キャリアアドバイザーが「推したくなる」会社
それは情報が豊富な会社かもしれない
人材不足の時代における採用活動は、よく「マーケティング」に例えられる。売り手市場では、自社をブランディングし、優秀な人材に好印象を持ってもらうことから始める必要がある。人材紹介会社を利用する場合は、キャリアアドバイザーを自社の「ファン」にすることも大切だ。大量にある求人情報の一つとしてではなく、「おすすめの会社」として転職希望者の興味を引く情報とともに紹介してもらうことができるようになるからだ。
入社の決め手となったのは
「この資料、よかったら候補者の方に差し上げてください。コピーしてもけっこうですし、必要ならPDF版も用意しています」
A社の採用担当から渡されたのは、業界紙に連載されたという社長の回顧録だった。日経新聞の『私の履歴書』によく似た体裁で、連載回数は20回以上。事務所に戻って読みはじめると、たちまちその内容に引き込まれてしまった。
A社の社長はもともと大手企業にいた人物で、その業界では誰もが知る有名な製品を開発したチームのリーダーだった。その功績から、若くして役員待遇の評価を受けていた。あるとき、新たな事業のタネを見つけ、自ら起業することを決意する。そうして立ち上げたのがA社だ。創業後は古い法律による規制と戦いながら、同社を業界ナンバーワンの存在へと育てていった。
創業の経緯はA社のホームページにも記載されており、誰でも読める。もちろん私も知っていた。しかし、会社沿革のようなシンプルな「情報」とは全く異なる濃密な「物語」がそこにはあった。なによりも、語り手である社長の仕事に対する熱い思いが伝わってくる。回顧録を読み終わると、まるで映画を一本見終わったような気分になった。そしてふと、A社に紹介していた転職希望者・Cさんの顔が浮かんだ。
「これはCさんにもぜひ読んでほしい」
早速、Cさんに回顧録を送った。Cさんは、A社と同じ業界で数社を併願している。回顧録を読んでトップの人柄や会社の理念に共感すれば、A社の内定に応じてくれるのではないかと考えたのだ。
数週間後。CさんはA社に入社することが決まった。
「おめでとうございます。最終面接前にお送りした、社長の回顧録はお読みになりましたか」
「もちろんです。あれでA社への入社意欲が高まりましたよ」
Cさんによると、回顧録を読むまでは、A社は「規模が大きい」という程度の印象だったという。しかし、読後は「この社長のつくった会社で働いてみたい」という前向きなものにはっきり変化したのだそうだ。
結果的に、回顧録がCさん採用の「決め手」となった。