「2025年の崖」の克服に必要なDX、正社員の5割弱は就業に不安あり
ディップ株式会社
【調査概要】
調査主体:ディップ株式会社
調査手法:インターネット調査(GMOリサーチ「Japan Cloud Panel」利用)
調査実施時期:2021年4月28日(水)~2021年5月5日(水)
対象者条件:47都道府県在住の15~69歳の男女のアルバイト・パート、正社員、契約社員、派遣社員の就業者
有効回収数:11,896サンプル(アルバイト・パート4,726サンプル、正社員4,766サンプル、契約社員1,193サンプル、派遣社員1,211サンプル)
本レポートについて
2018年9月7日、経済産業省は「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」を発表し、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が進まなければ「2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警告しました。 このレポートがDXが注目されたきっかけの一つとなっていますが、新型コロナウイルスの流行もまた、DXを大きく加速させるきっかけとなっています。 それにより、日々の生活や仕事のなかでも、さまざまな場面でDXを体験する機会が増えてきています。
たとえば、キャッシュレス決済やセルフレジはこの数年で利用者が拡大し、業務の効率化だけでなく利用データを活用したマーケティングが活発になっています。その他にもバーチャルリアリティ(VR)を利用した体験や購買活動など、業界を問わず多くの場面でDX化が進んできています。
仕事においても、電子印鑑などの導入によるペーパーレス化やテレワーク、オンライン会議などの変化を感じている方もいるのではないでしょうか。 DX化が進むことで働く人の環境も変わり、雇用にも影響が出てくることが予想されます。 就業者がどのようにDX化について予測しているのか、仕事への影響を探るとともに、今後DX化が進むことによる就業への不安についても調査しました。
本レポートでは、正社員の就業者に焦点をあててお届けします。
DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称です。「Transformation」は「X-formation」と表記されるため、頭文字を取ってDXと略されています。
DXの定義は、経済産業省が発表した「DX 推進ガイドライン Ver. 1.0」※1で、以下のように記載されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
ITが一般の社会に浸透していくことで、人々の生活を良い方向に変革させるという考え方を表しています。ITとDXの関係は、「DX」は目的、「IT」は手段と言えるでしょう。組織のIT化を積極的に推進することで、DX化の実現につながるというプロセスです。※2
※1.経済産業省 デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0 2018年12月
※2.DX化とは?IT化との違いと推進することで得られるメリット
DX化による仕事への影響予測
DXは国を挙げて推し進めているものですが、正社員として就業している人は実際にDXの進展について、現在どのように予測しているのか見ていきましょう。
「DX化は進むと思う」7割弱
67.7%が「DX化は進むと思う」と回答しており、7割近くの人が今後DXが進展することを予測しているようです。 一方で、「DX化は進まないと思う」という回答は2割弱に留まっています。
現在の自身の仕事は「DX化され、人が対応しなくなると思う」4割
DX化が進むことによる「仕事への影響」について、4割以上が「仕事はDX化され、人が対応しなくなると思う」と回答しました。 どのくらいの仕事がDX化されると思うかに注目すると、「すべての仕事」「ほとんどの仕事」と回答したのは合わせて1割以上、「ある程度の仕事」は3割となっています。 この数年のうちに現在のすべての仕事がDX化されると感じている人の割合は低いものの、人が対応する業務には変化があると予測しているようです。
一方で、現在の仕事はあまりDX化されず「人が対応するままだと思う」と予想している人も、「仕事はDX化される」と同程度の4割います。 また、「わからない」という回答も1割強あり、現在の自分の仕事に対しDX化がどのような影響や変化を与えるのか、あまりイメージが湧かない人もいるようです。 DX化が過渡期にあるということを物語る調査結果ではないでしょうか。後に同様の調査を行った場合、就業者のDX化への印象や影響にも変化が見られそうです。
n数が80以下となる職種もあるため参考値にはなりますが、職種別に見てみましょう。 「人が対応しなくなると思う」との回答が多い職種は「イベント」「軽作業」「IT・エンジニア」「オフィス」、一方「人が対応するままだと思う」との回答が多い職種は「警備」「清掃」「保育」となっています。
世の中の仕事は「DX化が進み、仕事の数が減ると思う」3割
DX化が進むことによる世の中の「仕事の数の増減」について、どのように予測しているのか見ていきましょう。
