有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll”【第46回】
人事ケーススタディ(その3)
強烈な愛!
株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
“Warm Heart”
M&A仲介は日本M&Aセンターが生み出したビジネス・モデルであり、社外に即戦力となる人材が存在しないため、私たちは潜在能力が高い人材を採用し、鍛え育てなければなりません。これまで、当社が意識的・戦略的にさまざまな特性をもつ候補者を採用し、「多様性ある組織」と「自由な発想や挑戦を尊ぶ文化」を両輪に企業を構築していること、また、どのような思想で社員の処遇を考えているのかをお伝えしてきました。
その組織運営の要になっている価値観が、“Warm Heart”と“Cool Head”です。これは相矛盾する、対極にあるとも考えられるリーダーシップ要素を、両立させることを意味します。それは人材育成にも当てはまり、同じ内容を「論語と算盤」「パッションとロジック」「愛と戦略性」「右脳と左脳」などと呼んだりもします。
“Warm Heart”は愛と情熱をもってお客さまや社員や任務にあたることを、また“Cool Head”は冷静かつ論理的な思考によって戦略を構築し施策を実行することを指します。
日本M&Aセンターでは、2005年に初めて、新卒社員を数名採用しました。驚くのは、一流国立大学を卒業した一期生・二期生が、当時は社員20名程度のまったく無名の当社に入社したことです。また、彼らの中で今も在籍している40歳前後の社員たちが例外なく成長・活躍し、全員が執行役員以上になっていることです。
これは創業者の二人である、現在の名誉会長の分林と社長の三宅が、優秀な若者たちを見極めて採用し、情熱を注いで厳しく鍛え、一流のビジネスリーダーに育て上げたことを意味します。そこには、「お前を育てたいんや!」という強烈な愛が存在します。これこそが “Warm Heart” なのです。
社員は家族!
今、日本M&Aセンターグループは社員数1,200名を超える組織となりました。しかし、経営陣が社員に注ぐ愛には何の変化もありません。
私が日本M&Aセンターに入社した直後の3年前、少し長めの「5月病」にかかった新卒新入社員がいました。社会人となり、仕事で成果を上げられないことを悩んでいたのです。三宅社長は「俺が話す!」と言い、この若者と面談し、食事に誘いました。
私は驚愕しました。一部上場(当時。現在はプライム上場)企業の社長が、ここまで社員一人ひとりと直に向き合うことに、本当に驚かされたのです。
今年も、人事や組織に不満を持ったある新卒社員が、直接三宅社長にアポイントをとって意見したことがありました。本人の上司・上長や人事が知らない中でのことです。社長から直にその施策の背景や意図(長期での人材育成)を聞くことができたその社員は、「頑張ります!」と言って面談を終えたそうです。
これらはほんの一例であり、三宅社長は、幹部社員との合宿、各部長とのブレックファースト・ミーティング、中堅社員とのティーチ・イン(ラウンドテーブル)、全社員に向けた毎月の社長レター(毎回10ページ近く!)などに加え、頻繁に社内研修の教壇にも立っています。
これは、大家族や親子の関係に近いかもしれません。社長の三宅にとって、当社の社員は子供や孫のような存在なのでしょう。社員を成長させ、その家族も含めて幸せにすることが、彼自身の使命でもあります。口先だけの“Warm Heart”ではないのです。
それだけでは足りない?
ここでCHRO、そして人事部門として考えるべきことがあります。社長の三宅が愛を注いで社員を育成するという人材モデルを、社員数が増えても、また三宅が引退をした後も、どのように維持・継続・発展させて行くのか、ということです。
幸い、三宅社長の薫陶を受けた現在の役員たちは、まさに“Warm Heart”を体現しており、それぞれのやり方で社員を育て鼓舞しています。しかし、それだけでは足りないかもしれません。
そこで、“Warm Heart”と対になる、そして両立させるべき価値観である“Cool Head”が登場します。“Cool Head”は冷静な分析力や論理的な戦略構築を意味し、人材育成の仕組み作りに必須の要素です。
次回は、“Cool Head”で精緻に考え抜いた研修体系や営業部隊の組織設計にを紹介したいと思います。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
経営リーダーに必要な要素、
まずは愛だろ、愛!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
(ありが・まこと)81年 日本鋼管入社。97年 日本GM入社。部品部門デルファイの取締役副社長兼AP人事本部長。03年 三菱自動車常務執行役員人事本部長。ユニクロ執行役員を経て06年 エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長。その後、日本IBM理事、日本HP取締役人事統括本部長、ミスミ統括執行役員人材開発センター長。23年4月より現職。ミシガン大学MBA。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。