三菱樹脂株式会社:
男性中心組織から「女性が働きやすく活躍できる組織」へ(後編)[前編を読む]
古西宏枝さん(三菱樹脂株式会社 人材開発部ダイバーシティ推進グループ 課長代理)
佐藤慶子さん(三菱樹脂株式会社 人材開発部ダイバーシティ推進グループ 兼人事部給与・厚生グループ)
「ダイバーシティ&ワークライフバランス推進委員会」発足
課題だった実務職の高度化への対応は現在、どのような状況ですか。
古西:2016年5月~6月にかけて、昇格した女性社員を対象に研修を実施します。特徴は、上司と部下が一緒になって受講することです。これまでなかなか上司が部下のキャリアを考えてくれない、コミュニケーションがうまくいっていないという声がありました。こうした面をカバーする一つのきっかけとなる研修にしたいと考えています。また、女性社員にとっても昇格という節目を機に、自分のキャリアやどういう働き方をしたいかを考える場にしたいと思っています。
それ以外にも、実務スキルを上げる研修も実施します。例えば、自分が担当する事業の数字が読めるようにする経理・財務の研修。また、コミュニケーションに関して言えばパーソナルスタイルの研修。ロジカルシンキングなどの研修も考えています。
プロジェクトで得た成果・知見を、どのような方向性で展開していくのですか。
古西:提言内容について、事務局が全国を回りました。詳しい内容を記した冊子を配って、約30回、延べ1000人以上の前で「報告会」を開催したのです。その後、12月の「ダイバーシティ強調月間」では、報告会に参加した人を中心に各職場で提言の内容について「対話会」を行いました。「対話会」では上司と部下のコミュニケーションを活発にするだけでなく、お互いの感謝の気持ちを表してもらうために、上司と部下との間で「みら☆キラツリー」にシールを贈り合うなど、いろいろと工夫を凝らしました。
佐藤:「対話会」のテーマの中に、1年間を振り返ってお互いに感謝したいことを取り入れました。職場の皆が取り組むことになり、「こういう機会をこれからも続けたい」など、非常に反応が良かったです。 また、各職場での課題も抽出してもらいました。職場によっては、これからどのような取り組みをしていくか具体的な計画案も検討しているところもありました。
古西:現在は、提言の内容について各職場に“種まき”をした段階です。これによって、ダイバーシティに対する理解も深まったと思いますが、一方で、職場ごとの課題にも取り組んでいかなければならないと考えています。例えば、女性社員の人数や構成比なども違うので、本社が抱えている課題と工場が抱えている課題は必ずしも同じではありません。また、ワークライフバランスについても、短時間勤務が取りやすい・取りにくいなど、いろいろと課題がある中で、もっと各職場に落とし込んで、実践していこうということになり、今回の提言を受けて「みらキラプロジェクト」の第2弾を、2016年2月に発足しました。「ダイバーシティ&ワークライフバランス推進委員会」です。
このプロジェクトは男性・女性の双方が関わるもので、参加人数も限定していません。全社を六つのブロックに分け、その中で展開します。それぞれの地域の課題やありたい姿を考えて具体策を策定し、実行に移していくための委員会です。基本的には各事業所での活動となるのですが、定期的にメンバーが本社に集まり、情報の共有、進捗の確認、などを行っています。
「みらキラ提言」については、かなりの部分で取り組みが行われていますが、その中で管理職の意識革命「キラボス」の部分がまだできていません。これを委員会の中で、取り組んでいこうと考えています。
佐藤:「対話会」には約1600人が参加しましたが、その中で出たダイバーシティやワークライフバランスへの意見にも、委員会で検討していこうと考えています。
古西:「対話会」で出た意見がその場限りになってしまうことがあります。実行性を持たせるには、事務局として常にモニタリングしていくことが大切です。次の委員会でもこれまでの経験・知見を生かして、より良い形でプロジェクトを展開させていきたいと考えています。
まさにこのような全社的なプロジェクトでは、事務局の対応が非常に大切ですね。本日は、貴重なお話をうかがうことができました。お忙しい中、ありがとうございました。
(取材は2016年3月15日、東京・千代田区の三菱樹脂本社にて)
4月1日に「女性活躍推進法」が施行されましたが、男性正社員を中心に置く日本企業の組織の中では、依然として女性の力が十分に発揮できていないのが実状です。そうした中、「みらキラプロジェクト」は、企業の根幹部分を支える実務職(一般職)にスポットを当てた点が非常に注目されます。その結果、女性活躍推進の流れは全社的な展開を見せるようになりました。いったい、どうして今回のプロジェクトは成功することができたのか、ファシリテーターとしての立場から以下の3点を挙げたいと思います。
(1)経営トップからの「本気のメッセージ」が絶えずあったこと
組織風土改革に関わるようなテーマでは、経営トップのコミットメントが非常に重要です。その意味で、今回のプロジェクトが社長の「ダイバーシティ&ワークライフバランス推進宣言」から発せられたものであったことは、大きな意味を持ちます。さらに、第1回の全体ミーティング(キックオフ)の場でも、社長自身がプロジェクトの重要性をメンバーに語りかけると同時に、強い期待をかけました。メンバーはその期待に応えようとモチベーションがいっそう高まり、期待以上の成果を上げることにつながったのです。
(2)社内外から「ゲストスピーカー」を招いたこと
事務局が社内外に働きかけて、女性社員のロールモデルとなるゲストスピーカーを呼んだことは、プロジェクトメンバーに非常に強いインパクトを与えました。これからの女性社員のキャリアをどう描いていけばいいのか、そのあり様を模索していた彼女たちにとって、先駆者と直接会ってアドバイスを受け、ディスカッションを行ったことの“刺激と重み”は想像に難くありません。この出会いをきっかけに具体的なイメージをつかむことができ、プロジェクトが進むべき方向性に一気にドライブがかかりました。
(3)メンバー12人が「ダイバーシティ」だったこと
そもそも、プロジェクトメンバー12人が多様性(ダイバーシティ)に富んだことが大きいと思います。一般的に、女性活躍推進に関するプロジェクトメンバーは総合職・管理職の人たちが中心になる傾向がある中、今回はライフステージがさまざまであることはもちろん、総合職・実務職などのコースや、目指しているキャリアや価値観、リーダーシップやコミュニケーションのスタイルも、12人12様でした。一口に女性社員と言っても、いろいろな「個性」があるのです。つまり、ダイバーシティだからこそ多角的な面から深い議論ができるわけであり、その結果、女性活躍推進に向けて“本質的な課題”を抽出することができたのです。それを三つの提言(実務職の高度化・総合職の環境整備・管理職の意識革命)としてまとめ、社長をはじめ社内から大きな評価・反響を得ることができたというわけです。