人事マネジメント「解体新書」第100回
「採用コンプライアンス」を適切に進める方法とは
――法令を遵守し、リスクを回避するためのポイント・留意事項(後編)[前編を読む]
近年、企業に求められる「採用コンプライアンス」(採用活動に対する法令遵守)が、一段と厳しくなっている。公平性確保の意図から、法律に厳しく定められている禁止要件に、一般的な良識やビジネス感覚に任せていただけではカバーし切れない内容が含まれているからだ。そのため、人事部門が意識して研修を実施したり、注意喚起を促したりするなど、早急な対策が必要となっている。「後編」では、「人権問題(就職差別)」「外国人採用(国籍差別)」や「個人情報保護法」「不正競争防止法」「障害者雇用促進法」などについて、「前編」と同様に法令遵守・リスク回避のポイント・留意点を解説する。
「人権問題(就職差別)」への対応
◆本人に責任のない事項、本来自由であるべき事項などを把握しない
「人権問題」は、個別の法律に記載がなくても、注意して当たらなければ大きな問題に発展する可能性がある。厚生労働省では、書類や面接などの採用選考時において人権問題に抵触し、「就職差別」につながるリスクがあり、企業が配慮すべき事項として以下の点を挙げている。
本人に責任のない事項の把握 |
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本来自由であるべき事項(思想信条に関わること)の把握 |
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採用選考の方法 |
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出所:厚生労働省「公正な採用選考の基本」より
上記を社内にしっかり明示していなければ、面接などで家の場所や家族、尊敬する人物、購読新聞、愛読者などを聞いてしまいがちである。例えば、面接担当者の出身地と応募者の自宅の場所が近かったので、「○○の近くに住んでいるのですね。どの辺りですか?」と質問したような場合、大きなトラブルになるリスクがある。その時に、「知らなかった」では済まされない。質問する側に悪意があるかどうかは、関係ないのである。
また、「前編」でも解説したが、採用選考は基本的に、応募者の適性・能力のみを基準として行うものである。そのため、職務への適性や必要な能力などに関係のない事項を要求するのは問題がある。例えば、「明るい方」「素直な方」といった表現は、性格を制限しているものであり、適性や能力を問うものではない。このような場合、「明るく接客できる方(能力)」「素直に業務上の指示に対応できる方(能力)」というように求める能力として表記するようにするといいだろう。あるいは、「明るく接客することが、成功の秘訣となる仕事です」「当社では、上司は指示の理由をこと細かく説明しません。まずは、そのままやってみることが重視される組織風土です」といった表記を行い、自己判断を促すようにすることだ。
実際の業務で必要な能力や職場環境として表現し直すことにより、適性のある人材を採用することができる。人権問題(就職差別)へ適切に対応するには、以下のような点に留意することである。
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◆「健康診断」に関する対応
「労働安全衛生法」および「労働安全衛生規則」では、常時使用する労働者を雇い入れた時と、雇い入れ後1年以内ごとに1回、定期的に医師による健康診断の実施と本人への結果通知を義務付けている。しかし、雇い入れ時の健康診断は、常用労働者を雇い入れた際の適正配置、入職後の健康管理に役立てるために実施するものであり、採用選考時に健康診断を実施しなくてはならない、ということではない。採用選考を目的として、健康診断の検査項目について必要性を検討することなく、画一的に健康診断を実施することは、応募者の適性・能力を判断する上で関係のない個人情報を得ることになる。結果として、就職差別につながる恐れがあるのだ。
実際、採用選考時に特に理由もなく慣例として「血液検査」や「尿検査」などを実施するケースを見かけるが、あってはならないことだ。応募者の適性と能力を判断する上で必要であるかどうかを、慎重に検討しなければならない。もし実施するのであれば、誰もが納得する理由を示す必要がある。決して、応募者の採否を決定するために実施するものではないのだ。
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