「社外からの 社外への」×「セクハラ パワハラ」対応策
弁護士
岸田 鑑彦(杜若経営法律事務所)
6 パワハラ報告書
上記パワハラ報告書においても、顧客や取引先からの著しい迷惑行為について議論された内容が記されています。特に、流通業界や介護業界、鉄道業界では、顧客や取引先からの暴力や悪質なクレーム等の著しい迷惑行為については、労働者に大きなストレスを与える悪質なものがあり、無視できない状況にあることが指摘されています。
一方で、これらの問題については、消費者問題や経営上の問題として対応すべき性格のものであり、労働問題として捉えるべきなのか疑問であるため、職場のパワーハラスメントについては職場内の人間関係において発生するものに限るべきとの意見も示されています。このように、社外パワハラの取扱い、位置付けについては、国の見解も一致していないことがわかります。
また、職場のパワハラとの違いとして、「(1) 職場のパワーハラスメントと比べて実効性のある予防策を講じることは一般的には困難な面がある。(2)顧客には就業規則等事業主がつかさどる規範の影響が及ばないため、対応に実効性が伴わない場合がある。(3)顧客の要求に応じないことや、顧客に対して対応を要求することが事業の妨げになる場合がある。(4)問題が取引先との商慣行に由来する場合には、事業主ができる範囲での対応では解決につながらない場合がある。(5)接客や営業、苦情相談窓口等顧客等への対応業務には、それ自体に顧客等からの一定程度の注文やクレームへの対応が内在している。」ということも指摘されています。
結局のところ、社外パワハラも社外セクハラも、社内との相違点があるものの、上記5で紹介した裁判例にあるように、使用者が安全配慮義務を負っていることには変わりがないため、社外からのセクハラ・パワハラであっても、ケースごとに使用者としてでき得ることをしなければならないということに尽きるといえます。
【執筆者略歴】
●岸田 鑑彦(きしだ あきひこ)
平成21年弁護士登録(第一東京弁護士会)。杜若経営法律事務所(旧狩野・岡・向井法律事務所)パートナー弁護士。労働事件の使用者側の代理を務める。なかでも労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。社会保険労務士、企業向けの研修講師を年間30件以上務めるほか、「ビジネスガイド」、「先見労務管理」、「安全と健康」、「労働新聞」等数多くの労働関連紙誌に寄稿。著書に「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)がある。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。