株式会社リクルートホールディングス:
働く場所を従業員自らが選ぶ「リモートワーク」
働き方の選択肢を増やすことが、
個人の能力発揮と会社の成長につながる
(後編)[前編を読む]
株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進室 室長 林 宏昌さん
「サイバーオフィス」化が進むと同時に、「リアルなオフィス」の再定義が必要
「働き方変革」に関して、今後はどのような課題があるとお考えですか。
前述した「サイバーオフィス」の構築を進める一方で、リアルなオフィスの「再定義」も必要です。現在は、サテライトオフィス、自宅、カフェなど、どこでも仕事をすることが可能です。それでもわざわざオフィスに来るのは何のためかと言うと、私はまず直接言葉を交わしてディスカッションすること、そして思いがけずに人と出会うことに価値があるからだと思います。
後者で言うと、自社の中に他社の人を巻き込む、あるいは思いがけない人とばったりと出会う、サテライトオフィスのようなところでコラボレーションする、といったケースです。こうしたリアルなオフィスの活用は、もっと考えなければならないと思います。さらに言えば、「リモートワーク」を在宅勤務という位置づけから、顧客接点に近い形での活用などに昇華させていくことが、これからの重要なテーマになると思っています。実際、グローバルレベルでの「コワーキングスペース」など、どんどんと増えている実態があります。
「フリーアドレス」を導入したのも、働く場を解放するという観点からですか。
フリーアドレスは、「オフィスに来るなら、いろいろな人とのコミュニケーションやコラボレーションが生まれた方がいい」という観点から、導入したものです。例えばフリーアドレスで近くに座った人が全く違った部署の人だと、交わす会話は普段とは違ったものになります。
ただし、フリーアドレスを全員に強要しているわけではありません。仕事の性質上、固定席がいいという人には、固定席を残しています。実際、チームのメンバーとのコミュニケーションがほとんどで、メンバー内でのオペレーションを回すのが大事だというような組織は、固定席の方がふさわしいと思います。一方、他の部署のいろいろな人とコミュニケーション、コラボレーションをしていくのが業務として大事だという人たちの場合には、フリーアドレスが向いていると思います。
最後に、企業で「働き方変革」に取り組む方々に向けて、ヒントとなるメッセージやアドバイスをお願いします。
まずは、やってみることが大事だと思います。変革をしようと議論しても、「あれが気になる」「これが不安だ」と言って、第一歩目を踏み出せない企業が少なくありません。しかし、実際にやってみると、「予想と違ってそうでもなかった」と感じることもあれば、「これが課題だ」と新たに考えるべきことが見つかることもあります。やってみたからこそ、分かることがあるのです。まずは「働き方変革」に取り組もうとしている人たち自身がやってみるべきだと思います。例えば、ITツールを使ってみる。「チャット」を使ったことがなければ、実際に使ってみて、働き方がどう変わりそうなのかを体感してみることです。
結論を言うと、「働き方変革」のポイントは、オフィスとIT、制度・ルールです。これらは、人事部だけで変えられるものではありません。ITやオフィスに関わる人たちとプロジェクトベースで話し合いながら、ステップ・バイ・ステップで進めていく必要があります。
いずれにしても、「働き方変革」は未来が見えにくいものなので、1年後の姿を描き切って、そのマイルストーンを決めて日々のタスクはこうする、といったやり方は難しいでしょう。特に、このような取り組みを行ったことのない方にとっては、不確実なことがたくさんあります。やはり、ステップ・バイ・ステップで、対処的に行っていくことをお勧めします。
結局、「働き方変革」とは、全体最適、最大公約数的な進め方ではうまくいきません。各部門で最適化を考えること、究極的に言えば個人で最適化していくことに向き合っていくことが必要です。より幅広くさまざま部署と連携することが、今まで以上に必要になってくるように思います。
(取材は2016年12月14日、東京・千代田区のリクルートホールディングスにて)