有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”
【第14回】メンター&ロールモデル(その2)
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
前回は、私の日本鋼管(現JFE)時代の先輩でもある八木洋介氏に触れました。もう一人、私のメンター&ロールモデルをご紹介したいと思います。「恩師」と呼んだ方が正しいかもしれません。
恩師
C.K.プラハラド先生は、私がミシガン大学ビジネス・スクールに通っていたときの戦略論の教師でした。今やビジネスの定番用語となった「コア・コンピタンス」という概念を世に広めた人物です。その名著『コア・コンピタンス経営』は、もはやビジネスの古典と呼んでも差し支えないでしょう。
看板教授であり、著名コンサルタントでもあったプラハラド先生は、熱い教育者でもありました。通常、ビジネス・スクールの教師は、一つの学期中に同じテーマを2コマまでしか担当しません。教師だって、同じことを何回も語るのは飽きるからです。ところが、学生からの大人気に応えるべく、先生は5コマも教えてくださいました。また、自宅に学生を招いて、手料理を振る舞ってくださるような方でもありました。
その授業は大変厳しく、「本件に関する君の考えは? どうして? 根拠は? データは? 判断基準は?なぜ?」と、一度指名されると質問の手が緩むことはありません。徹底した予習と、深く強く考え抜くことを学ばされました。
私が卒業直前に受講したプラハラド先生の講義は“Corporate Revitalization” というもので、MBA プログラムの集大成のような内容でした。GM、GE、IBM、AT&T、松下(現パナソニック)という5社のケース・スタディであり、1社につき500ページほどの資料を読み込まねばならず、量的にも大変なハード・ワークが求められました。
当時(1992~1993年)は日本的経営がもてはやされていた時代だったのですが、プラハラド先生の教えは「GMにも、GEにも、IBMにも、AT&Tにも、松下にも、それぞれ良いときと悪いときがあった。業績が良かったときには、そこには必ず素晴らしい経営判断と戦略があった。悪かったときには、経営判断と戦略がまずかったはずだ。“日本流”が良いとか、“米国流”が悪いとかは、ナンセンスな議論である。経営の是非を文化のせいにしてはならない。世に存在する違いは “良い経営”と“悪い経営”であり、それを分けるのは文化ではなく、経営判断と戦略だ」というものでした。
組織にしがみつくような生き方をするな!
以下は、この講義の最終回、授業を終えたプラハラド先生が私たちに贈ってくれたメッセージです。
「君たちは明日卒業の日を迎え、ここから飛び立って行く。志を高く掲げ、情熱を持って、それぞれがビジネスの世界へ戻って行くことであろう。この2年間、君たちは自分自身が企業のCEOであるという想定の下、ケース・スタディにおける議論を展開してきた。目線も意識も、経営トップとなっているはずである。
ところが、企業社会に戻った君たちの現実は、せいぜい中間管理職であろう。おそらくは上司がいるはずだし、意地悪な先輩や足を引っ張る人間もいるかもしれない。そして、すべての会社や上司が優秀とは限らない。誤った判断や政治的な動きと対峙しなければならないときもあるだろう。
そのようなとき、君たちには自らの理念と信念に基づいて行動をしてほしい。自分を欺き、組織にしがみつくような生き方をしてはくれるな。そのようなことをせずとも、世の中は常に君たちのような人材を必要としており、活躍の場は無限大だ。君たちはミシガンのMBA、そして私の教え子だ。真のリーダーであってほしい」
プラハラド先生が教室を退出された後も長い間、拍手は鳴り止みませんでした。私はボロボロ泣きながら、真のリーダーとなるべく努力することを心に誓ったのです。
私は、プラハラド先生の教えをかなり忠実に守って生きてきたと思います。結果として、8回も転職を重ねてしまいました(笑)。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
信念に基づいて生きているかい?
戦わなきゃ、真のリーダーじゃないぜ!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。