勤務時間限定正社員/勤務地限定正社員/職務限定正社員
タイプ別 限定正社員の制度設計
野口&パートナーズ法律事務所 弁護士 野口 大/弁護士 大浦 綾子
4.「勤務時間限定正社員(残業免除正社員、深夜残業免除正社員、時間外労働制限正社員)」の制度設計
(1)賃金減額の程度について
残業免除正社員等については、そもそも賃金を減らすべきか否かという検討をする必要があります。残業の対価は残業代であり、残業免除、深夜残業免除、時間外労働制限ということは残業代が出ない(または残業時間が制限されている)だけであるから、通常の正社員とまったく同一の賃金テーブルを適用するという考え方もあり得ます。そのような設計をしつつ、正社員の突発的な残業もできる限りなくすという方向性が理想ですし、そのような制度を採用している企業も多数あります。
もちろん、社内的に不公平感が強い場合には格差をつけることも可能であり※5、基本給を若干減らすとか、逆に通常の正社員には特別な手当(残業負担の可能性に対する手当)を支給するという方法もあり得ることが、有識者懇談会報告書でも述べられています。
※5:育児介護目的の制度利用者について、あまり不合理な格差をつけ過ぎると育児介護休業法上の「不利益取扱い」となる危険性があります。
(2)労働条件について
その余の労働条件については、3の勤務時間限定正社員(短時間正社員、勤務日数限定正社員)と同様ですが、3の勤務時間限定正社員よりも一層強い意味において通常の正社員と同様の取扱いをすることが妥当と思われます。
5. 勤務地限定正社員の制度設計
(1)賃金減額の程度について
勤務地限定正社員については、そもそも賃金を減らすべきか否かという検討をする必要があります。現実に転勤負担が生じた場合に手当を支給すれば足り、通常の正社員とまったく同一の賃金テーブルを適用するという考え方もあり得るからです。
もちろん、不公平感がある場合には格差をつけることも可能であり※6、基本給を若干減らすとか、逆に通常の正社員には特別な手当(転勤負担の可能性に対する手当)を支給するという方法もあり得ることが、有識者懇談会報告書でも述べられています。
なお、考え方の方向としては、通常の正社員についての転勤の在り方(辞令があれば、社員の個別同意なくどこでも転勤に応じるという社員の在り方)を見直すべきと言えます。平成29年3月30日に厚生労働省雇用均等・児童家庭局が公表した「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」にも、転勤が私生活に大きな影響をもたらすものであることを指摘したうえで、転勤は必要性の高いものに限定をすること、本人の意向を尊重すること等が推奨されています。私生活との両立を考慮して、一定期間の転勤拒否権を与えたり、社内公募制を原則としたりすること等も検討するべきです。むしろ、通常の正社員を勤務地限定正社員に近づけるのが、時代の流れではないかと思います。
※6:育児介護休業法には勤務地限定という制度はないので、勤務時間限定正社員のような育児介護休業法上の「不利益取扱い」となることはありません。
(2)労働条件について
その余の労働条件については、3の勤務時間限定正社員(短時間正社員、勤務日数限定正社員)と同様ですが、 3の勤務時間限定正社員よりも一層強い意味において通常の正社員と同様の取扱いをすることが妥当と思われます。
(3)事業場閉鎖と整理解雇について件について
勤務地限定正社員の中でも特に特定の事業場限定の場合、当該事業場がなくなれば当然に解雇できるというわけではありません。整理解雇の4要素として、解雇回避努力というものがあるのですが、勤務地限定社員であったとしても可能な範囲で解雇回避努力を行うべきという裁判例が多いからです。
例えば、東洋水産川崎工場事件・横浜地裁川崎支部平成14年12月27日決定(労判847-58)は、川崎工場閉鎖に伴い、勤務場所が川崎に限定されていた社員を整理解雇した事案ですが、「就業場所が川崎工場に限定されていても、使用者はできる限りの雇用確保の努力をすべきである」と判断し、またシンガポール・デベロップメント銀行(本訴)事件・大阪地裁平成12年6月23日判決(労判786-16)も「大阪支店に勤務場所が限定されていたが、これは同意なく転勤させられないというだけであって、使用者に転勤させない利益を与えるものではない」と判断しています。
6.「職務限定正社員」の制度設計
職務限定正社員については、賃金水準は職務の難易度に応じた水準とするべきでしょう。職務によっては通常の正社員よりも高い待遇となることもあるでしょうし、補助業務に限定する場合には、低い待遇となることもあり得ます。
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