“300年以上成長し続ける企業”を目指す
ソフトバンクグループの人材育成戦略(前編)

なぜ、研修を内製化するのか?

ソフトバンクグループの研修体系と、研修の内製化を始めた経緯や理由についてお聞かせください。

武田: まず、内製化の経緯についてお話します。2009年に研修の内製化を本格的にスタートし、それに合わせて「ソフトバンクユニバーシティ認定講師(ICI)制度」を立ち上げました。それまでは外部の講師による研修を行っていたのですが、当時一緒に人事へ異動してきた上司の一言がきっかけになりました。それは、「リーダーシップ研修」を目の当たりにした際、「講師ご本人からリーダーシップが全く感じられない」というものです。そもそもリーダーシップがない人に、リーダーシップを教えることはできないのではないか、と単純に思ったわけです。

では、リーダーシップがある人はどこにいるのかというと、周囲を見渡せば、強いリーダーシップを持った人材が社内にいることに気付きました。ならば、その人たちから学んだ方がずっといい。これが研修内製化のきっかけです。また、内製化することによるコスト面でのメリットがあったことも、実現の要因にはなったと思います。

島村: また、内製化をより推進していくきっかけになった話になりますが、私が所属しているソフトバンクモバイル、ソフトバンクテレコム、ソフトバンクBBの3社は、当時、通信3社という枠で共に仕事をしていました。元々は別会社だったこともあり、それぞれ社風も異なっていました。

そこで、内製化のプログラムを通じて、管理職を中心とした3社の考え方や方向性を擦り合わせしたり、お互いのマネジメント上の課題を共有しあうことが必要だという話になりました。また、これこそ、内製でやるべき価値がある! ということで「管理職のためのコーチング研修」の内製化がスタートしました。実際に、人事総務統括の本部長が登壇し、異なる文化の融合が図られるとともに、本部長が経験されてきたマネジメントとコーチングの実践的なノウハウや経験が社員に共有され、大変満足度の高い研修になり、更なる内製化にドライブがかかるきっかけとなりました。

内製化を進めていく際に、どのようなご苦労がありましたか。また、その問題を解決するために、どのように対応してこられたのですか。

武田: 制度を立ち上げるに当たっては、そこまで大きな問題や苦労などはなかったように思います。上層部の承認を受ける際も、「まずは、やってみたらどうか」と、私たちのチャレンジを否定するような声はありませんでした。

そんな中、一番の不安だったのは、社内講師募集に対して応募があるかどうかでした。また、社内講師が受講者である社員に受け入れられるのか、外部の講師と比べてどう評価されるのか、ということです。しかし、この時は「とにかくやってみよう、失敗したらその時に考えればいい」といった気持ちが強く、とても前向きな気持ちで取り組むことができました。

島村: 初年度は、年間で18コースを内製化しましたが、最初の二つの研修は武田と私がプログラム開発と講師を担当しました。具体的には武田が「プレゼンテーション研修」、私が「聴くスキル研修」でした。それまで外部の先生にお願いしていた研修を、社内の人間が実施して「果たして、自分たちは本当に受け入れられるのだろうか」と、正直とても不安を感じたことを思い出します。

武田: 確かに二人とも不安はありましたが、非常に良い結果となりました。それはアンケートの評価でも明らかでした。コンテンツの中身について言うと、どれだけソフトバンクらしくできるか、つまり実践的であるかが重要なのですが、外部講師と比べてもとても良かったと思います。事例一つを取っても、実際にソフトバンクの業務の中で起こり得るケースを取り上げましたから。

「プレゼンテーション」研修を担当した私は、実際にソフトバンクではどういうプレゼンテーションが望まれているのか、どういう資料が作られているのかという実践的な部分にフォーカスしました。また、講師である私自身が業務の中で成功や失敗を経験していることも強調しました。そのため、受講者も具体的にイメージしやすかったと思います。

島村: 私たちの研修が受講者に受け入れられた理由はいくつかありますが、まず、社内の事例を豊富に語ること。そして、講義の部分は極力少なくして、ソフトバンクのカルチャーに合わせた実践・即効型のプログラムにしたことです。

今でこそ、研修プログラムを作成するのは慣れたものですが、立ち上げ当初は、二人とも素人でしたので、どのようにプログラムを作ればいいのかが分からず、プロの方から研修プログラム開発のアドバイスを受けながら、ソフトバンク流にアレンジしていきました。

また、年間18コースのプログラムの全てを自分たちだけで短期間に開発するのはさすがに難しかったので、外部のプログラムをいくつか購入し、そこにソフトバンクらしさが出るようにケーススタディーを変更したり、実践トレーニングを中心にカスタマイズして迅速に対応していきました。

武田: 実践的なプログラムだったので受講者からの評判も良く、当初の不安は払しょくすることができました。これも社内に多様な人材がいて、その人たちから学べばいいという想いを持てたこと、そして何よりも自分たちの手で内製化を進めていくのだという強い気持ちがあったことが大きかったと思います。

『前編』では、ソフトバンクグループの研修内製化に至るまでの経緯を伺いました。『後編』では、社内講師をいかにして育成するのか、社内講師を活用することによる効果・効用など、具体的な取り組み内容についてお話を伺っていきます。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

となりの人事部

人事・人材開発において、先進的な取り組みを行っている企業にインタビュー。さまざまな事例を通じて、これからの人事について考えます。

会員登録をすると、
最新の記事をまとめたメルマガを毎週お届けします!

この記事ジャンル 能力開発関連制度
この記事を既読にする
  • 参考になった0
  • 共感できる0
  • 実践したい0
  • 考えさせられる0
  • 理解しやすい0

となりの人事部のバックナンバー

企業人事部の取り組みに関するニュース

関連する記事

【用語解説 人事辞典】
エビングハウスの忘却曲線
プライミング効果
ソーシャル・ノーム
チェーンストア理論
社会関係資本(Social Capital)
カークパトリックの4段階評価法
目標志向性
SF思考
ヒンドランスストレッサー
コンピテンシー導入の企業事例