株式会社 三越伊勢丹ホールディングス:人事部が変われば、現場が変わる、店頭が変わる とことん“個”に向き合う三越伊勢丹グループの人材戦略とは(後編)[前編を読む]
株式会社 三越伊勢丹ホールディングス 執行役員 人事部長
中村 守孝さん
持てる力をフルに出せば“レギュラー”になれない人なんていない
人事部は、他のいろいろな部署の昇格を推奨しています。でも、なぜか自分の部署の部下に対しては背中を押そうとしない。最初に人事部に来たとき、不思議でしょうがなかったですね。なぜ身内のキャリアアップに消極的なのかと。部内の人間でも昇格の背中を押せと、所属長たちに言い続けました。競ってチャレンジする風土を醸成することも、人事部全員にレギュラーを感じさせる一つのアプローチでした。もちろん、個人の能力差はあるでしょう。一番重要なことは、一人ひとりの持てる力を最大限に引き出しているかどうか。現場であれ、スタッフであれ、持てる力をほぼフルに出せば、レギュラーとして戦力にならないケースなんて、まずありえません。
人事という新しい部門を経験されてみて、中村さんご自身の中で、何か新しい発見はありましたか。
有り体に言えば、本当の意味での「人の大切さ」ということでしょうか。口では「落ちこぼれをつくらない」と言いながら、よくわかっていなかった。人事部のメンバー全員が成長し、高いパフォーマンスを出せるようになり、初めて実感できましたからね。店頭のスタイリストのみなさんをはじめとして、部内・部外を問わず、人というものに対する実感を強く持ち、見方が深まったというのが、私にとっての大きな収穫でした。人それぞれに、こんなにも多様な価値観、多様な志向、多様な思いがあるのかと。だからこそ、それらをうまく組み合わせ、束ねることができれば、組織にとってこれ以上の強みはないと確信しましたね。
ありがとうございました。最後に、今後の課題や抱負をお聞かせください。
人事部も風土が変わり、私が言わなくてもメンバーが担当の壁を超え、自分たちで知恵を出し合って仕事を進めるようになりました。ただ、もちろん満足はしていません。先ほどご紹介くださった「女性が働きやすい会社ランキング」で1位を獲ったとき、社長は喜びながらも、こう言ったんです。「評価と実態がまだ全然違う。それを一致させていくのが人事部の仕事だろう」と。でも、よくわかります。誇りには感じましたが、次の瞬間、こんな評価をいただいてしまってどうしよう、まだまだ実が伴っていないのにと、プレッシャーを感じました。浮かれてはいられません。人事改革にゴールはないのですから。
(取材は2015年11月6日、東京・新宿区の三越伊勢丹ホールディングスにて)