今春から改正健康増進法が全面施行!
企業がどこまでできる!?仕事中・私生活上の喫煙制限
弁護士
岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
3 休憩時間、通勤時間などにおける禁煙
(1)事業場内
労働者は、休憩時間中、労働から解放されて、休憩時間を自由に利用することができますが、事業場内での秩序維持義務まで免除されるわけではありません。最高裁判例においても、労働者は、使用者の企業施設管理権や企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れないと判示されています(電電公社目黒電報電話局事件・最高裁昭和52年12月13日判決。休憩時間中の事業場内におけるビラ配布行為を制限する就業規則の合理性を認め、懲戒戒告処分を有効とした)。
また、通達においても、「休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加へることは休憩の目的を害さない限り差し支へないこと。」とされています(昭和22年9月13日・発基第17号・法第34条関係(三))。
以上を踏まえて、休憩時間中であっても、企業の敷地内においては、使用者の施設管理権および企業秩序維持権限に服し、敷地内禁煙とされていれば、それに従う義務があると考えられます。
(2)事業場外
敷地外には使用者の施設管理権は及びませんが、上記最高裁判例は、「また、従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない。」と判示しており、労働者は、事業場外でも、使用者の企業秩序維持権限に服し、必要性や合理性の認められる範囲で喫煙規制に従う義務があると考えられます。
最も、その必要性や合理性は、労働時間中や企業の敷地内に比べて、厳格に判断されるものと考えられ、労働者の自由に対する配慮が一層要請されます。
企業などの具体的な取り組みの例としては、参考1のようなものがあります 。
実施団体 | 取り組みの例 |
---|---|
すかいらーくグループ | 本社従業員の通勤路での歩きタバコや会社周辺のコンビニ前などでの喫煙を禁止(ただし,罰則は設けない)。 |
生駒市(奈良県) |
「喫煙した職員は,45分間,エレベーター利用禁止」とする受動喫煙対策を平成30年4月1日から導入。 ※喫煙後の息に含まれる有害な成分を周囲の人が吸い込むこと(三次喫煙・サードハンドスモーク)を防ぐ目的で,喫煙者の喫煙後の息(呼気)に含まれる「総揮発性有機化合物」(Total VOC)の濃度が通常レベルまで減るには45分かかるという産業医科大学などによる研究の結果を踏まえたもの。 |
北陸先端科学技術大学院大学(石川県) | 平成29年10月1日より敷地内全面禁煙とし,さらに喫煙してから45分間は敷地内への立入りを禁止。教職員・学生に加え来学者も対象。 |
ティーペック株式会社 | 約260名のスタッフが全員禁煙,2年9ヵ月で喫煙率0%を達成し現在も維持。来訪者にも喫煙後45分以降の入室を求める。 |
喫煙後も呼気(息)から有害な成分が出続け、他者に迷惑や苦痛を及ぼすことを踏まえれば、休憩時間中に「他の労働者の休息を妨げてはならないこと」、また、休憩後の勤務時間に「他の職員の職務集中の妨げとなるおそれがあること」を理由に、休憩時間中の喫煙についても禁止することが正当とされる場合もあると考えます。
アルコール飲酒の場合では、出勤前や休憩時間といった労働時間外に企業秩序維持権限が及ばないといった主張は通用しません。当然、後続の勤務時間における悪影響や支障を考えます。喫煙に関しても、後続する勤務時間における他者への悪影響や業務への支障を考慮すべきです。
また、休憩時間中または通勤中に、勤務先企業が容易に特定されるような態様で、路上喫煙禁止条例に違反して喫煙し、勤務先企業の社会的評価を毀損(きそん)するおそれがあるような場合も、必要性および合理性が認められ、使用者が喫煙を制限し得ると考えられます。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。