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タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第7回】
「新たな人事」にむけて:新型コロナ対応でテレワーク中の社員に、人事が今こそ届けるべきメッセージとは?

法政大学 教授

田中 研之輔さん

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ

令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。

タナケン教授があなたの悩みに答えます!

皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
プロティアン・ゼミは7回目になりますが、ゼミがスタートした時点では想定もし得なかったことに私たちは直面しています。

私たちが今、直面していることとは、新型コロナウィルスの猛威による「働き方」の歴史的な転換です。

まず、次の6点を意識して、働き方をシフトしなければなりません。

働き方の新しいスタイル
①テレワークやローテーション勤務
②時差勤務でゆったりと
③オフィスはひろびろと
④会議はオンライン
⑤名刺交換はオンライン
⑥対面での打合せは換気とマスク

(出典:厚生労働省ホームページから一部抜粋 田中作成 2020)

「ゆったり」「ひろびろ」「オンライン」。誰もが即座に理解できる平易な言葉でまとめられた「新しい働き方」は、これまでの働き方の前提を大きく見直す「大胆」な提案です。

私は、この転換は働き方のマイナーチェンジではなく、働き方のフルモデルチェンジになると判断しています。

緊急事態宣言が解除されたとしても、「見えない敵」である新型コロナウィルスとの「戦い」は続きます。長期戦です。「新たな働き方」にシフトできない企業は、経営を存続できないほどに大きなダメージを被ることになります。

「新たな働き方」へのシフトは、「新たな人事」なしでは成し遂げることができません。現在導入されているテレワークやローテーション勤務は、「暫定的な対応」として多くの社員には理解されています。

この「暫定的な対応」期間に、「働き方」を支える人事部が、迅速に「新たな人事」施策を構築していかなければならないのです。これからプロティアン ・ゼミでも、「新たな人事」について考えていくことにします。それも机上の空論ではなく、現場にすぐに取り入れることができるように具体的な内容を共有していくことにします。

さて、その入り口として今、向き合うべきなのは、次の質問です。

Q.新型コロナ対応でテレワーク中の社員に、人事が届けるべきメッセージとは何でしょうか?

皆さんは、どのようなメッセージを届けますか?

私が人事の立場なら、「今こそ、ビジネス資本を集中的に蓄積するように」とメッセージを発していきます。

その理由は、主に二つあります。

一つ目の理由は、ワークコミュニケーションのシフトです。オフィスでの対面ワークをテレワークで全て代替することはできません。オフィスでの日常的なやりとりを、そのままテレワークに持ち込むのであれば、社員は疲弊します。対面ワークとテレワークとは異なるものだと理解し、人事としてはそのようなメッセージを発信するように心がけます。

二つ目の理由は、産業構造の転換です。いずれの業界のいかなる職種であれ、変化への適合(アダプト)が求められているからです。新型コロナ・パンデミックは、産業構造の転換をもたらします。私は毎朝、東京商工リサーチと帝国データバンクの倒産データの詳細を確認しています。コロナ・パンデミックによる産業構造の転換を、感覚的なものとしてではなく、既存の事業構造の市場淘汰として目を背けることなく、把握するためです。人事は希望的観測で施策を講じることはできません。市場の動向や産業構造の転換の中で、適切な施策を講じるべきなのです。

この二つの状況点を社員に伝えた上で、今こそ、ビジネス資本の集中蓄積に取り組むようなメッセージを届けていきます。

今こそ、ビジネス資本を集中的に蓄積するように

そこで復習です。ビジネス資本については、第4回のゼミ「本当は違う仕事をしたいとき、今の仕事とどう向きあい、何を準備すればいいの?」で解説しました。ビジネス資本がイメージできない方は、確認しておいてください。
理解できている方は、さらに、細かくビジネス資本の内訳をみていきましょう。

