“2枚目の名刺”が若手を育て、シニアを活性化
楽しく学ぶ「パラレルキャリア」の人材育成効果とは(前編)
法政大学大学院 政策創造研究科 教授
石山 恒貴さん
シングルキャリアに依存するリスクに備える
シングルキャリアのリスクという意味では、低成長下で管理職ポストが減り、会社にしがみついていれば誰でも出世できる、という時代ではなくなってきました。
パラレルキャリアが注目される背景の一つには、それもあるでしょう。たとえば、企業に勤めながらNPO活動に参加している人は、20代、30代の若手が比較的多いのですが、最近は40代、50代のミドルシニア層も増えてきました。やはり日本型の長期雇用の中で“上”だけを目指してきた人にとっては、役職定年で地位を失ったり、組織のフラット化でポストが減ったりすると、喪失感が大きいんですね。滅私奉公で仕えてきた会社から裏切られたような気さえして、心のハリを失ってしまう人も少なくありません。会社から「上が詰まっていると若手がやる気をなくす」と言われてしまえば、やる気もなくなります。これでは個人も会社も不幸だし、職場のモラールは下がる一方でしょう。そういうときこそ、パラレルキャリアが効くんですよ。
NPOなどへの参加を通じて、社会や地域の課題を知り、そこに自らの新しい役割を見出すと、意欲を取り戻すきっかけになりやすい。本業への波及効果も期待でき、職場でも役職の有無に関係なく、いきいきとして働き方も変わってきます。実際、シニア社員を活性化するために、企業がNPOと組んで、パラレルキャリアの取り組みを研修に活用するといった事例も出てきていますからね。
個人だけではなく、企業も注目しているわけですね。パラレルキャリアが求められる背景として、他にも何かありますか。
シングルキャリアへの不安やリスクが高まる一方で、もう一つ大きいのは、社会の意識の変化です。NPOやプロボノの関係者から話を聞いて実感したのですが、とりわけ東日本大震災以降、もっと社会に関わりたい、何か貢献したいという気持ちが人々の間に広がっているんですね。昨年、内閣府が発表した平成26年度『市民の社会貢献に関する意識調査』によると、ボランティア活動に関心のある人は62.3%と、実に6割以上。実際に何らかの活動をした人も26.8%と3割近くにのぼり、一歩踏み出すきっかけさえあれば、多くの市民が社会活動に関与する可能性が示されています。でも実際には、その一歩がなかなか踏み出せない。仕事が忙しいからとか、子育てで手いっぱいだからとか、理由はいろいろだと思いますが、一番大きいのは、やってみたいけれど、何をどうすればいいのか、やり方がわからないということではないでしょうか。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。