DX化が進むことによる「仕事の数の増減」についての正社員の予測をみると、「DX化は進む」という正社員の回答のなかで最も多かったのは「仕事の数は減ると思う」29.1%でした。
他の雇用形態と比較してみると、正社員以外では35%を上回っています。 「DX化は進み、仕事の数は減ると思う」割合が最も高い派遣社員と比較すると、8ポイントの差がついています。 正社員は、DX化が進むことで仕事が減るというイメージは他の雇用形態よりも抱いていないようで、「DXは進み、仕事の数は増えると思う」という回答も正社員のみが1割を超える結果となっています。
DX化が進むことへの不安や懸念
DX化による仕事への影響予測を明らかにしましたが、では、どの程度の人が就業に不安を感じているのでしょうか。
DXが進むことで「就業への不安がある」5割弱
正社員では、DX化が進むことで就業への「不安がある」との回答が47.5%と、半数近くを占めました。 なかでも「やや不安がある」が40.1%で、さほど深刻ではないものの、多少の不安を感じている人が大半のようです。 他の雇用形態と比較すると、正社員は不安に感じている割合が最も低く、最も高い派遣社員とは10ポイント以上の差が生じています。
前出と同様、n数が80以下となる職種もあるため参考値にはなりますが、次は職種別のデータを見てみましょう。ほとんどの職種で「不安がある」と回答した割合は4~5割となっていますが、「イベント」は63.6%と不安に感じている割合が高く、一方で「IT・エンジニア」は34.2%と圧倒的に低い結果となっています。
前出の職種別に見た「就業中の仕事への影響」のデータと照らし合わせて見てみると、イベントや軽作業など「人が対応しなくなると思う」割合が高いものは、就業への不安度合いも高い結果となっていますが、 保育など「人が対応するままだと思う」割合が高い場合でも、就業への不安度が高いものもあります。 IT・エンジニアに関しては、「人が対応しなくなると思う」割合は高いですが、不安の度合いは最も低くなっています。
これらの結果から見ると、「現在の仕事がDX化される程度」やそれにともなう「人が対応する仕事量の変化についての予測」は、今後の就業への「不安度合い」と相関関係はないように見受けられます。
次に、年代ごとに傾向や特徴があるか見ていきましょう。 男女で比較すると、女性の方が男性より不安に思っている割合がどの年代も高くなっていることがわかりました。 年代別で見ていくと、60代は性別の全体と比較してそれぞれ1割ほど低い結果となっています。 それ以外の年代では、割合にさほど大きな差は見られませんでした。
「DX化が進んで欲しい」という声もある一方、「ついていけるか」など不安な声が多数
次に求職者の声を見ていきましょう。
今後、DX化が進むことについての就業者の声を見ていきましょう。 ポジティブな意見では、「進んでほしい」「作業が楽になるので良いと思う」「効率化されて良い」といった声が挙がりました。 なかには、「DX化が進めば効率的な仕事ができそうなので不安というより歓迎」といった薬剤師の方からの声など、不安よりも仕事が効率化されることへの期待が伺えるものもありました。
その他は、さまざまな観点で不安に感じる声が多く寄せられており、比較的多かったと感じるものは、「漠然とした不安」「ついていけるかどうかの不安」「仕事がなくなる不安」の3つでした。 それ以外では、「仕事の減少」「人材確保」「給与の減少」「セキュリティー」「トラブル・メンテナンス」「コミュニケーション機械の減少」「スキルに関する不安」が挙げられています。
DXへの関心が高まったのは2020年以降、認知度は3割強にとどまる
前出のフリー回答から、DXの理解やイメージがあまりできていない人も少なくない印象を受けました。 今回はDXの説明を記載したうえで調査を行ったため、認知に関しては尋ねていないことから「Googleトレンド」のデータや、外部調査データを用いてDXの関心や認知度について見ていきましょう。
Googleトレンドを用いて、「デジタルトランスフォーメーション」というキーワードの検索推移を見てみました。 2016年以降で最も検索が多かった時期を100とした相対グラフになっています。
2016年から2021年現在までの過去5年間を見ると、右肩上がりで推移しており、関心が高まっていることが見受けられます。 検索数は2017年頃から増えはじめ、2020年の1月頃から急激に上昇しています。 「デジタル庁(仮称)」も2021年9月1日に創設予定となっており、DXへの関心が今後さらに高まるきっかけの1つになるのではないでしょうか。
株式会社ネオマーケティングが実施した調査によると、DXを「詳しく知っている」もしくは「名前は聞いたことがある」と回答した人は、全体で35.7%ということがわかりました。
企業規模別に見ると、企業規模が大きいところほど認知度が高くなっていることがわかりますが、1,000人以上の企業でも5割を下回る結果となっています。
また、「詳しく知っている」と回答した割合は1割以下、1,000人以上の企業でも2割弱にとどまっています。 前出のGoogleトレンドのデータを踏まえると、年々DXへの関心の高まりを感じる一方で、言葉の意味や背景など正しく内容まで浸透していない状況が伺えます。
