人事マネジメント「解体新書」第74回
多様な働き方が求められる時代、注目される“限定正社員”~具体的事例にみる制度の特徴と、運用面での工夫(後編)
『前編』では、「限定正社員」が求められる背景と、その雇用管理のあり方について見てきた。では、実際の企業の現場はどのような状況なのか?また、問題や課題に対してどのように取り組んでいるのか?『後編』では、「限定正社員」を活用していく上で、制度運用に工夫を凝らしている企業の事例を紹介していく。
「正社員転換制度」の実情
◆「限定正社員」志向は増加傾向にあるものの、転換実績はまだ十分ではない
事例紹介に入る前に、「限定正社員」の現状を見てみることにしよう。厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」をみると、ここ10年あまりの間、契約社員、パートタイム労働者、派遣労働者など非正規雇用の労働者のうち、「正社員になりたい者」の割合は、1999年の11.2%から、2003年19.4%、2007年22.5%、2010年22.3%と増加傾向にある。非正社員が「限定正社員」を志向する割合は、確実に増えつつあることがわかる。
このような働く人の意向に対して、受け入れ側の企業の状況はどうなっているのか。厚生労働省が実施した有期契約労働者やパートタイム労働者、派遣労働者などに対する調査結果をみると、これら非正規雇用の労働者に対して、正社員転換制度を導入している事業所は、有期契約労働者(52.0%)、パートタイム労働者(45.8%)については約半数を占めているが、雇用関係にない派遣労働者は12.7%と1割程度であった。
そして、正社員転換制度を導入している事業所のうち、実際に正社員転換の実績があるのは有期契約労働者42.9%、派遣労働者37.8%と4割程度となっている(残念ながら、パートタイム労働者に関しては実績を把握していない)。
これらの結果を見ると、正社員転換制度の導入割合、転換実績ともまだ十分とは言える状況ではない。しばらくは他社の状況を見て、導入を検討するという企業が多いと思われる。しかし、『前編』でも見たように、労働力不足が本格化する今後、人材確保・定着の手段として「限定正社員」を考えている企業は過半数を占めている。多様な働き方を進めるためにも、正社員転換制度を推し進め、「限定正社員」を導入していく動きは、今後、活発化していくのではないだろうか。次に、「限定正社員」を導入している企業事例を見ていくことにしよう。
■図表1:非正規雇用の労働者のうち「正社員になりたい者」の割合(%)
1999年 | 2003年 | 2007年 | 2010年 | |
全体 | 11.2 | 19.4 | 22.5 | 22.3 |
契約社員 | 19.0 | 29.5 | 39.0 | 43.1 |
臨時的雇用者 | 18.0 | 15.0 | 20.2 | 14.2 |
パートタイム労働者 | 6.8 | 17.4 | 16.8 | 16.5 |
派遣労働者 | 20.2 | 27.5 | 39.5 | 44.0 |
その他 | 14.1 | 27.3 | 29.7 | 30.9 |
出所:「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(厚生労働省)
■図表2:「正社員転換制度」を導入している事業所の割合(%)
ある | なし | 不明 | |
有期契約労働者 | 52.0 | 43.0 | 5.0 |
パートタイム労働者 | 45.8 | 50.3 | 3.9 |
派遣労働者 | 12.7 | 86.5 | 0.8 |
出所:「2011年有期労働契約に関する実態調査」「2011年パートタイム労働者総合実態調査」「2008年派遣労働者実態調査」(厚生労働省)
■図表3:「正社員転換制度」を導入している事業所のうち、実際に正社員転換の実績がある事業所の割合(%)
ある | ない | 不明 | |
有期契約労働者 | 42.9 | 39.8 | 17.4 |
派遣労働者 | 37.8 | 62.2 | 0.0 |
出所:「2011年有期労働契約に関する実態調査」「2008年派遣労働者実態調査」(厚生労働省)
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