人材紹介会社が行う面接対策
採用業務を社長一人で担当する企業
将来本人のためにならない?
面接対策、やりすぎるのも問題ですが
用試験の山場といえば何といっても「面接」。中途、新卒問わず、どの企業でも最も重視される選考プロセスである。逆に考えれば、求職者は面接で好印象を与えることができれば、合格に一気に近づく。だからこそ、数多の「面接対策本」「面接マニュアル」などが存在しているわけだ。人材紹介会社による「模擬面接」「面接対策」もその類である。
不思議な面接の実態を探れ!
「面接、さっき終わりました。教えてくださった質問がやはり出ましたよ。助かりました。ぶっつけ本番だったらたぶん動揺してうまく答えられなかったと思います。ありがとうございました」
電話はK社の面接を終えたばかりのAさんからだった。どうやら面接はうまくいったようだ。その場で2次面接の希望日程を聞かれた…ということで、Aさんの声も弾んでいる。
「そうですか。お手伝いしたかいがあります。正式に結果が出たらすぐご連絡しますよ」
そういって電話を切ると、私はすぐにK社の2次面接に向けての対策を考え始めていた…。
実は、このK社の面接、以前は非常な難関であった。もちろん有名企業なので選考基準自体が高いこともあるのだが、ある部門のある職種だけが非常に厳しく、応募者が必ず落とされてしまうのだ。この面接は現場の部長が担当するため、K社の人事担当者も不思議がっていたくらいだ。
「この間の方も経験やスキルは十分採用レベルにあると思うんですが…どうなってるんですかね」
そこで私はK社の面接に同席させてもらうことにした。人材紹介会社のコンサルタントが面接に同席すること自体はそう珍しいことではないので許可はすぐに下りた。
その結果、面接を担当する部長の意外な質問に応募者が苦戦していることが分かった。たとえば、「あなたは10年後どうなっていたいですか」などと、ある程度準備をしておかないと答えられないような質問を多用するのである。かと思うと、もう30代後半の応募者に「大学で経営学を専攻されていますが、なぜそれを選んだのですか」といった、やたら細かい質問をしてみたりする。あるいは、イエローカードの質問だが、「なぜ独身なのか」と答えにくいことを聞くこともあった。
部長に悪気はないのだろうが、いずれにしてもこのちょっと奇妙な質問をクリアしなければ合格はない。そこで私は、出そうな質問一覧を作って、K社の面接を受ける人全員とミーティングを行なうことにしたのである。
家庭教師のような面接の特訓!
「過去にこんな質問が出ています。さあ、どう答えましょうか」
「うーむ、変わった質問ですね…。これではいかがでしょうか」
「ちょっと弱いですかね。もっと意欲的な印象を与えるように、こんな回答はいかがですか」
「ああ、そうですね。そう答えることにします」
ずらりと並んだ質問の一つひとつでそういったやりとりを繰り返していく。長い場合は1人の応募者について2時間ほどかかることもあった。
しかしその結果は劇的なものだった。それまでまったく採用してもらえなかったポジションで、一気に3名も内定が出たのである。聞くところによると、その不思議な質問を連発する部長も手応えを感じて喜んでいるという。
これも人材紹介会社のサービスの一種だろう。応募者へのサービスという意味もあるし、K社側としても採用水準に達した人材がなぜか採れない…という事態が続いていたのだから。それを解消したという意味では企業側に対してもサービスになったのではないかと思っている。
もちろん「面接指導はあまりやらないでほしい」という企業もある。「応募者の自然な反応が知りたいのだから、あまり予備知識を持って来られると、正確な判断ができなくなる。自社に合わない人が、仮に面接指導を受けて合格しても、入社後に本人が困るのではないか」という考え方もあるからだ。
事実、人材紹介会社の中にも、「声を大きく」「挨拶をきちんとする」「相手の目を見て話す」といった基本的なことだけをアドバイスし、具体的な質問への回答プランは教えないというところもあるようだ。