DX推進の背景と実現へのステップ
これまでの調査結果を踏まえると、正社員で就業している人の7割弱がDXが進むことは感じているものの、DXに関して正しく理解している人はあまり多くないことがわかりました。
ここで、改めてなぜDXを推進していく必要があるのか、その背景と目的、実現までのステップについて見ていきましょう。
DX推進は、変化する社会の中で国内の企業が勝ち抜き生き残っていくための策
<補足>
・DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~ → 以下、「DXレポート」と記載
・デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0 →以下、「DX推進ガイドライン」と記載
DXが推進される理由や背景について、経済産業省が公表している「DXレポート」と「DX推進ガイドライン」に記載されている内容を見ていきましょう。
あらゆる産業において、新たなデジタル技術を利用してこれまでにないビジネス・モデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きつつある。 こうした中で、各企業は、競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)をスピーディーに進めていくことが求められている。
上記を言い換えると、デジタル技術の進歩によりビジネスの従来の枠組みやルールが崩壊し、新たなものに切り替わり始めているようです。 そのようなめまぐるしく変わっていく社会の中で、日本国内の企業が勝ち抜き生き残っていくためにDXを進め、新たなデジタル技術を活用した新しいビジネス・モデルを創出するなど、柔軟に改変できる状態を実現することが求められていると経済産業省は提言しています。
2025年の崖
前出で取り上げたDXの理由と背景のなかで「スピーディーに進めていくことが求められている」とありますが、どれくらいのスピード感で進めていくイメージなのでしょうか。
ここでは、それを説明していくうえで必要な「2025年の崖」について簡単にふれていきます。
2018年9月7日に経済産業省が公表した、DXレポートの中に「2025年の崖」という言葉が出てきます。 レガシーシステムと呼ばれる「複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存のITシステム」を使い続けた場合、2025年までに想定される「IT人材の引退」や、「サポート終了」などによるリスクの高まりに伴い、DXが実現できないだけではなく、甚大な経済損失が生じる可能性があると経済産業省は警鐘を鳴らしています。算出されている推定金額は、なんと2025年以降年間で最大12兆円(2018年の約3倍)。 そしてこれらの問題を「2025年の崖」と表現しています。 そのため、2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要があると言われています。
DXはいきなりできない。実現するためには踏むべきステップがある
DXはいきなりできるものではなく、実現するためには踏むべきステップがあります。 流れとしては、デジタイゼーション→デジタライゼーション→DXの順です。(必ずしもデジタイゼーションから進める必要はなく、既にできている場合はデジタライゼーションからでも問題ありません。)
「デジタイゼーション」はアナログ・物理データをデジタルデータにすることを意味しており、例えば紙で管理していたものを電子化することなどが挙げられます。 「デジタライゼーション」は個別の業務・製造の「プロセス」をデジタル化することを意味しています。例えば、メールで行っていた資料共有をクラウドにアップロードすることなどが挙げられます。 この二つのステップを経ることでDXの土台を築き、新たな価値の創造や企業としての価値を高めていくことにつなげます。
このようにDXの実現には踏むべきステップがあるため、いきなり進むといったことはありませんが、前出の就業者の声の中で「どのように変わっていくのかがわからない」「ついていけるか不安」といった就業者の不安な声も多数あったことを考えると、理想だけが先行したDX計画で現場を置き去りにしないことや、DX推進のビジョンやステップを共有するといったことも必要ではないでしょうか。
「自動化できる」「人が対応するのは非効率」と思う業務がある 6割
前出でDXの実現ステップについて取り上げました。ここで、現在の業務のなかで「デジタルツールなどで自動化できると思う」「人が対応するのは非効率だと感じる」業務がどれくらいあるのか見ていきましょう。
現在の業務について伺ったところ、「デジタルツールなどで自動化できると思う業務がある」69.8%、「人が対応するのは非効率だと感じる業務がある」62.2%、となり、どちらも半数を超える結果となりました。 どのくらいの業務が該当するのか注目してみると、「ある程度の業務にあてはまる」という回答が大半を占めています。 このような業務から、DX化は今後進んでいくことになるのでしょう。
