悪質クレームに対応する
従業員ケアの必要性と対策
弁護士
村上 元茂(弁護士法人マネジメントコンシェルジュ)
8. 対応責任者の決定
対応責任者は、上記㋐クレームの原因となった事実関係と㋑要求内容との関係で決定します。複数の店舗を有する飲食店を例にすれば、以下のような基準を作って運用・決定するということが考えられます。
クレームの原因となった事実関係自体が不存在または不明である場合
(例:提供された食事に虫が入っていたと主張するものの、対象物品は完食してしまっているうえ、虫の存在は確認できない場合) → 現場の社員を対応責任者とし、要求を拒絶してよい
クレームの原因となった事実関係が認められるうえ、要求内容が同等品の提供である場合
(例:提供された食事に虫が入っていたと主張し、実際に皿の中に虫の存在が認められた場合で、同じ料理を新しく作り直してほしいという要望であった場合) → 現場の社員を対応責任者とし、作り直しという決定をしてよい
クレームの原因となった事実関係が認められるが、要求内容が金銭的要求・社長との面談・謝罪文の掲載等同等品提供以外の請求内容である場合
(例:提供された食事に虫が入っていたと主張し、実際に皿の中に虫の存在が認められた場合で、慰謝料として10万円支払ってほしいと求められた場合) → 現場従業員においては回答せず、本社の専門部署(法務部等)を対応・責任者として対応を引き継ぎ、回答も同部門から行う
9. クレーム対応連絡書の活用
以上の通り、クレーム対応によるストレスから従業員を開放するためには、クレーム内容に応じて対応責任者を明確にし、各自の役割に沿った対応を徹底することが肝要です。そこで、複数の関与者間での情報(特に初期対応段階における情報)共有と今後のクレーム対応のための情報蓄積のために活用されるのが、クレーム対応連絡書(クレーム対応報告書、クレーム対応メモ等、名称はさまざま)です。
クレーム対応連絡書には、当該クレーム情報を共有するために最低限必要な事項を全て網羅する必要があります。
具体的には、
- クレーム主体の個人情報
- いつ(クレームの原因となる事実関係の発生日時。クレームの発生日付とは分ける)
- どこで(クレームの原因となる事実関係が発生した場所)
- 誰が
- 誰により(または何により)
- どの程度の、またはどのような損害を受けたか
- クレーム主体が損害を発見した経緯はどのようなものであったか
- その損害は現在どのようになっているか
- クレーム主体の要求内容
- 回答期限等、クレーム対応過程において、クレーム主体との間で行った約束
を必須記載項目とし、必要に応じて項目を加えます。
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