職場のモヤモヤ解決図鑑
【第11回】社員のキャリア開発、どうすればいい?
Win-Winになるキャリア自律
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
同期とランチ中にキャリアアップの話題になった、人事の吉田さん。入社から数年経った同期の不安を耳にして、人事としてキャリア開発でできることはないかと模索を始めますが、上司からは「転職を促進するのではないか」という指摘が……。会社と社員がWin-Winになるキャリア支援とは、どのようなものでしょうか。
キャリア開発とは? 自分らしいキャリアの描き方が求められる時代
かつては、「キャリア開発=昇給・昇進」というイメージがありましたが、転職が当たり前になり、リモートワークや副業解禁など働き方が多様化するいま、キャリア開発のあり方も変化しています。
キャリア開発=社内での異動・昇進だった時代
終身雇用と年功序列がベースであった時代、企業におけるキャリア開発とは、人事異動でさまざまな職種や仕事を経験させることや、社内での昇進がメインに考えられてきました。しかしバブル崩壊後、成果主義を基軸とした人事制度が広まるにつれ、キャリア開発は形を変えていきました。
企業が求める人材は、ジェネラリストから、高い専門性を持ち柔軟にアウトプットを出せる人材へと変化。それに伴い、キャリア開発も多様な能力・経験を持つ人材を育てる手法へと意味合いが変わっていきました。
キャリア開発から、キャリア自律へ
こうした時代背景や、個々の意識の変化によって、近年では会社にキャリア開発を任せきりにするのではなく、社員が主体となって作り上げていく「キャリア自律」という考えが中心になってきました。キャリア自律では、自律型人材の育成を目的とし、能動的に仕事に関わる意欲促進や、個人のチャンスを広げる機会の提供など、個人がキャリアプランを描けるようにさまざまな研修・施策が行われます。
キャリア自律が目指すのは、個の成長と組織の活性化です。個人の潜在的な能力開発だけではなく、社外価値も高まるような職業人生を歩めるようにすることが求められています。
キャリア自律の支援が、逆に人材流出を防ぐ
では、会社が社員のキャリア自律を支援して育成した、高スキルの人材や優秀な人材は、どんどん社外に出て行ってしまうのでしょうか。
キャリア自律には、企業が社員にスキル開発の機会を与えるだけではなく、社員の価値観やポリシーに見合った仕事の場を用意する意味もあります。ここに、社員がどのような気持ちで仕事に取り組むようになるのか、キャリア自律がもたらす効果があります。
企業への人材求心力を高める
なぜキャリア自律の支援が人材流出を防ぐのでしょうか。それには、いくつかの要因が影響しています。一つは、社員のキャリア支援の過程で、上司とのコミュニケーションが生まれること。キャリア面談などを通じて、密にコミュニケーションをとるようになり、上司との折り合いが悪くて会社を変えるという事態を避けられることもあります。
また、キャリア面談では、どんなスキルを身に着けていきたいのか、どのような仕事にやりがいを感じるのか、考え話し合います。こうした機会を通じて、社員がキャリアプランに見通しを持ち、いまの仕事にやりがいを感じるようになります。
さらに、職場や仕事への満足感の高さは、結婚や出産・引っ越しなどのライフイベントも含めたキャリアを検討するとき、「現在のベスト」や「先へのつながり」などポジティブに判断できます。単純な給与や職位の高さではなく、労働環境や仕事への満足感、先の人生への肯定感により、社員の企業に対するエンゲージメントが高まるのです。
▼なぜキャリア自律支援が企業に役立つのかがわかる
慶應義塾大学・高橋俊介氏は「キャリア自律支援は福利厚生ではなく、経営のために行うべきもの」と語ります。キャリア自律の重要性と支援のポイントを詳しく解説します。
求職者がポジティブなイメージを持つ
さらに、キャリア自律支援を行う企業は、既存社員だけではなく、新卒採用や中途採用の対象層にも前向きに受け入れられます。
なぜならば、人材育成に重きをおき、積極的に社員の成長を歓迎している企業と認識されるからです。そうした企業には、受け身で仕事をするのではなく、能動的に成果を出すマインドの持ち主が集まっていきます。結果として、採用戦略にもプラスに働く効果が期待できるのが、キャリア自律支援なのです。
働き方が自由で多様になった時代のキャリア形成
副業解禁や人材の流動化の促進、テレワークの推進など、これから働き方はもっと自由で多様になるでしょう。キャリアアップを目指すキャリア開発だけではなく、「やりがいを持って働く」「組織にも個人にも生産性高く働く」視点がキャリア自律に求められています。その点を踏まえて、社員のキャリア自律を支援する企業は、社会に好意的に受け入れられるでしょう。
【まとめ】
- 企業内で異動・昇進を目指すキャリア開発から、能動的・主体的に動いて組織と個人の生産性・成長を高めることを目指すキャリア自律へ
- キャリア自律を支援することは、既存社員や求職者にとって「現在」と「未来」にポジティブに働く
- ライフキャリアを考えたキャリアサポートが、Win-Winな関係をつくる
後編では、人事が行うキャリア開発支援の手法についてご紹介します
「キャリア開発」は対象範囲が広く、その手法もさまざま。「大切なことだとは認識しているが、何から取り組めばいいのかわからない」という声は少なくありません。他社の具体的な施策や、実践のポイントを学ぶことで、自社の今後のキャリア開発支援に活かせます
キャリア開発 ヒントがみつかる 企業事例6選│無料ダウンロード - 『日本の人事部』
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!