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人材採用“ウラ”“オモテ” 
企業・求職者・人材紹介会社の「転職」三角関係

潰れない会社を探して転職に失敗しつづけていた人材
潰れそうな会社から転職した人を採用しなかった企業

人材紹介アドバイザー・小中敏也

「一生勤め上げられる転職先」探しにこだわっていた人材のケース

30年後まで確実に存続できる会社を見つけるのは至難の業?

世の中には引越しが好きという人もいるが、全体から見れば少数派だろう。転々とするよりも、基本的には落ち着きたいという人がやはり多いからではないだろうか。引越しが好きな人よりももっと少ないのが「転職が好き」という人だろう。近年は、一つの会社に一生勤めあげたいという人の割合は半分を切っているというデータもあるが、それでも転職は必要最小限にとどめたいというのがやはり一般的だ。とくに何回か転職を経験し、その大変さがわかっている人には切実な思いである…。

「一生勤務できるような安定した会社をご紹介いただきたい…」

「じつは今年で30歳という節目の年齢を迎えます。じっくり自分にあった会社を探して、これを最後の転職にしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」

Mさんはスポーツマンらしくキビキビした話し方が気持ちよい人だった。今回が2度目の転職だが、いずれもキャリアアップなど自分から望んでの転職とは違うという。

「最初の会社は、新卒で入社して関西支社で勤務していました。ところが親が病気になってしまい、実家に戻らなくてはならなくなったんです。それで退職して関東で働ける会社を探しました」
「それが現在の会社というわけですか…」
「はい。仕事も順調だったのですが、今回、急に会社自体が売却されることになってしまったんです。それにともなって、人員も半分に減らされることになってしまい……。とても残念なんですが、吸収された会社で働くのも何かとやりにくいだろうと思って退職することにしました。次が3社目ということになりますが、決して自分で望んで転職しているわけではありません。次はできれば一生勤務できるような安定した会社をご紹介いただきたいと思っています」

Mさんはとてもまじめな人だということが話し方からも伝わってきた。ただ、気になるところもあったのでアドバイスをつけ加えることにした。

「ご希望はよくわかりました。会社がなくなって転職するのは、ものすごく残念なことだと思います。ただ、Mさんは今年30歳ですよね。ということは、定年退職まであと30年以上あるわけです。そう考えると、今回を最後の転職にしようと思ったら、30年後まで確実に存続している会社を選ばなくてはならないですよね」 「はい…まあ、そうですね」

Mさんは私が何を言いたいのか、すぐにはわからないようだった。

「では、今ある企業の中で"30年後も必ず残っている企業"というと、どこだと思います?」
「うーん、30年後…ですか。どこでしょうね」

Mさんも何となくわかってきたようだ。

「そこなんです。いくら考えてもわからないじゃないですか。もちろん安定企業ということをキーワードにして転職活動をすることは大切です。でも、これを最後の転職にしたいということに、あまりにもコダワリすぎると、選択肢をものすごく狭めてしまうことになると思いませんか」

「たしかに、どんな大企業でも合併したりするかもしれないし…」

「たしかにそうですね。どんな大企業でも合併したりするかもしれないし、産業構造も変わっていくでしょうしね…。でも、そうすると今回はどういう狙いで企業を選べばいいんでしょうか」

Mさんの質問は的確だった。重要なポイントである。

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「まず、会社に依存してはいけないということではないでしょうか。というのも、運良く30年後まで存続していく企業を見つけて転職できたとしても、これからは終身雇用制度がしだいに廃れていきますから、自分がそこで最後まで働ける保証はないわけです」
「確かにそうですね…」
「とすれば、重要なのは"自分ならではのスキル、キャリアをつける"ことではないでしょうか。企業が望むスキルやキャリアを持っていれば長く働けますし、万一、再度転職しなくてはならなくなったとしても、そのときに有利になるでしょう」
「なるほど…」
「ですから、転職の時ときにいちばん重視しなくてはいけないのは、その会社が30年後まで続くかどうかよりも、きちんとしたスキルやキャリアが身につく環境かどうか、具体的にいうと経験豊富な先輩がいるか、コアな仕事を任せてくれるか、研修や教育にお金や時間をかけてくれるか…というようなことではないでしょうか」

私の話を聞きながら、Mさんは自分のキャリアとは何なのかを考えているようだった。

「幸いMさんは今の会社ではずっと同じ部門にいて現場の経験を積まれています。この分野はこの先も有望ですから、やはりここを伸ばしていかれるのがいいと思いますよ」
「そうですか、私の経験はキャリアになりますか?」
「もちろんなりますよ」

そこから2人はMさんのキャリアデザインについての相談を始めたのだった。

倒産などで望まぬ転職を繰り返した人を採用しない企業のケース

「会社の将来が不安」との理由で退職した人は嫌われる?