項目 資本の分類 資本の内訳
1 毎日、新聞を読む ビジネス資本 ビジネスリテラシー
2 月に2冊以上、本を読む ビジネス資本
3 英語の学習を続けている ビジネス資本
4 テクノロジーの変化に関心がある ビジネス資本 ビジネスアダプタリティ
5 国内の社会変化に関心がある ビジネス資本
6 海外の社会変化に関心がある ビジネス資本
7 仕事に限らず、新しいことに挑戦している ビジネス資本 ビジネスプロダクティビティ
8 現状の問題から目を背けない ビジネス資本
9 問題に直面すると、解決するために行動する ビジネス資本
10 決めたことを計画的に実行する ビジネス資本
11 何事も途中で投げ出さず、やり抜く ビジネス資本
12 日頃から、複数のプロジェクトに関わっている 社会関係資本 組織外活動
13 定期的に参加する(社外)コミュニティが複数ある 社会関係資本
14 健康意識が高く、定期的に運動している 社会関係資本
15 生活の質を高め心の幸福を感じる友人がいる 社会関係資本 心理的幸福
合計数

(出典:田中研之輔 『プロティアン−70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』(日経BP 社 2019)

ビジネス資本は、(1)ビジネスリテラシー、(2)ビジネスアダプタビリティ、(3)ビジネスプロダクティビティの三つからなります。

  • (1)ビジネスリテラシーとは、さまざまなビジネスシーンで問われる論理的思考力の基盤となるもので、日々の情報収集と継続的な学習から形成されます。
  • (2)ビジネスアダプタビリティとは、さまざまな変化に関心を持ち、変化に対応する適応力から形成されます。
  • (3)ビジネスプロダクティビティは、ビジネスシーンでのさまざまな問題から目を背けず、問題解決するために行為遂行する力を養うことで形成されます。

ビジネス資本は、日々のルーティン業務をただこなしているだけでは、決してバランス良く増やしていくことができません。仮に増やせたとしても、それは例えばビジネスプロダクティビティの部分だけが蓄積されるといったように、非常に偏ったものになります。大切なのは、全体のバランスを俯瞰しながら、戦略的に資本を蓄積することです。

現在のテレワークで、ビジネス資本を戦略的に蓄積できているか、それぞれチェックしておいてください。

その上で、「新たな人事」として求められるのは、ビジネス資本を蓄積していく上でのキャリア開発支援です。

リモートワークで対面でのワークフローをこなしていく働き方をモニタリングするのではなく、ビジネス資本の蓄積を促していく戦略人事が、歴史的変化に直面した今、必要なのです。

  • 勤務時間の中で、例えば毎日1時間、ビジネス資本形成の時間を設ける
  • 新たなビジネス資本蓄積に向けた必要コストを、企業内でキャリア開発育成補助金として用意する
  • キャリア資本の蓄積過程を、1on1などでメンタリングする機会を提供する

例えば、これらのキャリア開発支援施策を打ち出していくことが、テレワークをしている社員のモチベーションの維持や向上にもつながります。

在宅勤務に関する制度の見直しも進み出しました。リコーやベネッセコーポレーションは、在宅勤務で残業代を支払う仕組みを導入しました。カルビーは成果主義の報酬体系を活用して、在宅での多様な働き方を可能にしています。(日経新聞 2020/5/16)

テレワークを前提とした人事評価へと舵(かじ)をきる企業も、これから増えてくることが予想されます。目の前の変化に対して、変幻自在に適合し、自ら主体的にキャリア形成をしていくプロティアンな働き方が今、求められているのです。


田中 研之輔さん(法政大学 教授)
田中 研之輔
法政大学 教授

たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。2008年に帰国し、現在、法政大学キャリアデザイン学部教授。専門はキャリア論、組織論。<経営と社会>に関する組織エスノグラフィーに取り組んでいる。著書25冊。『辞める研修 辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。社外取締役・社外顧問を18社歴任。新刊『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』。最新刊に『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』


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キングペンギンさんが共感できるでオススメしました
東京都 HRビジネス 2020/05/29

 

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