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ウィズコロナのオンラインコミュニケーション再考
~誰もが参加できるルールづくりを~

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 上席主任研究員 水野 映子氏

ウィズコロナのオンラインコミュニケーション再考

2020年初めからの新型コロナウイルスの感染拡大により、オンライン上でおこなわれる仕事の会議や私的な会合・会話、講演・講義などのコミュニケーション(以下、オンラインコミュニケーション)が急増した。それを受け、当研究所が2020年9月に実施した「第3回 新型コロナ生活調査」(以下、2020年調査)では、当時のオンラインコミュニケーションの現状とその問題点などに焦点を当てた(注1)。

それから2年が過ぎ、オンラインコミュニケーションはさらに普及・定着した感があるが、そのあり方は変わったのだろうか。当研究所が2022年9月に実施した「第5回 新型コロナ生活調査」(以下、2022年調査)の結果と前述の2020年調査の結果(注2)を比較することにより、現状と2年間の変化を明らかにし、今後の課題を探る。

1.「顔の見えない」コミュニケーションの増加

まず、オンラインコミュニケーションの際に、顔の映像や音声を出さないことがどの程度あるかについて尋ねた結果を図表1に示す。

「会話の相手や会合などの参加者が顔の映像を出さずに話すこと」「自分が顔の映像を出さずに話すこと」がある(「よくある」または「ときどきある」)と答えた人は、2022年調査ではいずれも4割台であり、2020年調査より増えている。ビデオ通話の機能があっても通信容量やプライバシーの観点から映像を出さない・出せないことがあり、映像を出さないルールが適用されている会合もあるが、そうした“顔の見えない”コミュニケーションが、2年前より増えたことがわかる。

同様に、「自分が声を出さずに(マイクをミュートにして)参加すること」があると答えた人も2020年調査より増え、2022年調査では4割を超えている。

図表1

2.通信上の問題ほどコミュニケーション上の問題は改善せず

次に、オンラインコミュニケーションをおこなう際の問題について、通信上の問題およびコミュニケーション上の問題という2つの面での現状と変化を図表2に示す。

通信上の問題として「映像が途切れたり、見えにくくなったりすること」「音声が途切れたり、聞こえにくくなったりすること」があると答えた人は、2022年調査でも4割前後を占めているが、2020年調査に比べるとそれぞれ6ポイント、10ポイントほど減っている。オンラインコミュニケーションにおいて映像や音声が途切れるという技術的な問題は、2年間で改善に向かったと考えられる。

一方、コミュニケーション上の問題である「話すタイミングが難しい」「会話の相手や会合などの参加者の反応がわかりにくい」「誰が話しているのか、声で判断しにくい」と感じることがあると答えた人は、2022年調査においてはそれぞれ49.5%、44.2%、34.6%となっている。それらの割合は、2020年調査に比べるといずれも若干減ったものの、前述の通信上の問題に比べると両調査でのポイント差が小さい。

前述のように、オンライン上では相手の顔を見ないでコミュニケーションすることがある。また、顔が見えたとしても、画面上ではアイコンタクトがとれず、特に参加者が多い場合は相手の表情などが把握しづらいこともある。そうしたことが、相手の「反応がわかりにくい」一因となり、さらには人数が多いと「誰が話しているのか声で判断しにくい」「話すタイミングが難しい」ことにつながる。これらの問題は、映像や音声が途切れるという通信上の問題ほどは改善されていないことがうかがえる。

図表2

3.反応ボタンなどを使う方法は浸透していない

このように、相手に反応が伝わりにくいオンラインコミュニケーションでは、それを補うために反応を示すボタン(スタンプ)やチャットなどの機能が使われることがある。また、映像を出せる場合にはうなずきやジェスチャー、音声を出せる場合には声で反応を示すという方法もある。さらには、発言の意思表示のために挙手したり挙手ボタンを使ったりする、誰が発言しているのかを明確にするために発言者が名乗るという方法もある。

では、それらの方法は実際にどの程度使われているのだろうか。図表3で2022年調査の結果をみると、相手の話に対して映像や音声、すなわち「うなずき・ジェスチャーなどの動き/あいづちなどの音声で積極的に反応を示すこと」や、「話し始める時に自分の名前を名乗ること」があると答えた割合は、それぞれ4割前後であった。また、「話したい時に手を挙げたり、挙手ボタンを使ったりすること」「相手の話に対して、反応ボタン・チャットなどの機能で積極的に反応を示すこと」があると答えた割合は、それぞれ3割に満たなかった。これらのうち、2020年調査で設けた4項目の割合は、2年間でほとんど変化していない。オンラインコミュニケーションにおいて身振りや音声、ボタン・チャット機能などで反応を積極的に示す人は、2年間でほとんど増えなかったといえる。

図表3

4.「誰一人取り残さない」コミュニケーションを目指して

以上の通り、本稿では2020年と2022年に実施した調査をもとに、オンラインコミュニケーションの状況や問題点の2年間での変化に注目した。その結果、“顔の見えない”“声の聞こえない”コミュニケーションが増えたことや、相手の反応がわかりにくいなどの問題はさほど解消されていないこと、またそれを補うために何らかの方法で反応を示すなどの行為は浸透していないことが明らかになった。

新型コロナウイルスの感染拡大初期に比べれば、3年近くが過ぎた今、オンラインコミュニケーションのあり方は改善されてきた。だが、前述のように問題もまだ多く残っている。また、感染の収束とともにおこなわれるようになった、対面(オンラインではないリアル)とオンラインの併用、いわゆるハイブリッドの会合では、オンラインでの参加者が取り残されがちになるという問題も生じている。それらの問題をどう解消するか、今後も検討していく必要がある。

コロナ禍においては、多くの人がコミュニケーションの不便さや難しさに直面した。筆者は、これを機に、コロナ禍以前からコミュニケーションに参加しにくかった人々のことも考慮に入れながら、「誰一人取り残さない」コミュニケーションのあり方を考えることを提唱してきた(注3)。そのうち、2020年調査の結果をまとめた拙稿(前出の注1)では、視覚障害者がオンラインだけでなく対面でも相手の表情や発言者の把握が難しいことを、例として取り上げた。そして、彼らが参加する会合で推奨されてきた、音声で情報や意思を伝える、発言者は名乗るなどのルールを、一般のオンラインコミュニケーションでも適用することを提案した。

これらは一例であるが、より多くの人がコミュニケーションに参加しやすくなるために、工夫できること・すべきことは他にもある。会合や会話などに参加しづらさを感じている人や取り残されている人がいないかどうか、また自らもそうなっていないかどうかを見直しながら、コミュニケーションの方法やルールを再考したり、新しいルールをつくったりすることを、改めて提唱したい。

株式会社 第一生命経済研究所

第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
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【用語解説 人事辞典】
NVC(非暴力的コミュニケーション)
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アサーションを実践するために
ローカス・オブ・コントロール
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アンカリング効果
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