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キーパーソンが語る“人と組織”

AIが雇用を変え、働き方を変え、社会を変える
“全人口の1割しか働かない未来”の幸福論とは(後編)

井上 智洋さん
(駒澤大学経済学部 准教授)

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考え得る最悪のシナリオを想定し、対策を示すのが研究者の使命

―― 暗黙知と呼ばれるものづくりのカンや、職人の熟練の技といったものはどうでしょうか。

意外かもしれませんが、それらはAIも得意とするところなんです。前回紹介したディープラーニングや強化学習と呼ばれる技術を応用すれば、複雑な作業をうまくこなすコツをつかんだり、高い精度や緻密さが求められる職人技を再現したりすることもできるようになるでしょう。今後、後継者不足に苦しむ伝統工芸などの分野では、貴重な技術・技能をロボットに継承させるようなことが起こるかもしれません。

井上智洋さん 駒澤大学経済学部 准教授

―― 井上先生のシナリオでは、AIがCMH以外の職業に従事する人の雇用を奪っていくと、いまから30年後の2045年ぐらいには「全人口の1割ほどしか労働していない社会」になるかもしれない、という近未来が描かれていますね。衝撃的な予測です。

2015年度の就業者数は、全人口のおよそ半分の約6400万人でした。総務省の労働力調査によれば、CMHの職業に対応する「管理的職業」「専門的・技術的職業」「サービス職業従事者」の合計は約2000万人です。前述したように、これらの職業でもAIはある程度人間を代替するので、そうなると生身の働き手は2000万人の半分、1000万人ぐらいしか必要とされなくなっても不思議ではありません。「人口の1割しか働いていない社会」という未来図は、こうした概算に基づくものです。もちろん、AIとの競争に敗れた残り9割の中にも仕事を持つ人はいるでしょう。しかしそれは、賃金もやりがいも低く、とても生計を立てていけるようなものではない可能性が高いと思われます。

ちなみに、前述したフレイとオズボーンの『雇用の未来』の分析に従えば、2030年頃には就業者はいまの半分になります。こうした予測はとかく扇情的に扱われがちですが、考え得る未来のシナリオの一つに過ぎません。1割しか働いていないというシナリオも、私が想定する中で最も極端なものです。しかし、極端だからといって議論もせずに、片づけてしまっていい話でしょうか。考えてみてください。わが国はいま韓国と並んで、世界で最も深刻な核攻撃の脅威に直面しています。にもかかわらず、核シェルターをつくろう、という議論にはなっていませんよね。世界的に見ると、これはかなり異常なことです。「何とかなる」とタカをくくってしまうのでしょうか、最悪のシナリオを常に想定しておくという心構えが、日本人にはなさ過ぎるように思えてなりません。

―― AIの未来に関しても、同じことが言えるということでしょうか。

いま日本で出版されているAI脅威論の本はすべて翻訳もので、日本人が書いたものはほとんどありません。日本では「AIとの共存」という識者が多く、もちろん私も共存できるに越したことはないと思っていますが、そんなに簡単にできるとも思っていません。みんながみんな、「共存できるだろう」で思考が停止してしまうのは良くない。AIが人間の脅威となる最悪のシナリオも想定し、対策を提唱するのが研究者の使命だと、私は考えています。汎用AIの普及の先に訪れる「全人口の1割しか働かない社会」で、一部が富を握って他は貧しくなるのではなく、全員が幸福に暮らしていくためには、現在の社会制度のあり方を大きく変革しなければならないでしょう。そこで私が導入すべきだと考えているのが「ベーシックインカム」(Basic Income,BI)です。BIとは、収入の水準に拠らず、すべての国民に最低限の生活費を無条件かつ一律に給付する制度で、生活保護のように世帯単位ではなく、個人を対象に給付されるのが特徴です。


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