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勤務時間限定正社員/勤務地限定正社員/職務限定正社員
タイプ別 限定正社員の制度設計

野口&パートナーズ法律事務所 弁護士 野口 大/弁護士 大浦 綾子

7. 転換制度

(1)転換制度とは

非正規社員と通常の正社員の中間に限定正社員があるとして、非正規社員から限定正社員になる場合、限定正社員から正社員になる場合、および通常の正社員から限定正社員になる場合の3パターンの転換制度を検討することになります。

転換制度については、一般に以下のような点を検討する必要があります。

ア 転換制度への応募資格をどうするか
育児介護休業法の要件を満たす社員だけにするのか、一定要件を満たした社員だけにするのか、全社員を対象とするのか等を検討します。

イ 転換要件をどうするか
転換を申し込んだ社員に登用試験を実施するのか、書類選考とするのか等を検討します。

ウ どの程度の期間、転換を認めるか
一定期間のみ転換を認めるのか、無制限に認めるのかを検討します。

エ 転換の回数に制限を設けるか
制限を設けるのか、何回でも転換して元に戻れるようにするかを検討します。

オ 転換時期を例えば年1回とするか、随時にするか
なお、2の(2)で詳述した通り、限定正社員制度のうち、短時間正社員や残業免除等正社員制度は育児介護休業法との関係を意識する必要があります。育児介護休業法上の制度は「育児介護休業等規程」を設け、勤務時間限定正社員制度は別途「限定正社員就業規則」として規定するのであれば、制度設計は自由です。しかし、育児介護休業法上の制度を取り込む形で「限定正社員就業規則」を規定するのであれば、育児介護休業法に抵触しないか(要件や制度内容が2の(1)で述べた育児介護休業法上の制度より下回らないか)に留意する必要があります。

(2)限定社員から正社員、非正規社員から限定正社員への転換の規定例および留意点

限定正社員から正社員への転換に関する就業規則例は【例3】の通りです。非正規社員から限定正社員への転換制度についても、この例文を「正社員→限定正社員」、「限定正社員→非正規社員」と読み替えることで応用できます。

ア [1](応募資格)について
一定要件を満たした社員だけにするのか、全社員を対象とするのかを検討する必要があります。

一定要件としては、「勤続△年以上」「△級以上であって資格等級△級に△年以上在任した者」「店長が推薦する者」等のバリエーションが考えられます。

イ [2](転換要件)について
登用試験を実施するのか、書類選考とするのか、面接を実施するのかを検討する必要があります。また、合格に必要とされる能力等の要件を詳細に記載するのか、内規にとどめるのか(非開示とするか)も検討する必要があります。

なお、労働者の昇進または職種の変更の際に転勤要件を設けることは、「合理的理由」がなければ禁止されます(男女雇用機会均等法7条、同施行規則2条2号)。正社員の転勤実績があまりないにもかかわらず、正社員への転換要件として全国転勤可能であることを必須の要件とすると、間接差別として違法となることがあります。

ウ [3](転換時期)について
随時登用するのか、一定期日を設定するのかを検討する必要があります。

【例3】

(転換)

第3条  正社員になることを希望する限定正社員は、○月○日までに、所定の申請書を会社に提出しなければならない。

2 前項の申請をする限定正社員は、係長級以上であって、資格等級2級に2年以上在任したものであること[1]

3 会社は、申請者について原則として毎年1回登用試験を実施し、試験に合格した者[2]を、4月2日付で正社員に認定[3]し、人事通知書により通知するものとする。

(3)正社員から限定正社員への転換の規定例および留意点

正社員から限定正社員への転換に関する就業規則例は【例4】の通りです。

ア [1](転換目的)について
 育児・介護目的に限定するのか、もう少し広げるのか(ボランティア活動への参加、夜間大学への通学等)、目的無限定にするのかを検討する必要があります。

イ [2](期間)について
 一定の期間制限を設けるのか、期間の制限を設けないのかを検討する必要があります。

ウ [3](回数制限のパターン)について
 何回転換できるのか、何らかの制限を設ける場合と、設けない場合があります。規則例では回数制限を設けていません。

エ [4](応募資格)について
 一定の資格制限を設けるのか、特に設けないのかを検討する必要があります。

オ [5](時期)について
 随時認定していくのか、一律「△月△日に限定正社員と認定」とするのかを検討する必要があります。規定例は、随時認定するパターンです。

【例4】

(転換)

第3条  正社員が、家庭の事情その他何らかの私的事由[1]により、一定期間あるいはその時点以降定年まで[2]、限定正社員への転換を希望する場合は、3ヵ月前までに所定の申請書を会社に提出しなければならない。この場合の一定期間は1年を下回らない期間とする。[3]

2 前項の申請をする正社員は、勤続1年以上の者に限る。[4]

3 勤務時間限定正社員の1日の所定労働時間は、6時間を下回らないこととする。

4 会社は、人事面接等を行った結果、転換を認める場合、限定正社員に認定し、人事通知書により通知するものとする。[5]

