勤務時間限定正社員/勤務地限定正社員/職務限定正社員
タイプ別 限定正社員の制度設計
野口&パートナーズ法律事務所 弁護士 野口 大/弁護士 大浦 綾子
2. 限定正社員と育児介護休業法
(1)育児介護休業法の規定※1
育児介護休業法上、育児・介護中の社員は、所定の要件を満たせば、一定期間「所定外労働の制限」「時間外労働の制限」「深夜業の制限」「所定労働時間の短縮」を求めることができます。詳細は以下の通りです。
ア 所定外労働の制限
子が3歳に達するまで、請求があれば、所定労働時間を超えて労働させてはなりません(16条の8第1項)。免除の請求は1月以上1年以内の間を明らかにして、開始予定日の1ヵ月前までにする必要があります(16条の8第2項)。請求に回数の制限はありません。
要介護状態にある対象家族の介護をする社員についても、同様です(16条の9)。
イ 時間外労働の制限
子が小学校就学の始期に達するまで、請求があれば、1月24時間、1年150時間を超えて労働時間を延長してはなりません(17条)。請求の仕方等はアと同様です。
要介護状態にある対象家族の介護をする社員についても、同様です(18条)。
ウ 深夜業の制限
子が小学校就学の始期に達するまで、請求があれば、深夜に労働させてはなりません(19条)。免除の請求は1月以上6ヵ月以内の期間を明らかにして、開始日の1ヵ月前までにする必要があります(19条2項)。
要介護状態にある対象家族の介護をする社員についても、同様です(20条)。
エ 所定労働時間短縮等の選択的措置
子が3歳に達するまで、請求があれば、1日の所定労働時間を原則として6時間とする所定労働時間短縮の措置を設けなければなりません(23条1項)。請求の仕方等については、アないしウの制度のような決まりはなく、企業ごとに定めるべきものですが、利用する社員に過重な負担とならいように配慮すべきです(育児介護休業法施行通達第9-4(4)ニ)。
業務の性質または業務の実施体制に照らして短時間勤務の措置を講じることが困難と認められる業務に従事する者について、労使協定により短時間勤務制度の適用除外とした場合には、これらの者に対して、フレックスタイム制、1日の所定労働時間を変更しないでの始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、保育施設の設置運営のいずれかの措置を講じなければなりません(23条2項)。
要介護状態にある対象家族の介護をする社員についても、請求があれば3年以上の期間における(1)所定労働時間の短縮、(2)フレックスタイム制、(3)始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、(4)介護サービス費用の助成の一つを(4)をのぞき2回以上利用できる措置を講じなければなりません(23条3項)。
※1:ここに述べる者の他、妊産婦には、労働基準法66条2項により、法定休日労働免除も認められていますが、妊産婦への対応は期間が限られているもののため、本稿での検討の枠外としています。
(2)限定正社員制度と育児介護休業法上の制度との関係
限定正社員制度のなかで、育児介護休業法上の制度と関係してくるのは、勤務時間限定正社員のうち、短時間正社員や残業免除等正社員となります。それらの制度を設計する場合、育児介護休業法上の制度とは別枠とする(育児介護休業法上の制度は「育児介護休業等規程」として規定し、それとは別に「勤務時間限定正社員就業規則」を規定する)のか、一体のものとして制度構築する(育児介護休業法上の制度を取り込む形で「勤務時間限定正社員就業規則」を規定する)のかを検討する必要があります。
ア. この点、何が正解というものはありませんが、あまりにも多くの社員が短時間正社員等を選択すると業務に支障を来すおそれがある、あるいは試験的に限定正社員制度を導入するということであれば、育児介護休業法上の制度は既存のものを維持しつつ、別枠で特例的な制度として限定正社員制度を構築することとなります。その場合の限定正社員制度は、育児介護休業法を意識せず、業務上の都合と社員のニーズを判断しながら自由に構築することとなります。
イ. 逆に、もっと積極的に限定正社員を導入するということであれば、育児介護休業法の要件を満たした社員以外にも所定外労働の制限等を利用できる社員の範囲を広げ(どこまで広げるかは各社の自由です)、または育児介護休業法上の制度よりもより社員に有利で使いやすい制度として(どこまで有利にするかは各社の自由です)、育児介護休業法上の制度を上回る限定正社員制度を構築することとなります。それが実現できれば、適用手続や労働条件等が育児介護休業法上の制度利用者と、限定正社員制度利用者で統一されることとなります。制度を1本化し、あらゆる社員が育児介護休業法の制度と同様の制度(または育児介護休業法を上回る制度)を「限定正社員制度」として利用できるようにすれば、育児介護負担のある社員も心理的に制度を利用しやすくなるという利点もあります。この場合の限定正社員制度は、最低限度育児介護休業法上の制度を上回る内容として構築することとなり、具体的留意点は以下のようになります。
[1]短時間正社員や残業免除等正社員制度について、育児・介護目的の場合には6時間勤務、深夜業免除、所定労働時間外労働免除、時間外労働の制限(1ヵ月24時間、1年150時間まで)という働き方を選べる制度にすることが必要です。
[2]短時間正社員や残業免除等正社員制度の利用(転換)のタイミングについても、育児・介護目的の深夜業免除、所定労働時間外労働免除、時間外労働の制限については、1ヵ月前までに申し出れば利用できるようにする必要があります。例えばすべての社員について随時転換できるという制度にすれば、育児介護休業法と抵触はしませんが、すべての社員について毎年4月1日にしか転換を認めない制度とすれば、育児介護休業法と抵触してしまいます。
[3]短時間正社員や残業免除等正社員制度利用資格についても、育児・介護目的の場合には、育児介護休業法の要件を満たしている以上、労使協定で除外されていない限り、それ以上資格を要求することはできません。例えばすべての社員について申出があれば認める(応募資格を要求しない)という制度にすれば、育児介護休業法と抵触はしませんが、すべての社員について勤続年数や資格等級要件を満たすことを応募資格として要求する制度にすると育児介護休業法と抵触します。
[4]短時間正社員や残業免除等正社員制度利用期間についても、育児目的の場合には、子が3歳に達するまで、または小学校に就学するまで、介護目的の場合には要介護状態である限り利用できます。よって、例えばすべての社員について特に期間制限を設けないという制度にすれば、育児介護休業法と抵触はしませんが、すべての社員について制度利用期間に短い期間制限を設けると育児介護休業法と抵触します。
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