人材紹介会社にできないこと
本業に差し障るので…… 人材紹介会社に「“裏”活用法」はない
人材紹介会社は多数の企業と取り引きしている。中堅規模の人材紹介会社なら、取引先が数千社に及ぶことも珍しくないだろう。当然、多くの企業の採用情報をいち早く知ることができるわけだが、それらを外部に明かすことは原則的にない。どんな人材をどのタイミングで採用するかは、企業の事業戦略に大きく関わること。外部に知られたくないからこそ、ネットなどで公募を行わず、人材紹介会社を利用して内密に採用計画を進める場合が多い。このように人材紹介会社には、「立場上できないこと」がいろいろと存在する。
時にはヘッドハンティングの依頼が
「お知り合いに、いい人事担当者はいらっしゃいませんか。ぜひ、紹介してください」
人事担当者を募集しているのになかなか採用できない企業から、そう頼まれることが時折ある。この日訪問したG社もそんな一社だった。まだそれほど規模が大きくない外資系企業なので、経理部長が人事も兼任している。
「おかげさまで営業の採用はうまくいったので、あとは人事だけなんですよ」
「申し訳ありません、私どももずっと探してはいるのですが」
G社の場合、海外の本社と英語でやりとりする必要があり、英会話が必須だという。しかし、日本法人はまだ規模が小さくベンチャー企業のような雰囲気だ。条件に合う人材がいても、大手企業や有名企業と競合して負けてしまうケースが続いていた。
「人材紹介会社の方なら、いろいろな会社の人事部にお知り合いがいらっしゃいますよね。もし、うちに来てくれそうな方に心当たりがあったら、声をかけてみてもらえませんか?」
たしかに、人材紹介会社は数多くの企業の人事部と取り引きしている。転職希望者に豊富な選択肢の中から選んでもらうため、営業担当が常に新規開拓を行っているし、企業側でも多いところは、数十社の紹介会社と取り引きしている。従って、大手の紹介会社なら数万人の現役人事パーソンをリストアップすることも不可能ではないだろう。とはいっても、取り引きのある企業の人事に転職を持ちかけるとなると話は別だ。
「さすがにそれは……。そこまでやるとヘッドハンティングになりますし、私どもの会社には、そういうことができる担当者もいないんですよ」
人材紹介とヘッドハンティングは似ているように見えるが、実はまったく異なるシステムである。人材紹介は、人材側が自ら転職を希望して登録する。それに対してヘッドハンティングは、狙ったキャリアを持つ人材にヘッドハンティング企業が直接コンタクトし、面談を繰り返す中で徐々に転職への意思を固めてもらう。ヘッドハンティングは条件に合う人材を探し出す手間がかかる上、当初は転職する気のない人材をその気にさせなければならないので、専門的な説得の技術が必要になる。
人材紹介会社が取り引きしている企業の現役社員を引き抜いた、となると信用問題でもある。よくて出入り禁止、場合によっては問題のある紹介会社という風評が立ち、本業そのものが成り立たなくなる恐れもある。
「引き続き、いい人材を集めるように努力します」
急いで採用したい企業側の気持ちは理解しながらも、正攻法で紹介していくしかないのである。