「共振の経営」を実現する「共振人材」は
いかに生まれるのか
社員の自律的行動を促す“ユニ・チャーム流”人材育成術(後編)[前編を読む]
ユニ・チャーム株式会社 グローバル人事総務本部 キャリア開発グループ シニアマネージャー
中島 康徳さん
「社内ドラフト制度」で新入社員の適材適所を実現
2016年度から、人材育成の新制度「社内ドラフト制度」を導入されましたね。新入社員のうち「営業職」となる社員を対象に「ドラフト会議」を開催し、営業支店が育成プランに基づき求める新入社員像を明確にした上で申請、10月からの配属先に反映させるとのことですが、このような制度が生まれた狙い、経緯などについてお聞かせください。
ユニ・チャームでは新卒の文系総合職の場合、全員が「営業職」からスタートします。新入社員の配属の“見極め”に関しては、4月から「導入研修」を始め、10月まで半年間をかけて、じっくりと行います。研修が終わった後、各営業支店へと配属となるわけですが、その際の配属先を決めるのが「ドラフト会議」です。
4月の「導入研修」の後、5~6月は現場で「座学」や「実地研修」を行います。そして、7月の後半に「成果報告会」として、自己PRする場を設けます。ここでは新入社員から、研修期間中に何をやってきて、今どんなテーマを抱えているのか。現時点でどのような成果があり、配属までの1ヵ月半でどこまで仕上げたいと考えているのか。自分はどんな人間で、どんなことで役に立つのか、といったことを話してもらいます。ちなみに、今年のドラフト対象者は27人でした。
この「成果報告会」には、配属予定先となる全国の支店長、販売推進担当の人たちも参加し、新人のプレゼンテーションの様子やテーマの取り上げ方、プレゼン資料の論理性などを見ながら、人物評価を行います。また、研修中に新入社員は「日報」を書いているのですが、その内容を成果報告会の前に配信し、各支店長に見てもらっています。ここまでが、新入社員側のプレゼンテーション、売り込みの場です。
他方、営業支店側にも事前に、支店に新人を迎えたときに誰がインストラクターとなり、どの課長の下でどんな仕事をするのか、それによって将来的にはどんなスキルや能力を身に付けることができるのかなど、「新人育成計画書」を作成して提出してもらいます。併せて、どのようなタイプの新人が欲しいのか、「求める人材像」としての要望も聞きます。個人を特定することはありませんが、形の上では「ドラフト会議」における「指名」のようなものになります。
新入社員と営業支店がこのような動きをしている中、人事部内の教育担当者は、採用選考過程から導入研修を経た後の9月末まで、新入社員一人ひとりの動向を見ています。「ドラフト会議」では、この教育担当者を「スカウトマン」に見立てて、各支店からのニーズ(指名)に対して、適材適所の人材をアサインします。
最終的には、支店から出てきた「新人育成計画書」と「求める人材像」、そして各新人の特性(タイプ)を横並びにし、「スカウトマン」としての教育担当者の意見を参考にしながら、配属を決定します。新入社員に対しては、「ドラフト会議」の場で「支店にこんなニーズがある中で、あなたのこういう点が評価されて、指名されました」とアナウンスし、各支店との配属マッチングを図っていきます。ちなみに、プロ野球のように「ドラフト会議」で指名が外れるということはありません。
非常に手間暇をかけた「ドラフト会議」ですね。
人事部が「配属権」を握って一方的に行う場合と比べると、かなり手間暇がかかるのは事実です。ただし、このやり方だと各支店が「自分が選んだ新人だ」と思ってもらうことができるので、その後の教育に対する熱の入り方も違ってきます。特に受け入れ側の支店長(幹部)たちに、「配属された新人を一人前にしてやるぞ」という熱意を強く持ってもらいたいというのが、制度導入の一番の狙いです。