第90回 エイベックス株式会社
ベンチャーに負けない、スピードとイノベーションを。
創業30年、エイベックスが目指す構造改革とは?
エイベックス株式会社 グループ執行役員 CEO直轄本部 本部長
加藤 信介さん
ベンチャー企業のようなスピード感を目指し、階層の見直しと権限委譲を実施
実際に構造改革を行うにあたり、どのような取り組みに着手されたのでしょうか。
大きく分けて、組織構造、人事制度、風土、オフィス環境の四つを整えました。前述の通り、僕たちのミッションは、「これまでのアーティストを中心としたコンテンツビジネスを展開しながら、新たなイノベーションを起こす」こと。そして、それによって「世の中に新しい価値を提供」して、「エンタテインメント業界のリーディングカンパニーであり続ける」ことです。
そのために重要なのが、組織構造を改革し、外部環境の変化に対応できるスピード感を生むことでした。そこでまず見直したのが、組織の階層です。エイベックスでは、創業から時間が経つにつれて、階層が増えていきました。グループ会社それぞれに、社長、執行役員、統括部長、部長、担当部長、課長、担当課長、主任といったポジションがあり、意思決定にも時間がかかっていたのです。
そこで、役職のうち数階層を取り除き、コンパクトでフラットな組織を目指しました。併せて執行役員の体制もすべて見直し、パフォーマンスを上げている人を年齢に関係なく抜擢するなど、人員の入れ替えをスムーズにできるよう整備しました。
また、役職ごとの決裁権も見直しました。例えば、会社に著しい影響をもたらす可能性のある意思決定と、そうでない意思決定を分け、中規模以下のものに関しては権限をそれぞれに移譲する。それによって、ベンチャー企業にも負けないスピード感を出せたらと思っています。
人事制度では、どのような仕組みをつくったのでしょうか。
これまでの「一人の強力なリーダーに周りが付いていく」体制から、「一人ひとりをエンパワーメントして、叶えたいことを実現させる。それによって、社員も成長して、その先に会社の成長にもつながる」体制へと変えて行くことを目指しました。そのために例えば上司と部下の1on1を導入し、コミュニケーションを通して、それぞれが何を考えているのか、どのようなキャリアを描きたいと思っているのかを把握できる仕組みを導入しました。
これまでは、上司が自分の部下全員とフラットにコミュニケーションを取れているわけではありませんでした。上司も人間なので、例えば20人の部下がいるとして、気の合う人もいれば、話しかけづらい人もいる。1on1を導入したことで、部下一人ひとりとコミュニケーションをとるためのきっかけが生まれたように感じています。また、新規事業制度や独立支援制度なども導入し、挑戦したいと思っている人の姿が見えるよう、工夫しています。
これまで社内には、自分のやりたいことにチャレンジする風土があまり根付いてはいませんでした。優秀な人材がいて、本当は他の仕事にチャレンジしたいと思っていても、所属する部門や組織がその人を手放したくないという理由で異動をさせないケースもありました。そのため、より柔軟で、挑戦が生まれるイノベーティブな組織風土をつくりたいと思っています。
2017年12月には、南青山の新社屋が完成しました。
新オフィスの設計にあたっても、今まで以上にイノベーションを生み出す会社に変えるため、社内外のコラボレーションを促す環境づくりを目指しました。フリーアドレス制を導入し、部署を越えた社員同士の交流が生まれるようにしたり、外部の方との接点づくりに向けたコワーキングスペース「avex EYE」をつくったり。人事制度として導入した1on1を行うための、「1on1会議室」も設置しました。改革にあたり、制度などのソフト面と、オフィスというハード面を同時に変えられたのは、社員の意識を変革するという意味でも、とてもよかったと思います。
社屋の設計にあたり、社員へのヒアリングなどはあえて行いませんでした。例えば、固定席にするかフリーアドレスにするかという意思決定も、代表取締役会長CEOの松浦(勝人氏)と僕含めたコアメンバーだけで行いました。
固定席で働いている人に「固定席とフリーアドレスどっちがいいですか?」とたずねると、「固定席がいい」という答えが返ってくるのは当然です。そこで、ヒアリングベースではなくて、目指すべき会社のあり方という大上段からオフィスはどうあるべきかをブレイクダウンさせて、まずフリーアドレスを導入することを決めてしまって、なぜそうしたのか、フリーアドレスによって会社がどのように変わることを期待しているのか、その理由をしっかりと伝えることにしました。
実際に導入してみると、社員にとってだんだんそれが当たり前になり、大きな問題は起こりませんでした。一度決めてしまえば、フリーアドレスを面倒だと言っていた人でも、それを“前提”にして楽しむ方法や活用方法を見つけていくものだと思います。そのため、理由をしっかり伝えた上で、まずは思い切ってやってみることも、大切だと思います。
若手社員が活躍する事例は、実際に増えているのでしょうか。
新卒1年目の社員が独立支援制度を使って、エイベックスから支援を受ける形で独立したり、自分のやりたい事業を役員会議でプレゼンテーションして子会社を立ち上げたり、新規事業制度から社内横断プロジェクトが立ち上がったりするなど、ファクトも複数出てきていますし、こうした事例以外にも、さまざまな変化が起こっています。担当領域や日常の業務の中で、いつもと違う挑戦をしてみる。僕は、はじめはそれでいいと思っているんです。どんなに小さなストレッチでも、彼ら自身のキャリアにおいては大きな価値があります。構造改革から1年と数ヵ月、100点満点ではありませんが、社員一人ひとりのスタンスが変わってきていることを実感しています。
チャレンジをする中で、失敗してしまうこともあると思います。だからといって「失敗者」のレッテルを貼るのではなく、頑張ればまた次のチャンスを得られるよう、挑戦して失敗した人は社を挙げて評価したいと思っています。