学校法人立教学院:
立教学院が取り組む、学校職員の能力開発を促す
「リーダーシップ研修」とは(後編)
人事部人事課
原 正福さん
『前編』では、大学を取り巻く環境変化の下、立教大学が職員の能力開発を進めていくようになった背景と取り組みについて伺いました。『後編』では、職員の現場力を高めるために「質問会議」(※1)というアクションラーニングの手法を用いた「リーダーシップ研修」をいかに実施しているのか、詳しいお話を伺いました。(※1)「質問会議」は株式会社ラーニングデザインセンターの登録商標です。
(※1)「質問会議」は株式会社ラーニングデザインセンターの登録商標です。
- 原 正福さん
- 学校法人立教学院 人事部人事課
はら・まさよし ●1976年生まれ。立教大学社会学部卒業後、1999年に住友銀行(現・三井住友銀行)入行。パソナキャレントを経て、2004年10月に学校法人立教学院へ入職。2012年5月まで、リサーチ・イニシアティブセンターに配属。科学研究費助成事業から産学連携・知的財産まで幅広く研究支援業務に従事する。2012年6月に人事部人事課に異動し、職員人事(主に採用・研修)を担当。
なぜ「ワークショップ」を導入したのか?
「リーダーシップ研修」を導入した経緯についてお聞かせください。
研修制度をより充実させる方法として、以前から「知の宝庫」である大学内のリソースを活用した研修の実施を考えていました。特に関心を持っていたのが、経営学部の「ビジネス・リーダーシップ・プログラム」(以下、BLP)です。BLPは、中央教育審議会大学部会の答申「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」において、唯一固有名詞で紹介されるなど、学内外で高い評価を得ているものです。「リーダーシップ」の修得が核となっていますが、ここで言う「リーダーシップ」は、権限やカリスマ性がなくても成果目標に向かって周囲の人を巻き込みながら成果を出すスキルとして、誰でも修得可能なもの。幸運なことに、BLPを担当する日向野幹也教授が、この活動を大学全体の教育プログラムへと波及させるために、本学で実施している「立教GP」(※2)に「立教リーダーシップ・プログラム」を申請し、採択を受けていました。そこで、同プログラムの実施計画にある教職員に対する研修の実施について相互に有効な方法がないかを検討し、まずは実験的な取組みとして、2014年2月に「リーダーシップワークショップ」を開催することになりました。
「リーダーシップワークショップ」という形にしたのは、いきなり正規な「研修」として導入することが難しかったからです。こうした研修は前例がありませんでしたし、次の展開を考えて、できるだけ早く実現したいという思いがありました。大学のような組織では、決まった枠組みの中に異質なモノが入ってくると、それだけで拒否反応があります。しかし、このワークショップを一度行ったことにこそ、大きな意味があります。大学は前例踏襲型の組織なので、それを逆手に取れば、「前回うまくいったから今回も開催したい」と言うと、スムーズに事が運びます。ポイントは、前例の作り方です。まずは正規の研修ではなく、あくまでも任意の活動で、希望者だけを募って開催する。そして、参加者から「良かった」という成果を引き出す。成果を上げれば、それを前例として正規のプログラムにステップアップすることができます。大学のような組織では、こうした根回しが重要です。
(※2)立教大学教育活動推進助成(Rikkyo University Promotional Fund for Good Educational Practice)の略称。学内の教育活動を奨励するために2009年度に発足した制度。各研究科・学部・事務部局において行なわれている取組をさらに発展するよう奨励し、また大学全体の財産として共有する立教大学独自の仕組み。
これは、民間企業でも通じるやり方のように思います。
ワークショップには30人の定員枠を設けましたが、30代の若手職員を中心にすぐに埋まりました。まず、日向野先生によるリーダーシップに関する講義が行われ、社会のさまざまな変化に対応し、組織内での変化(イノベーション)を作り出すためには、組織の一人ひとりが発揮する「権限なきリーダーシップ」が必要であることを学びました。実用的なリーダーシップスキルとして「質問力」が挙げられ、自らの内で留めていた問題を他者に質問の形で提示することで他者を巻き込むことができる点、上司に対しての提言は煙たがられるが質問であれば受け入れてもらえることが多い点がリーダーシップにつながるとわかりました。
続いて質問力によるリーダーシップを体感するために、アクションラーニングの手法の一つである「質問会議」を行いました。「質問会議」とは、質問とその質問に対する答えだけで会議を進めていくものです。当日は参加者が5~6名のグループに分かれて、なるべく直近の課題で、自分が解決したいと思っていることを出し合いました。日向野ゼミの学生が各グループにコーチとして付き、会議の進行を担当。メンバーの一人が抱える問題について、メンバー全員が相互に質問をしていくことで会議を進め、グループ全員で問題を再定義し、解決のための行動計画を考えました。
「質問会議」では、まず何を質問しようかと考えるために、相手の課題に対してコミットしていかないと良い質問ができません。そのため、相手の課題を自分の課題のように捉えることができるようになるというメリットがあります。つまり、当事者意識の自覚です。また、上下関係なく質問することができます。これは、課題を明確にするというプロセスで、非常に有効なアプローチです。その結果、皆がリーダーシップを発揮することができるようになります。
学生や教員だけでなく、さまざまなステークホルダーの意見を聞き、それを実現していくことは職員の役割です。その意味からも、質問をするということは、職員にとって非常に重要なスキルとなります。また、質問をしていくことで、チームワークが形成されていくという、組織の作り方(チームビルディング)の参考にもなります。