キャリアアップするための希望に満ちた転職が注目される一方で、勤めていた会社が倒産した、あるいは業績不振で大幅な人員削減を余儀なくされた…という場合の転職もなくなるわけではない。人材紹介会社では、そういった方々が新しい就職先を探すためのお手伝いも当然させていただいている。こうしたやむをえない転職の場合、選考する企業側にもそのあたりを考慮してもらいたいと思うのだが、意外と厳しく見ているケースも少なくないようだ。

「A社では業績不振が退職理由です。B社では社長が亡くなって…」

「転職回数がちょっと多いと思われてしまうでしょうか…。でも、別に転職したくてしていたわけではないんです。いわゆるジョブホッパーではありません…」

そう話してくれたWさん。たしかに職務経歴書などを拝見すると、これまでに5社で働いていた方である。自分でもその転職回数を気にされてか、その職務経歴書には、それぞれの会社の退職理由が詳しく書かれていた。

「A社のときは会社業績不振が理由です。私が退職して1年後に実際に倒産したそうです。B社のときは社長が亡くなって、結局会社を清算することになってしまいました。C社のときは…」

たしかに話をお聞きしていると自分から進んで退職した会社はない。いずれも会社の業績が悪化したり、事業部門が閉鎖されたり、倒産したりといったケースにたまたまぶつかってしまったようである。

「よくわかりました。たしかに社数を気にされる企業もありますが、そうでない企業も多数ありますよ。仕事内容がご希望に近い企業にはどんどん当たっていきましょう」 「ええ、ぜひよろしくお願いいたします」

そんなわけでWさんの転職活動が開始された。まず最初に結果が出たのは中堅メーカーのP社である。

「残念ですが今回は見送らせてください」
「そうなんですか。今後の参考にお聞かせ願いたいのですが、見送られたポイントはどこでしょう?」
念のため聞いてみた。

「転職回数の多さですね。たしかに会社倒産とか気の毒な事情はありますが、そうするとどうしてもキャリアが途中で切れぎれになってしまいますよね」

次に結果が出たのは外資系のL社である。

「残念ながら不合格とさせてください」
「ポイントは…」
「勤務先の業績不振とかが続きすぎじゃないでしょうか。企業を見極める目も重要ですよ」
「なるほど…」

なかなかスムーズにはいかないようである。ある程度予想したことではあるが。

「運がない人はダメ、と社長が言いますので、採用は厳しいなあ…」

「うーん、ちょっと厳しいかなぁ…」

ざっくばらんに話をしてくれたのは、あるベンチャー企業の採用マネジャーだった。

「どこが厳しいですか?」
「やっぱり、これまでの会社がことごとく業績不振とか倒産になっていることかなぁ。うちはベンチャーでオーナー社長だから、社長がダメっていったらダメなんです。以前もこういうご経歴の方がいらしたんだけど、社長が"運がない人はダメ"って言うんで見送りになったことがあるんですよ。経験は十分な人だったんですけどね」

ベンチャーは個性的な経営者も多いから、そういうこともあるのだろう。

「業績不振で将来が不安…という理由で退職されても困るんですよ」

こう言うのは某老舗メーカーの人事部長。

「この方は経理ですよね。たしかに経理だと会社の数字がまっさきに見えるから、将来が不安になるのもわからないでもない。でも、うちが求めているのは、そういう厳しいときに、一緒に最後まで戦ってくれるような人なんです」

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こうしてWさんの転職活動は先が見えないまましばらく続いたが、ある時、ふいに良い話がまとまって終わりを告げることになった。ある大手企業の子会社がWさんをいたく気に入ってくれたのだ。私は、採用担当の取締役に恐る恐る決め手になったポイントを聞いてみた。

「あの人(Wさん)は苦労人だね。大変なところをすいぶん経験してこられている。そこが気に入りました。うちは大手の子会社だけど、規模は小さいし一人で何でもやらなきゃいけない。苦労している人のほうがいいんですよ」

まさに捨てる神あらば拾う仏あり…の転職活動なのである。



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