人事マネジメント「解体新書」第118回
「法改正」が進む中で人事部に必要な「法対応」スキルとは(後編)
「公的資料」を使って「働き方改革関連法」を徹底理解する
近年、労働に関する「法改正」が進展する中、人事担当者の「法律」(労働関連法令)への正しい理解と適切な対応は、需要なスキルとなっている。「後編」では「働き方改革関連法」を例に取って、どのように「公的資料」を使って法改正の概要をつかんでいけばいいのかを具体的に見ていく。
前編はこちら
1. 法律の構造
法律を構成する五つの要素
最初に、そもそも法律とはどのような構造になっているのか、全体としての構造を見ていくことにしよう。法律の条文は、以下のように「総則」「実体的規定」「雑則」「罰則」「附則」の五つの要素から成り立っている。基本的に、この形式はどの法律でも適用される。ここでは、「労働基準法」を例に挙げる。
【法律を構成する五つの要素】総則 | 法全体に関する規定。目的規定、定義規定、基本理念、責務規定などが記される |
実体的規定 | 法の中心となる規定。目的規定の手段の部分で示された順序で並ぶことが多い |
雑則 | 実体的規定を補う雑多な規定 |
罰則 | 義務規定、禁止規定などに違反した場合の罰則を記した規定。罰則がない法律もある |
附則 | 施行期日、経過措置などを定める。なお、本則とは通し条数とせず、1条から始まるのが一般的 |
総則 | 第一章 総則 |
実体的規程 | 第二章 労働契約 第三賞 賃金 第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇 第五章 安全及び衛生 第六章 年少者 第六章の二 妊産婦等 第七章 技能者の養成 第八章 災害補償 第九章 就業規則 第十章 寄宿舎 第十一章 監督機関 |
雑則 | 第十二章 雑則 |
罰則 | 第十三章 罰則 |
附則 | 附則 |
「憲法」がトップに位置する法令の「階層関係」
日本の法体系では、「憲法」が法令のトップに位置し、以下、「条約」「法律」「政令」「省令」「条例」の順となる。法的な判断を下す場合、この階層を常に頭に置いて対応することが重要だ。この中で、なじみの薄いのは「政令」「省令」だろう。これらは行政機関が制定する「命令」であり、内閣が制定するのが「政令」、各省の大臣が制定するのが「省令」である。両者とも、法律がその委任を明示している場合でなければ、罰則を設け、義務を課し、または権利を制限する規定を設けることはできない。そのため、まずは法律が定める主旨・内容をしっかりと確認した上で、「政令」「省令」に対応していくことが重要である。
【法律の階層関係】
憲法 | 国で、一番強い規範。「国の最高規範」と定義され、国内の全ての法令は憲法に違反することはできない |
条約 | 国家または国家組織の間で締結される、国際的な合意。公布されることで、国内法としての効力が発生する |
法律 | 憲法で定める方法の下、国会の議決を経て、制定される国の規範 |
政令 | 内閣が制定する命令。法律から委任を受けて、法律では定めていない細部を補う事項を定めている |
省令 | 各省の大臣が制定する命令。法律や政令の規定に基づき、法律や政令で規定していない細部の事項を定めている |
条例 | 地方自治体が定める地方の規範。政令などと同様に、法律の範囲内でしか決めることができない |
法令ではないが、似たものとして「通知」と「告示」がある。「通知」は、特定の人または不特定多数の人に対して、特定の事項を知らせる行為。法令の解釈、運用や行政執行の方針などを示したものが多い。「告知」は、「通知」などの内容を国民に知らしめる必要がある場合に、「告知」として「官報」に掲載される。これらは「お知らせ」として伝えるものなので、法令とは明確に区別される(ただし、人事部が知るべき情報としては必要である)。
次のページ「働き方改革関連法」が求められる背景
- 1
- 2
- 次のページ