日本進出直後の海外企業のコア人材採用
クロージングの山場で決裁者がまさかの海外休暇へ――。
日本には多くの海外企業が進出しており、人材紹介を利用して中途採用を行っている企業も多い。日本進出からまだ日が浅い企業の場合、少ないスタッフであらゆる業務を回していることがほとんどで、専任の人事がいないために拠点のトップが採用担当を兼任するケースも珍しくない。そういう場合、人材紹介会社も万全のサポートを行うようにしているが、時には予想を超えた事態が発生することもある。
重要な「ナンバー2」の募集
「決して簡単なポジションではありませんが、具体的にキャンディデイト(候補者)はいるのですか」
とある求人サイトに小さく出ていた募集情報を見て電話を入れてみたところ、相手は興味を持ってくれたようだった。C社は欧州を本拠地とする大企業だが、日本拠点はまだできたばかり。実は、私はそういう会社を探していたのだった。
「はい。アメリカの大学院で機械工学を学んだ人で、現在はX社(日本の大手企業)でセールスエンジニアをされています。ちょうどその方が、御社のような会社を探しているんです」
「そうですか。その人のレジュメを見せてもらうことはできますか」
翌日、私はさっそくC社の東京オフィスを訪問した。海の見える高層ビルの一室だ。対応してくれたのは、イギリス人の日本拠点代表者・B氏。もっとも、オフィス内にはB氏のほかに女性スタッフが一名しかいない。
候補者Aさんが英文で用意してくれた職務経歴書を見せると、B氏は流ちょうな日本語で言った。
「この人は良いですね。会えますか」
「もちろんです。Aさんには御社のことを伝えてあります。ぜひお会いする機会をいただきたい、と言っていました」
C社が探しているのは日本での技術部門の責任者、いわば日本拠点のナンバー2となる人材だ。B氏自身がエンジニアではないので、海外拠点と連携しながら技術的な対応ができる人を求めているという。そのため、ネイティブレベルの英語力は必須となる。これは、世界を舞台に働いてみたいというAさんの希望にぴったりの求人だった。海外出張が多いことも、Aさんにとってはポジティブな要素となるだろう。
後日行われたB氏とAさんの面接は、順調に進んだ。ここまでは、「日本進出直後の海外企業」を紹介する案件としては非常にいい流れだった。
しかし、終盤にきて問題が発生する。優秀なAさんにオファーを出していた企業がもう1社あったのだ。こちらもアメリカを本拠地とする世界的な有名企業で、どうやらC社を上回る高給を提示しているようだ。私はそのことをB氏に伝えた。
「仕事内容そのものは、海外出張の多い御社の方に興味があるそうです。年収を合わせれば、十分獲得できると思います」
「わかりました。少し調整させてください」