しかし、Aさんのように「K社が第一志望なんです」という方がいれば、紹介会社としては可能な限りのアドバイスをしないわけにはいかない。応募者と採用企業、それぞれの思いが完全に一致するのは難しい以上、面接対策というものは存在し続けるのだろう。
どう考えても無理がありますよ…
採用業務は自分でやりたい!という社長
ベンチャー企業や日本に進出したばかりの外資系企業。少人数ですべてをこなさなければならないため常に忙しく、優先順位の低い業務はどうしても後回しになってしまうようだ。その最たるものが人材採用だろう。企業の成長に優秀な人材の確保は欠かせない…と分かっていても、採用業務のために割く時間がない。新興企業にとっての卵が先かニワトリが先か…の問題がここにある。
とにかく社長は忙しいもの
「誰か僕のかわりに出張に行ってくれればなあ…。そうすれば面接ができるんですが」
今日もN社長は全国を飛び回っている。かねて募集していたポジションにふさわしい人材の情報を届けたのに、まだ書類にも目を通してないという。しかも、あと15分後には地方への出張に出発してしまう。
「ではいつお帰りですか」
「今週一杯は無理だなあ。しかも来週からはアメリカに行かないといけないし…」
N社長の会社は、2年前に日本に進出したばかりの外資系企業である。都内のオフィスには従業員が8名。社長自ら営業部長を兼任しているから、とにかく忙しい。
「その忙しさを解消するためにも人員を増やしたいというご意向だったかと」
「そうです。アメリカの本部からも採用の許可をもらいました。まずは、僕の右腕になってくれるような営業要員とセールスエンジニアがほしいですね」
そうは言いつつも、書類選考を頼んでから結果が出るまで2週間以上かかることも珍しくない。書類選考が終わっても、社長のスケジュールを調整して面接を組むのが至難の業だ。
「本当に申し訳ない。でも面接は一発で決めますよ。1次面接イコール社長面接です」
「それは助かります」
「で、お願いなんですが、僕としては時間もチャンスも無駄にはしたくないんです。せっかく面接して内定を出したからには、なるべく内定を辞退してほしくないんです」
「もちろんそれが理想でしょうが…」
言いたいことはわかるが、ベンチャーや新興外資の場合、応募者も相手に会ってから判断したいという部分は多々あるのである。大手や有名企業ならいざしらず、面接前から「内定したら即入社します」という高いモチベーションを持った状態で紹介するのは基本的には不可能といっていい。
可能ならばアウトソーシングを
「他社はどうされているんですか。うちと同じくらいの規模の企業は…」
N社長も現状をなんとか打開しないと、忙しいままだということは分かっているようだ。
「いちばん確実なのは採用をアウトソーシングすることでしょうね。書類選考や人材紹介会社との連絡のやりとりなどは、そのアウトソーサーに任せることです」
「その手はありますよね」
「社長は面接しかしない…という状況をつくれば、いくらお忙しいとはいっても、月に何人かの面接くらいはできるのではありませんか」
「分かりました。ではその件も含めて次回までに検討しておきます」
出張への出発時間が迫っているのだろう。N社長は電話の向こうでなんとなく慌しい気配である。
「特に、アメリカの本部に行った時に採用アウトソーサーを使っていいかどうかを確認してきますよ。今のところは採用は自力ということになっているんでね。人材紹介会社を使うことも、今年からやっと許可が出た状態で…」
もしアウトソーサーを使う許可が出なかったらどうするんですか…という質問を私は飲み込んだ。出張の出発直前に考えてどうなるという問題でもなかったからだ。
「そうですね。ぜひアメリカの本部を説得してきてください。お気をつけて…」
ベンチャーや新しい外資系企業で働く方々は本当にパワフルだ。N社長の会社の人材問題が好転することを祈らざるをえなかった。