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企業の海外展開の要諦
――グローバル・リーダーに求められる
「グローバル・マインドセット」をいかに醸成していくのか

早稲田大学 政治経済学術院 教授
トランスナショナルHRM研究所 所長

白木三秀さん

「グローバル人材」「グローバル・リーダー」を育てていくために必要なこと

いずれにしても、グローバル人材を育成していくには、相応の問題意識を持つことが重要ですね。

白木三秀さん  早稲田大学 政治経済学術院 教授、トランスナショナルHRM研究所 所長

問題意識を持てばどうにかしようとしますから、それを続けられる環境を準備することです。重要なのは、きっかけとシステマティックな方法を入れていくことです。例えば、大学であれば、学生全員を卒業するまでに1回は海外に行かせればいい。それも最低1ヵ月以上とか、できれば半年くらい。これは今の制度でも十分にできることです。大学の授業料を、年間で10万円増やせばできます。

要は、教育に対する費用をどう考えるかということです。良い教育をするにはそれなりの金額がかかるのです。だからこそ、いくら高くてもハーバード大学には、世界中から優秀な人材が集まります。

企業レベルでも、日本企業は教育にあまりお金をかけませんね。費用のかからない、OJTが一番だと思っている企業が未だに多いように思います。

教育にはお金がかかりますが、すぐにその効果が出てくるとは限りません。しかし、企業内教育を怠ると、長期的には人材は枯渇してしまいます。人材がいないと、経済的に発展できません。

企業の若い人たちを将来的に「グローバル・リーダー」としていくためには、どのようなアプローチが必要になるのでしょうか。

システマティックに「キャリアラダー」を考えることです。これから海外に行く社員に対して、多くの企業では「赴任前研修」を行っていますが、その期間は1週間程度。これで、現地で仕事ができる人材を育成できるわけがありません。語学もそうですが、マインドセットからして時間がかかります。

また、ミドルとトップでは違う能力が求められます。ミドル・マネジメントは秩序と整合性をもたらすものであり、トップ・マネジメントは変化と運動を引き起こしていくもので、その役割は対照的です。そのため、国内で秩序と整合性をずっと保つことに長けた優等生が、現地に行ってそれを乱すようなことが果たしてできるのかは疑問です。

海外でリーダーとなるためには、その前に小さくてもいいから、長期的なスパンでいろいろとリーダーとしての経験をさせていくことが必要です。社内でそういうプロジェクトを組むことができないのであれば、社外に出して経験を積ませることです。異業種でも構いませんし、小さな組織でもいいでしょう。大企業では得られない、経営的な責任者としての経験を積むことも大事だからです。トップ・マネジメントの仕事は、最終的な意思決定をすること。そして、自分自身が責任を持つことです。こうした経験をしていないで使われる側ばかりにいると、50歳になっても自ら意思決定することはなかなかできません。

理想はまず30歳前後で海外に赴任させて、そこで現地の外国人上司の下で働く経験をさせることです。その後、30代後半にミドル・マネジメントとして現地の部下を使う経験をさせてみる。そして、40代の半ばにトップ・マネジメントとして赴任する。このようにメンバー、ミドル、トップという立場の違うキャリアを海外で積ませるのです。このような人事ローテーションが「グローバル・リーダー」を育成します。また、海外で活躍した人は将来トップに上がれることを示し、ロールモデルを作っていくことも重要です。

これから先、「トップ・マネジメント」となる人材が育たない状況が続いた場合、トップは外国人で、「ミドル・マネジメント」以下が日本人となるようなことになるのでしょうか。

そこまで明確に分かれることはないでしょうが、外国人がトップとなるケースが増えていくことは十分に考えられます。そうしないと、海外のオペレーションにおいて、優秀な人材を採用できなくなるからです。日本とは違って、海外ではトップに就きたいと思う野心的な人材が、20代、30代にも大勢います。また、彼らは常に「トップ・マネジメント」としてのステップアップを考えています。これからは、そういうレベルの人材を採らないと、数十万人を抱えるグローバル・カンパニーを動かしていくのは難しいと思います。身近な例で言うと、日産自動車のカルロス・ゴーン氏などを挙げることができます。最近では、武田薬品工業が社長として、イギリスの医薬大手出身で先進国・新興国でステップアップしてきた47歳のクリストフ・ウェーバー氏を迎え入れたのが好例です。こうしたケースが、今後は増えてくるのではないでしょうか。さらに、海外でのM&Aが活発化していく中で、トップの扱いをどうしていくか、どのような企業体を取って経営を行っていくのかといったことが、将来的には日本企業の重要な課題となってくるでしょう。

最後になりましたが、5月に開催される「HRカンファレンス」では、グローバル人材の育成・マネジメントについて、参加者の方々と広く情報共有や意見交換を行いたいと思っています。当日、皆さまにお会いできるのを楽しみにしています。

本日はお忙しい中、「グローバル・リーダー」「グローバル・マインドセット」に関する貴重なご意見をうかがうことができました。ありがとうございました。

(2014年4月3日 東京・新宿区の早稲田大学にて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル グローバル人材・語学

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