企業研修、採用、評価、人材開発、労務・福利厚生のナレッジコミュニティ

キーパーソンが語る“人と組織”

AIが雇用を変え、働き方を変え、社会を変える
“全人口の1割しか働かない未来”の幸福論とは(前編)

井上 智洋さん
(駒澤大学経済学部 准教授)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
井上智洋さん 駒澤大学経済学部 准教授
21世紀は「人工知能(Artificial Intelligence,AI)の世紀」になると言われています。AIとは、人間の知的作業をコンピュータによって実現させる技術のこと。「2030年頃には、人間並みにさまざまな知的課題をこなす“汎用人工知能”が実現すると言われています。普及すれば、社会や経済のあり方は劇的に転換するでしょう」――そう予測するのはマクロ経済学者であり、AIの最前線にも精通する、駒澤大学准教授の井上智洋先生です。インタビュー前編では、技術革新の現状とともに、AIの進歩が経済構造や雇用・働き方にどのようなインパクトをもたらすのか、「技術的失業」という視点から解説していただきました。
Profile

いのうえ・ともひろ●慶應義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして、学会での発表や政府の研究会などで幅広く活動している。AI社会論研究会の共同発起人もつとめる。著書に『人工知能と経済の未来』(文藝春秋)、『新しいJavaの教科書』(ソフトバンククリエイティブ)、『リーディングス 政治経済学への数理的アプローチ』(勁草書房、共著)、『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞出版社)などがある。

テクノロジーは雇用を奪う、古くて新しい「技術的失業」の問題

―― 井上先生のご経歴は非常にユニークで、現在のご専門はマクロ経済学ですが、実は経済よりも先に、AIを学ばれていたそうですね。

はい。大学では計算機科学を専攻し、AIと認知科学に関するゼミに所属していました。AIを使って役に立つものをつくりたいとか、すごい発明をしたいとか、そういう技術的・工学的な興味からではありません。私はもともと人間という存在そのものに関心があり、哲学書を読んだりしていたのですが、それをもっと論理的に突き詰めたいと思ったことがきっかけです。人間とはいったい何なのか。哲学よりもAIについて学ぶほうが、人間を深く知ることにつながるのではないか、と。その後、システムエンジニアを3年近くやりましたが、やはり「役に立つものをつくろう」という意欲が乏しいのか、あまり向いていなかった(笑)。それで退職し、大学院から経済学を始めたのです。

―― なぜ、経済学を選んだのですか。

一つは当時、デフレ不況が長く続いていたので、原因を知りたいという思いがありました。もう一つの理由は現在の研究にもつながるのですが、システムエンジニアとして働いていたときに、何か「役に立つ技術」、たとえば新しい経理システムをつくると、生産性は向上するけれど、経理の人が失業してしまうんじゃないか、と思ったんですね。経済学でいう「技術的失業」の問題です。いまでこそ「AIは仕事を奪うのか」といった議論が盛んに行われていますが、当時はデフレによる雇用悪化が喫緊の課題だったせいか、誰も気に留めないテーマでした。しかしAI以前に、ITでさえ技術的失業をもたらすのではないか、というのが私の問題意識で、それは大学院に入って以降、ずっと変わっていません。

―― 「技術的失業」について、もう少し詳しく教えてください。

技術的失業とは、たとえば「銀行にATMが導入されて窓口業務が要らなくなる」とか「音楽データのダウンロード販売が普及した結果、CD販売店が廃業に追い込まれ、店員が職を失う」というような失業のことを言いますが、実は古くて新しい問題です。18世紀の英国から始まった第1次産業革命では、蒸気機関で動く織機や紡績機といった新しい技術が導入され、手作業で織物をつくっていた手織工と呼ばれる職人たちが失業しました。何しろ紡績機の普及は、1ポンドの綿花を糸に紡ぐのにかかる時間を500時間から3時間にまで短縮したといいますから、職人たちに勝ち目はありません。

ところが結局、技術的失業は一時的、局所的な問題にしかなりませんでした。なぜなら、職人たちはいったん失業したものの、工場労働者として吸収されたからです。機械の導入で綿布が安く供給できるようになると、それまで下着をつける習慣が無かった人々が綿の下着をつけるようになったりして、綿布の消費需要が増大しました。需要が増えた結果、工場労働者という新しい雇用が創出されたのです。資本主義の歴史の中では、このように新技術の導入が起こっても、既存産業が効率化して消費需要が増えるか、あるいは新しい産業が生まれ、そちらへ労働者が移動することで技術的失業は解消されてきました。

―― しかし、AIなどの発達がもたらすといわれる「第4次産業革命」においては、同じようにいかない、ということでしょうか。

消費需要が増えたり、新しい産業が創出されたりしても、それが結果として、技術的失業をカバーするような“人間の”労働需要の増大に資するとは限りません。人手不足どころか、人間の代わりにAIやロボットの需要ばかりが増えて、人間が雇用されなくなるという未来も、可能性としてはあります。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事にコメントする

