事業会社での幅広い経験を生かして、
コンサルティング会社へ転身
多様な人事の専門家を率い、顧客の課題を解決
マーサー ジャパン株式会社
鴨居達哉さん
「人事コンサルティング」に求められる要素、期待が変わってきた
世界最大級の人事コンサルティング会社である貴社から見て、現在の日本の「人事コンサルティング業界」「人事コンサルティング」についてどのようにお感じになっていますか。
ここ数年、人事コンサルティングに求められる要素、顧客が期待する内容が大きく変わってきていると思います。まず、ビジネスの環境変化が非常に速くなっていて、短期間で課題を解決しなくてはなりません。また、人事コンサルティングのサービスを受けて、顧客自身がそれに伴って変革し、ビジネスの成果につなげて業績を向上させるようにすることが我々の役割ですから、成果・実績に結び付けるという「実利」の部分に対しての期待が大きくなっていると認識しています。
こうした期待に応えるために、コンサルタントに求められる要素も以前とはかなり変わってきています。コンサルティングにはいろいろな手法、ツール、考え方のフレームワークがあるわけですが、必ずしもそれが正しいわけではなく、課題に応じて臨機応変にサービスを提供することが必要です。また、すぐに成果を出すことが求められるため、緻密にさまざまな事象を積み上げて、時間をかけて分析してコンサルティングを行うよりは、少し大ざっぱでもいいので、短時間である程度の方向性と施策を決めるようにしなければなりません。
また、顧客との「緊密度」が非常に増しているとも感じます。これまでは顧客の課題があって、それに対してコンサルタントがお手伝いをするといったように、どこかに一線を引いている関係性でした。現在では、顧客と一緒になって課題について考えた上で、成果を出す形に変わってきています。
そうした中で、貴社の「強み」は何でしょうか。
当社は人事、組織を中核領域に持つコンサルティング会社ですが、扱う領域の幅が非常に広いことが特徴です。そして、それに対応する多様なバックグラウンドを持ったタレントがいることが強みです。
当社が扱っている領域は、大きく分けて「戦略的な組織・人事変革コンサルティング」「グローバルM&Aコンサルティング」「グローバル人材マネジメントコンサルティング」「資産運用コンサルティング」「年金コンサルティング」「健康・福利厚生コンサルティング」「インフォメーション・ソリューション」の七つです。それぞれの領域で専門のメンバーが在籍しています。メンバーには、コンサルティング会社や金融・保険会社出身の社員、あるいは社会保険労務士、年金アクチュアリーなど、いろいろなタイプの人材がいます。
顧客の課題の比重が「グローバル」に移っていますので、日本の顧客のプロジェクトを推進する時にも、求められる人材のコンピテンシーを統合し、海外のメンバーと連携し、対応しています。
具体的に、現在、貴社で力を入れて取り組まれていることは何ですか。
顧客の課題は連鎖していて、一つの課題の裏にはまた別の課題があります。そのため、課題解決に必要な力を持った人材をその都度登用し、適切に対応できるようにしています。また、グローバルでM&Aを行うような場合には、全社的に部署や職種を超えて組閣し、対応しています。
たとえば、顧客が海外の企業を統合・買収しようとした時、その会社の社員について調査しなくてはなりません。あるいはその会社の年金や福利厚生などの財務面を、分析しなくてはいけません。また、統合するに当たって報酬制度の構築や組織の設計などの問題も発生します。こうなると、当社が保有している各専門領域のコンピテンシーを横断する能力を活用し、顧客に対応しなくてはなりません。また、M&Aが成立した後、その効果を早く出すためには、組織を機能的に運営することがポイントになります。さらに、M&Aのリスクとしてはキーパーソンが辞めてしまうことがあります。そうなると、その人を辞めさせないようにするためのリテンションのプログラム設計も必要です。このようにグローバルのM&Aを行う場合には、当社のさまざまな専門家をフル活用して対応することが多くなっています。
人事コンサルティングは、経営課題に広く対応する総合型のコンサルティング会社の一部の機能として提供するモデルと、人事・組織領域をサービスの中心にすえて深くその課題解決を進めるモデル二つのタイプがあります。統合型のコンサルティング会社は、たとえば、経営課題としてのサプライチェーンやファイナンス領域の改革を行う一方、最近では法的対応や税務問題なども含めてコンサルティングを行います。サービスの領域が経営全般にわたる一方、専門性の深さの点で弱さを持ちます。一方、人事・組織に深い専門性を持つ当社のようなコンサルティングを行う会社は、あえて言えば、「人事専業型」です。あえて言えば、と申し上げるのも、すでに申し上げたとおり、その領域の中でも実はカバーする範囲は、年金や福利厚生、M&Aなど、複雑な課題を多岐にわたり対応しているからです。
当社は、これまで蓄積してきた人事コンサルティングの非常に深い知見を保有しています。人事の世界は、何か新しいアイデアや理論が出てきたからといって、すぐにそれを採用するというものではありません。日本企業がたどってきた人事の変革の道があります。それを基に考えないといけません。人事専業型のコンサルティング会社は歴史的な背景や、それぞれの会社で取り組んでいる知的資産を蓄積しているため、人事の専門的な背景をふまえたサービスを展開できるのです。
一方、統合型のコンサルティング会社の中の「人事」というテーマは、ファイナンスやサプライチェーンなど、他の領域と比べると比較的小さい扱いになります。人事の課題解決に関しては、経験値や知的資産の蓄積があるため、人事専業型の会社に一定のアドバンテージはあると思っています。
しかし、人事の変革は、ビジネスの要請に基づいて行われます。これから産業がどう変わっていくのか、この業界は何が課題となっているのかといったことを深く考え、それらの要請を受けて人の評価や仕組みを変える、といった経営的な広い視点も併せを持つことは、専業のコンサルティング会社としても、常に注意しておくべきポイントだと思います。
ですから、我々も最近では、業界ごとに顧客を集め、フォーラムを開催し、業界の現状や課題についてヒアリングする機会を設けています。そこで出た意見についてサーベイを行い、業界に対する認識を深めるような取り組みを行っています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。