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キーパーソンが語る“人と組織”

マタハラを克服すれば企業は強くなれる
人事担当者が知るべき、本当のマタハラ対策とは(前編)

小酒部 さやかさん
(NPO法人 マタハラNet 代表理事)

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小酒部さやかさん NPO法人 マタハラNet 代表理事
働く女性が妊娠・出産・育児を機に退職を迫られたり、嫌がらせを受けたりする「マタニティハラスメント」(マタハラ)。働く女性の中で正社員の五人に一人、派遣社員の二人に一人が経験し、妊娠中の嫌がらせによる流産・早産の危険性もあることから、その被害の実態は、よく知られる「セクハラ」よりも深刻だといわれています。2016 年8月には法改正が行われ、企業のマタハラ対策が義務化されました。しかし、義務化された部分だけ策を講じればいいという対処療法的な姿勢では、根本的な解決は難しいでしょう。「マタハラは、女性だけの限定的な問題ではありません。マタハラ対策をきっかけに労働環境の見直しを」と訴えるのは、NPO法人マタハラNet代表の小酒部さやかさんです。自身の受けたマタハラ被害の経験から支援活動に取り組み、昨年、アメリカ国務省主催の「世界の勇気ある女性賞」を日本人として初めて受賞した小酒部さんに、企業の人事担当者はマタハラ問題をどのように捉え、何をすべきなのか、貴重なご提言をいただきました。
Profile

おさかべ・さやか●1977年生まれ。「NPO法人マタハラNet」代表理事。自身の受けたマタニティハラスメント被害の経験をもとにマタハラNetを設立。マタハラという言葉を2014年の流行語になるまで普及させ、女性の全面的な職場参加を支援している。2015年、アメリカ国務省が主催する『世界の勇気ある女性賞』を日本人として初受賞。著書に『マタハラ問題』(ちくま新書)がある。

被害相談急増中! マタハラはなぜ“古くて新しい問題”か

―― 聞きなじみのなかったマタハラという言葉が2014年の流行語になり、来年1月には企業のマタハラ防止策が施行されるなど、小酒部さんが「マタハラNet」を設立されて以降、わずか2年余りの間にマタハラをめぐる状況は大きく変わりました。

たしかに法改正というところまで来たわけですから、この2年余りのスパンに限れば、すごくスピーディーな動きに見えるかもしれません。しかし、マタハラ自体は以前から潜在的にあった問題で、多くの女性たちが泣かされ続けてきたのにずっと置き去りにされていただけ。いわば“古くて新しい問題”なんです。現政権が女性活躍推進を掲げたことで、ようやくこの問題に光が当たり、セクハラ同様の防止措置義務を企業に課す、今回の法改正へとつながっていったのだと思います。

転機となったのは、マタハラNetを立ち上げて3ヵ月後の14年10月に出た、最高裁の判決でした。「妊娠による降格は違法である」とはっきり言い切り、最高裁までたった一人で頑張った広島県の理学療法士の女性に逆転勝訴をもたらした、画期的な判断です。翌年1月にはその最高裁の判断を受けて、厚生労働省が全国の労働局に、「女性が降格や解雇など不利益な取り扱いを受けた場合、その前に妊娠や出産をしていれば、原則として因果関係があると判断する」という通達を出しました。従来は「妊娠・出産、育児休業などを“理由”とした不利益な取り扱いは違法」だったのが、事実上、「妊娠・出産、育児休業等を“契機”とした……」に変わり、時期で判断されるように変わったのです。

―― 「理由」が「契機」にと、たった二文字の変更ですが、大きくて重い二文字ですね。

本当に大きかったです。「妊娠を理由とした」だと、企業側は「妊娠は理由じゃない」と言い逃れることができますからね。「理由はあくまでも業績悪化だ」とか、「そもそも本人に能力がないからだ」とか。そうなると、「いや、違う。妊娠が理由なんだ!」という立証責任は女性側に押し付けられ、通達前は、女性側に何らかの証拠がないと立証できないということになっていました。しかし、たいていの人は録音や書面などの証拠を残していません。結局、泣き寝入りするしかなかったのです。それがまず、司法から変わり、行政が動き、そして今回の法改正という形で立法も動いた。女性たちがようやく声を上げられるようになったという意味で、大きな一歩だったと思いますね。現に、全国の労働局に寄せられるマタハラ被害相談は急増しています。

―― いまや、働く女性の中で正社員の五人に一人、派遣社員の二人に一人がマタハラを経験していると言われています。マタハラNetへの被害相談も増えているのでしょうか。

マタハラという言葉の周知とともに、メールでの相談は徐々に増えてきましたが、感覚として相談が10件あったら、半分の5件は過去のものですね。「以前、こういうことがあったのだが、いまだに心が苦しい。そっとここに投稿させてほしい」と。もう半分は現在進行形ですが、特徴的なのは、ご自身の体験をひと通り書いた後、最後に「これはマタハラと言えますか?」と質問されるケースが非常に多いこと。ものすごく辛い体験をしていながら、それがマタハラにあたるかどうか、被害者自身も確信がもてないんですね。

先ほども言ったように、これまでマタハラ問題が顕在化してこなかったのは、女性が泣き寝入りさせられてきたからでした。妊娠・出産との因果関係の立証が難しいということもありますが、そこにはやはり女性自身の“後ろめたさ”という要因もあるんですね。妊娠したらそれまでのように残業はできないし、長期の産休・育休を取ることで職場に負担をかけてしまうことは、女性だって百も承知です。だからこそ、そんな迷惑をかけている自分が声を上げていいのだろうかと心が揺れるし、会社から「少しはまわりの迷惑を考えろ」とか「権利ばかり主張するんじゃない」と言われると、口をつぐんだほうがいいのかなとも思ってしまう。「これはマタハラと言えますか?」という女性たちの問いかけには、そうした後ろめたさや申し訳なさからくる、不安が表れているのです。


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