この記事に対するご意見・ご感想のコメントをご投稿ください。
※コメントの投稿をするにはログインが必要です。

※コメントのほか、ニックネーム、業種、所在地(都道府県まで)がサイト上に公開されます。

※投稿をしたコメントは、『日本の人事部』事務局で確認後、掲載されます。投稿後すぐには掲載されませんので予めご了承ください。

キーパーソンが語る“人と組織”のバックナンバー

近藤宣之さん:
24年間リストラなし。お客様満足より社員満足
会社に大切にされている実感があってこそ、社員は力を出せる(後編)
「社長は社員にとってのサーバント(召使)であれ」という、日本レーザー 代表取締役社長 近藤宣之さん。なぜ人を大切にすることが会社の利益につながるのか。経営者とし...
2017/09/11掲載
近藤宣之さん:
24年間リストラなし。お客様満足より社員満足
会社に大切にされている実感があってこそ、社員は力を出せる(前編)
著書『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』で話題となった、日本レーザー 代表取締役社長 近藤宣之さん。「社員を大切にする」ことを経営...
2017/09/04掲載
森永雄太さん:
ただ「健康増進」を唱えるだけでは届かない 
健康経営を従業員のやる気につなげる「ウェルビーイング経営」の考え方(後編)
従業員の健康につながる施策に会社をあげて取り組む「健康経営」の考え方が定着しつつありますが、一方で若い人ほど「健康」という言葉を軽くとらえてしまいがちであるのも...
2017/08/09掲載

関連する記事

「人事部門内でメンバーにAI導入の意思がある」企業の割合は15.9%
人事部門内における人工知能(AI)の活用について複数選択形式で聞いたところ、最も多かったのは「人事内の特定のメンバーにAI導入の意思がある」で、15.9%。しか...
2017/07/19掲載人事白書 調査レポート
井上智洋さん:
AIが雇用を変え、働き方を変え、社会を変える
“全人口の1割しか働かない未来”の幸福論とは(後編)
「いまから30年後には、全人口の1割ほどしか働いていない社会になる」――AIの最先端に精通する駒澤大学准教授の井上智洋先生が描く未来図は衝撃的です。人手不足が深...
2017/07/14掲載キーパーソンが語る“人と組織”
HR Techで人事が変わる~AI・データ分析の基本と実例~ 提供:ワークデイ
HRカンファレンス2016秋で大好評だった、『HR Techで人事が変わる~AI・データ分析の基本と実例~』の全文記事をダウンロードできます。
2016/12/14掲載注目の記事
優秀な人材の流出を未然に防ぐ ~リテンション・マネジメントの最新技術とは~
「日本は雇用の流動性が低い」とよく言われます。「流動性が低いことは問題だから解雇規制の緩和を……」という議論にもつながっていくわけですが、本当にそうなのでしょう...
2015/10/05掲載注目の記事
安藤至大さん:
これから日本の「働き方」「雇用」はどのように変化し、
人事はどう対応していけばいいのか(前編)
今後重要なテーマになってくる「働き方」と「雇用」の問題に、人事部はどう対応していけばいいのか。労働経済学を専門とし、雇用労働問題に詳しい日本大学総合科学研究所准...
2015/08/03掲載キーパーソンが語る“人と組織”
中核を担う管理職を育成し、組織力を向上させる!管理職育成特集

会員として登録すると、多くの便利なサービスを利用することができます。

記事アクセスランキング

注目コンテンツ


『日本の人事部』ダイバーシティ&インクルージョン特集

D&I推進に取り組む企業様におすすめなプログラムをご紹介。ぜひ貴社のD&I推進にご活用ください。



『日本の人事部』管理職育成特集

管理職育成のための多彩なプログラムをご紹介。


【人事の日制定記念企画】
オピニオンリーダーからのメッセージ

HR領域のオピニオンリーダーの皆さまから全国の人事部門に向けてメッセージを頂戴しました。


人事メディア情報

人事メディア情報

人事・労務関連の代表的なメディアをご紹介いたします。


求人に特化した検索エンジンIndeedで自社採用HPへの集客を高め、「自立した採用力」を促す

求人に特化した検索エンジンIndeedで自社採用HPへの集客を高め、「自立した採用力」を促す

「企業が自社の「採用力」を高めていくためには、“自立した採用力”こそが...


顔と名前の一致”が組織を強くする<br />
 シンプルな仕掛けで人事・組織の課題を解決する「カオナビ」とは

顔と名前の一致”が組織を強くする
シンプルな仕掛けで人事・組織の課題を解決する「カオナビ」とは

企業は成長を目指すのが常ですが、成長するほど見えなくなってしまうものが...