タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第56回】
「ライフプレナー(Lifepreneur)」の社会的役割!
――日本版ライフシフトの提唱
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
田中 研之輔さん
令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。
タナケン教授があなたの悩みに答えます!
「ライフシフト」から「プロティアン」へ
私がキャリア開発にフルコミットしている理由の一つは、次の言葉に対して、なんらかの応答が不可欠だと考えているからです。
世界でいち早く長寿化が進んでいる日本は、ほかの国々のお手本になれる。多くの人が100年以上生きる社会をうまく機能させるにはどうすべきかを、世界に教えられる立場にあるのだ。―<略>―これからは、活力と生産性を維持して長い人生を送り、人生の途中で変身を遂げることの重要性を実証するという面でも、世界の先頭に立ってほしいと思う。
(『ライフシフト』2016東洋経済新報社)
これは人生100年時代の人生戦略という考え方をこの国に浸透させるきっかけとなったリンダ・グラットン教授による『ライフシフト』日本語版の序文の言葉です。長寿化をネガティブな言説で埋め尽くすことは今日で卒業し、長く生きることの醍醐味や恩恵を皆で示していくことが求められているのです。
『ライフシフト』をうけて、私なりに令和時代のキャリア開発の教科書としてまとめたのが『プロティアン』です。
このゼミは、『プロティアン』を出発点とし、今回56回目を迎えました。本ゼミで解説してきたように、プロティアンとはキャリア自律に関する最先端の知見です。『ライフシフト』で提唱されていた無形資産に着目し、無形資産を増やしていく人生戦略としてキャリア資本論を接続させたのです。
「ライフプレナー」という生き方の提唱
今回、さらに一歩先へと進むことになりました。具体的には、「活力と生産性を維持して長い人生を送り、人生の途中で変身を遂げることの重要性を実証する」ことです。別言するならば、プロティアンを社会実装していくフェーズを迎えました。
その取り組みとして、電通を早期退職した40~50代の個人事業主らで構成される「ニューホライズンコレクティブ」主催の記者会見(5/28)に登壇させていただきました。この記者会見に向けて、山口裕二・野澤友宏両代表、並びにクリエイティブ・チームの皆さまと打ち合わせを重ねました。
そこで私たちが導き出したのが、自ら主体的に100年人生を謳歌していく人びとを「ライフプレナー」と総称することです。「ライフプレナー」とは、ライフ(Life/人生)+アントレプレナー(Entrepreneur/起業家)を掛け合わせた造語で、次のように定義しました。
ライフプレナーとは、さまざまな新しい仲間(コミュニティ)と関わりながら、 主体的に「出番」を作り続け、人生を切り開いて生きる人々
念頭においているのは、ミドルキャリア形成期の「組織内キャリア依存」とシニアキャリア形成期の「キャリア失墜とモチベーション低下」です。(ちなみに、ファーストキャリア形成期の不透明なキャリア展望に関しても、ライフプレナーとしての生き方が処方箋となると考えていますが、具体的には今後検証していきます)
ライフプレナーとは、活力と生産性を維持して長い人生を送り、人生の途中で変身を遂げる人たちでもあるのです。一つの組織に依存しすぎないライフプレナーは、リンダ・グラットン教授とアンドリュー・スコット教授への応答でもあるのです。
ライフプレナーの社会的役割は、次のようにまとめました。
これまでどちらかというとキャリア開発は、個人の成長の視点で捉えられてきました。ライフプレナーは、個人と組織の成長の視点を大切にします。この点は、関係論的アプローチであるプロティアン・キャリアの考え方を理論的支柱に据えています。
ライフプレナーの方々と創り出したい未来は、年齢を問わず誰もが(1)中長期でのキャリア戦略を通して終身成長していくことと、(2)個人や組織をつなぐ共創を通して持続的成長していくことにあります。
リンダ・グラットン教授の言葉を借りるなら、変化の担い手は企業でもなければ政府でもないのです。担い手とは私たちなのです。(『ライフシフト』P.396)
プロティアンゼミの多くの読者は、人事や人材開発に関わる方々です。まずは、私たち一人ひとりが活力と生産性を維持しながら持続的に成長していくライフプレナーとして社内のキャリア開発プログラムをプロデュースしていくようにしましょう。
決して、ベテラン社員のネガティブキャンペーンに加担するようなことがあってはならないのです。これまでに実際に耳にした言葉の中でも「お地蔵」「お荷物」「岩盤」「コンクリート」「使えない」といった言葉で、ベテラン社員たちの社内存在を揶揄する機会に遭遇してきました。
この状況を変えていきましょう。私もベテラン社員の当事者です。組織のブレーキにならないように、これからも学び続けていきます。
プロティアン・キャリアを理論的支柱に据え、ライフプレナーとして歩み出すと、目の前の景色が180度変わります。例えば社内研修の受講も、業務としてやらされるリスキリングではなく、自己の成長のためのアップスキリングの機会になるのです。
「人生の途中で変身を遂げること」の最初の一歩は、職場、職種、肩書きを変えることを意味するのではなく、主体的にキャリア形成をしていくために仕事への向き合い方を変え、心理的幸福感高く持続的に働いていくために内面を整え、ライフプレナーとして歩み出すことなのです。
さあ、皆さんも今日からライフプレナーとして、毎日を謳歌していきましょう。
- 田中 研之輔氏
- 法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長
たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を31社歴任。個人投資家。著書27冊。『辞める研修辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』、『プロティアン教育』『新しいキャリアの見つけ方』、最新刊『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』など。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。プログラム開発・新規事業開発を得意とする。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。