株式会社 三越伊勢丹ホールディングス:人事部が変われば、現場が変わる、店頭が変わる とことん“個”に向き合う三越伊勢丹グループの人材戦略とは(前編)
株式会社 三越伊勢丹ホールディングス 執行役員 人事部長
中村 守孝さん
“個”に向き合うCDP面談を人事制度改革の仮説検証に活用
もう一つ、重要なキーワードがあります。人事部内で切れていた業務の流れをもう一度つなぎ直そうとしてつきつめると、結局は人材一人ひとりに対し、この人をなぜ採用したのか、なぜここに配置し、こういう教育を施したのかというところまで、掘り下げていかないと、課題解決に至らないことに気づくんですね。逆に言うと、人事部全体が一人ひとりの人材と向き合うことで初めて、切れていた人事の仕事のピースにも、横串が一本通るわけです。そこで掲げたのが「個と向き合う」というキーワード。「商品は数千万点も管理しているのに、わずか26000人と向き合えないはずがないだろう」と発破をかけ、個々の従業員ととことん向き合う施策を打ち出していきました。
その一つが、人事部による「CDP面談」ですね。販売の主力である「メイト社員」(月給制契約社員)から部長職までの従業員を対象に、年間約1000名との直接面談を実施しているそうですが、中村さんご自身も担当されるのですか。
もちろんです。部長職の面談については、海外現地法人の外国人幹部も含め、私が行っています。全体では過去3年間で累計約3500名との面談を実施してきましたが、その結果、個と向き合う面談にはいくつもの効果があることが分かってきました。まずは「人事部はちゃんと人のことを考えてくれている」というメッセージを、従業員から認識してもらえること。二つ目は、所属する組織の上下関係の中ではなかなか吐き出せない悩みや現在の課題に耳を傾け、アドバイスを行うことで、従業員のモチベーション向上やキャリア開発につながる効果です。人事部には何を話してもいいんだという雰囲気づくりと、キャリアへの希望を高められるような適切なアドバイスができるか、また、本質的な悩みとたんなるグチをふるい分けられるか、人事部の面談能力も問われます。そして三つ目、面談から得られる貴重なデータベースを、われわれがしかける人事制度改革の仮説検証につなげることができたのも大きなメリットです。そもそも定量化という側面が弱かったんですね。
たとえば、こういうことがありました。来年4月以降メイト社員は入社初年度から無期雇用となりますが、それ以前は4年目から無期雇用で、そのタイミングで、本人の意思により正社員への登用試験を受けられるコースを設けていました。この制度の導入に先立って、もしそういう制度があったら利用するかを面談で聞いたところ、約4割が選ぶと答えたんですね。4割程度を前提にさまざまな設計をして、ふたを開けたら、本当に4割だったんです。CDP面談が、こうした定量的な仮説検証のアプローチに活用できたことは大きな発見でしたね。
そして個と向き合う中から、われわれはまた新たなキーワードを見出しました。それは、「入り口は違えど、ゴールは公平」。メイト社員が大半を占めるスタイリストに対して、最も重要なメッセージだと、私は考えています。