n数が80以下となる職種もあるため参考値にはなりますが、それぞれ職種別に見ると、ほとんどの職種で「あてはまる」という回答が半数を超えていることがわかりました。 「人が対応するのは非効率だと感じる業務」では「軽作業」「警備」「コールセンター」、「デジタルツールなどで自動化できると思う業務」では「IT・エンジニア」「コールセンター」「オフィス」に従事している人の7割が、「あてはまる」と回答しています。
さいごに
今回のレポートでは、正社員として就業している人の「DXの予測と仕事への影響」や「今後DX化が進むことによる就業への不安」などを明らかにしました。
明らかになったこと
現在の業務と、DX化による仕事への影響予測
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DXは「進むと思う」67.7%
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現在の自身の仕事は「DX化され、人が対応しなくなると思う」44.1%、「人が対応するままだと思う」40.1%、「わからない」15.8%
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世の中の仕事は「DX化が進み、仕事の数が減ると思う」29.1% 正社員は他の雇用形態よりも仕事が減るイメージはやや低い結果に
DX化が進むことへの不安や懸念
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DXが進むことで「就業への不安がある」47.5%
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DX化が進んで欲しいという声がある一方、ついていけるかなど不安な声が多数
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DXへの関心が高まったのは2020年以降
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DXを「詳しく知っている」8.8%
DX推進の背景と実現へのステップ
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DX推進は、変化する社会の中で国内の企業が勝ち抜き生き残っていくための策
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「複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存のITシステム」を使い続けた場合、2025年以降の経済損出は年間で最大12兆円(2025年の崖)
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DXの実現には踏むべきステップがあり、デジタイゼーション→デジタライゼーション→DX
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現在の業務において「自動化できると思う業務がある」69.8%、「人が対応するのは非効率だと感じる」 62.2%
今回はDXについての説明を記載したうえで調査を行い、7割弱がDXは「進むと思う」という結果が得られましたが、DXの認知度に関する外部の調査結果ではDXを「詳しく知っている」は8.8%と1割を下回る結果も出ていることから、意味や背景など内容がまだ世の中にしっかりと浸透していない状態であることが推測できます。
DXが進むことによる就業の不安については、正社員以外の雇用形態は5割を超えていますが、正社員は5割弱とやや低いようです。
職種別では、IT・エンジニア職の人たちは他の職種よりも不安に感じている割合が低くなっていました。やはり、ITやデジタル技術などへの感度が高く、DXが進むことによる変化についてもある程度予測できていることが考えられます。「イベント」「軽作業」「オフィス」については「人が対応しなくなると思う」と「就業に不安がある」のどちらも5~10ポイント以上高い結果でした。
就業者の声では、DXは進んで欲しいというポジティブなものもありましたが、「どのように変わっていくのかがわからない」「ついていけるかわからない」などの不安に関するものが多数挙げられていました。
DXを社内で円滑に進めていくためには、理想だけが先行したDX計画で現場を置き去りにしないことや、DX推進のビジョンやステップを共有するといったことも必要ではないでしょうか。その他のDXに対する就業者の意見も参考にしていただき、これからのDX計画や、現在の計画の見直しにお役立ていただけますと幸いです。
調査設計・分析:ディップ総合研究所 ディップレポート編集課 川上由加里
執筆者:ディップ総合研究所 ディップレポート編集課 太田瑠美子
当社は、「私たちdipは夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる」を企業理念と掲げ、夢や目標に向け情熱を捧げる人々を応援する様々な取り組みや活動を展開し、社会課題の解決と持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
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