5 限定正社員から、勤務条件を限定すべき事情が消滅したとして、正社員への転換の申出があった場合であって、会社が問題ないと認めたときには、本人との協議のうえで転換の日を決めて、正社員への転換を認めるものとする。

8. 求人・労働条件明示

限定正社員の場合、勤務地や職務、労働時間に限定があることとなります。「多様な正社員に係る『雇用管理上の留意事項』等について」(平26.7.30基発07300第1号)によれば、勤務地・職務または勤務時間の限定についても、労働契約法4条により「できるだけ書面で確認するもの」に含まれ、また限定正社員を採用する場合の他、正社員と限定正社員との転換の場合も、同条による「書面による確認に含まれること」に留意が必要とされています。

法的義務でないとしても、紛争予防のためにも明確に明示するべきでしょう。

「勤務時間限定」の場合の求人票や労働条件通知書の記載例
記載箇所 記載例
例1 始業・就業の時刻、所定時間外労働の有無 始業9時、終業16時
所定時間外労働 無
例2
(シフトによる場合)
始業・就業の時刻、所定時間外労働の有無 労働時間は1日6時間とし、各勤務日の始業・終業時刻は、前月20日までにシフト表により定める。
所定時間外労働 無
例3
限定を期間限定とする場合
始業・就業の時刻、所定時間外労働の有無 始業9時、終業16時
所定時間外労働 無
ただし、採用から○年が経過した後は、始業9時、終業17時30分、所定時間外労働 有とする。
「勤務地限定」の場合の求人票や労働条件通知書の記載例
記載箇所 記載例
例1 就業の場所 ○○事業所の○○課とする。なお、【会社の定める地域内において】他の事業所での勤務を命じ、部署や担当業務の変更を命じることがある。
※ 【会社の定める地域内において】をより詳細に記載することもよい。
例(1) 【近畿ブロック(大阪、兵庫、京都、滋賀、奈良、和歌山)内にて】
例(2) 【採用時の居住地から概ね通勤時間1時間30分以内のエリア内にて】
例2
限定を期間限定とする場合
就業の場所 ○○事業所の○○課とする。なお、他の事業所での勤務を命じ、部署や担当業務の変更を命じることがあるが、採用後○年間については、【会社の定める地域内において】のみこれらを命じるものとする。
※ 【会社の定める地域内において】の記載例については例1も参照。
「職務限定」の場合
記載例
例1 従事すべき業務の内容 商品の販売業務とする。なお、本契約における「従事すべき業務の内容」はこれに限られるものとし、当該業務が廃止された場合または当該業務以外の業務を命ずべき場合は、本契約は終了するものとする。

転換時の明示

あなたを、平成30年○月○日付けで、○○限定正社員と認定し、同日以降の勤務条件は次の通りとします。
…以下は労働条件通知書と同じ要領で記載…

『ビジネスガイド』は、昭和40年5月創刊の労働・社会保険の官庁手続、人事労務の法律実務を中心とした月刊誌(毎月10日発売)です。企業の総務・人事・労務担当者や社会保険労務士等を読者対象とし、労基法・労災保険・雇用保険・健康保険・公的年金にまつわる手続実務、助成金の改正内容と申請手続、法改正に対応した就業規則の見直し方、労働関係裁判例の実務への影響、人事・賃金制度の構築等について、最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2017年12月号の記事「勤務時間限定正社員/勤務地限定正社員/職務限定正社員 タイプ別 限定正社員の制度設計」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページへ。

【執筆者略歴】

◎野口 大(のぐち だい)
弁護士。野口&パートナーズ法律事務所代表。野口&パートナーズ・コンサルティング(株)代表取締役。1991年京都大学法学部卒業、2002年ニューヨーク州コーネル大学ロースクール卒業(人事労務管理理論を履修)。経営法曹会議会員。企業法務、特に労使紛争に熟知し、数多くの団体交渉や対労基署交渉、労働裁判を専ら会社側の立場で手がける弁護士として全国的に著名。紛争案件のみならず、会社の一員として社内文書・メールを作成したり、従業員説明会・社員面談・産業医との折衝等をきめ細やかに行って紛争を未然に予防するコンサルティングを得意としており、北海道から沖縄まで全国の多数の企業の顧問・社外役員等を務める。著書「労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応」(日本法令)は、人事労務・総務担当者必携のベストセラー。

◎大浦 綾子(おおうら あやこ)
弁護士。野口&パートナーズ法律事務所パートナー。野口&パートナーズ・コンサルティング(株)チーフコンサルタント。2003年京都大学法学部卒。経営法曹会議会員。2004年より、法律事務所にて経営者側の立場で、解雇、パワハラ、残業代をめぐる裁判・労働審判等を数多く担当。2009年からの2年間は米国留学と外資系企業における企業内弁護士(人事部担当)を経験。一貫して経営者の立場で労務関係の予防法務・紛争解決を担当。人事労務に関する豊富な知識をもとに、「性別・年齢を問わず、誰もが活躍できる職場づくり」をめざす企業へのアドバイス、社内研修にも力を入れている。講演依頼も多く、緻密かつソフトな語り口でファン層が拡大している。

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この記事ジャンル 限定正社員

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