、仕組みだけを持ってきても、現場に混乱を生むだけです。何度も言うようですが、人事制度の本旨は経営メッセージであり、いかにトップのコミットが得られるかが最も重要。そこが切り離されていると、どんなにすぐれた制度を導入しようと、担当者の自己満足に終わってしまいかねません。
(取材は2013年4月10日、東京・港区のヤフー本社にて)