有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll”【第44回】
人事ケーススタディ(その1)
人材ポートフォリオの設計
株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
日本には、黒字でありながら後継者不在により廃業の危機に直面している企業が約60万社も存在します。また、自社単独での事業展開に限界を感じ、次の成長戦略を模索している企業も数多く存在します。日本M&Aセンターの使命は、この両者をM&Aでつなぎ、企業の存続と発展に貢献することです。目指しているのは、老舗のブランドや固有の技術を守り、成長を支援し、地方を、そして日本を創生することです。
M&A仲介は、約30年前に日本M&Aセンターが生み出したビジネス・モデルです。そのため、社外に即戦略となる人材は存在しません。潜在能力として優秀な人材を採用し、魂を込めて育成し、彼らがいきいきと働くことができる環境を整えること以外に、会社の成長と成功の道はないのです。ある意味、私たちは人材ビジネスであると言うことができるでしょう。
このビジネス・モデルを創出し、業界をリードしてきた当社は、常にイノベーションを起こし続けなければなりません。そのためには、「多様性ある組織」と「自由な発想や挑戦を尊ぶ文化」が両輪となります。
多様性のある組織
組織設計においては、多様なタレントを組織に取り込めるよう、経歴や性格をカテゴライズし、目指す人材ポートフォリオを設定した上で採用活動を展開しています。女性管理職比率や障がい者雇用、年齢構成、外国人社員比率などとはまた別の視点です。
例えば出身業界。強すぎる先入観は危険ですが、やはり出身母体による人材の色はあると考えています。例えば、「銀行出身者」は財務の知識を持ち、組織で動く能力が高いかもしれません。一方、「証券会社出身者」は、より個としての営業力が強く、お客さまに寄り添う気質に長けていると考えられます。「商社出身者」は投資経験や経営視座を身に付けており、「メーカー出身者」は技術やオペレーションに知見があります。「保険」「人材ビジネス」「不動産」「医療」など、それぞれに特色があるわけで、当社ではさまざまな経歴を持つ人材を、戦略的なバランスをもって採用しています。
さらには、性格タイプ。アセスメントや面接時の受け答えから、数タイプに分類しています。目標達成に向けて汗をかくことを厭わずに努力する「体育会系」、好奇心やチャレンジ精神が恐怖やリスク観念に勝る「挑戦者」、何かを突き詰めて探求する「凝り性」、人徳・人望で人々をリードする「親分肌」など、想定したバランスを満たしながら採用や組織編制を検討しています。
どれが優れているということではなく、多様であることそのものが、人の化学反応や組織としてのイノベーションにつながるのだと考えています。
でも、これだけは……
ここまで述べてきたように、計画的に多様性を取り込んではいるのですが、それでも絶対に譲れないのは当社の使命「M&A業務を通じて企業の存続と発展に貢献する」、そしてパーパス(存在意義)である「最高のM&Aをより身近に」への共感です。単に金もうけがしたい人は、日本M&Aセンターにはマッチしません。社会的使命感こそが当社の立脚点だからです。さらには、それらを実現するためのフィロソフィー(行動規範)。これは、採用面接時の評価項目ともなっています。
先日、ある候補者が面接で高い評価を受けました。能力や経験は申し分ありません。しかし、口頭で内定を伝えた後、実はその人物が現職の勤務時間中に当社の面接を受けに来ていたことが判明しました。これは現職において嘘をついているのみならず、給料をもらいながら転職活動をしているという背任行為でもあります。このような人物を当社のメンバーにすることはできません。いくら実務能力が高かったとしても、です。フィロソフィーに掲げた「正しいことを正しく」に合致しません。そこで、理由を説明し、内定を取り消させてもらいました。
このように、多様性を尊びながらも「これだけは……」という「束ね」を設けることにより、企業組織としての求心力や志を保つことができるのだと思います。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
多様性は明確な意思と意識によって仕込むもの
でも、「これだけは……」の束ねを忘れぬように!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
(ありが・まこと)81年 日本鋼管入社。97年 日本GM入社。部品部門デルファイの取締役副社長兼AP人事本部長。03年 三菱自動車常務執行役員人事本部長。ユニクロ執行役員を経て06年 エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長。その後、日本IBM理事、日本HP取締役人事統括本部長、ミスミ統括執行役員人材開発センター長。23年4月より現職。ミシガン大学MBA。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。