企業研修、採用、評価、人材開発、労務・福利厚生のナレッジコミュニティ

人事マネジメント「解体新書」

「採用コンプライアンス」を適切に進める方法とは
――法令を遵守し、リスクを回避するためのポイント・留意事項
(前編)

少子高齢化が一段と進む中、人材不足が深刻化し、採用戦線は混乱を極めている。このような状況下、採用活動に関する法令遵守、すなわち「採用コンプライアンス」の重要性が一段と高まっている。リクルーター活動や面接選考などで人事部以外の社員が採用活動に関わることは多いが、コンプライアンス意識が希薄なため、思いがけない問題を引き起こす可能性があるからだ。問題が表面化してからでは手遅れであり、社内で事前に万全の対策を講じておかなければならない。では、採用コンプライアンスを実践していくため、具体的にはどのように対応すべきなのか。「労働基準法」など採用に直接関連する法律を中心に、2回に分けて、法令遵守・リスク回避に関するポイントや留意点を解説する。

全社的に法令遵守への理解を深め、意識・行動を統一する
◆法令違反などに関するトラブルは瞬く間に広がり、採用活動に影響を与える

人事関連の業務の多くは「法律」によって規定されているが、「採用」に関しては、問題がたびたび起きている。その原因のいくつかは、採用選考プロセスの一部を担当することになった「人事部以外の社員」の対応によるものだ。人事業務に直接関わったことがないので、採用関連の法律に関する知識が不足していたり、コンプライアンスに対する意識が希薄だったりする社員は少なくない。担当業務において優秀な社員が、採用コンプライアンスに関しても万全であるとは限らない。そのため、問題が起きる前に研修を実施するなど、採用コンプライアンスに関する啓発活動を行う必要がある。もちろん、それは人事部員に対しても同様だ。

最近では応募者側でもコンプライアンスへの意識が高くなっており、自社社員の対応や説明の仕方によっては、企業の評判・評価に大きく影響することもある。採用ブランディングの面においても、十分に気を配る必要があるのだ。実際、近年は法令違反などに関するトラブルが、SNSなどによって瞬く間に広がっていく。選考段階にいる応募者がトラブルを知れば、その企業での選考を辞退するかもしれない。また、求人メディアや人材紹介会社から、求人広告の掲載や求人申込みを断られることも考えられる。

このような事態を引き起こさないためにも、日本国憲法が定める「基本的人権」の下、厚生労働省が示す「公正な採用選考の基本」を、採用に関わる社員全員が正しく理解し、具体的にどのような言動をすればいいのか、きちんと知っておく必要がある。もちろん企業には「採用の自由」があるが、その一方で、守らなければならない法律があることを忘れてはならない。全社員が採用コンプライアンスに関する理解を深めることで、意識・行動のレベルを統一していくのだ。その際、具体的な事例やQ&Aを交えた分かりやすいマニュアルを作成し、事前にレクチャーや研修などを実施することが望ましい。

【公正な採用選考の基本(厚生労働省)】
採用選考の基本的な考え方
  • 応募者の基本的人権を尊重すること
  • 応募者の適性・能力のみを基準として行うこと
  • 応募者に広く門戸を開くこと
  • 本人の持つ適性・能力以外のことを採用の条件にしないこと
公正な採用選考を行うためには
  • 家族環境、生活環境といった応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定しない
  • 個人情報保護の観点からも、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などの収集は原則として認められない
  • 応募用紙やエントリーシートの項目・様式を設定する場合は、適性と能力に関係のない事項を含めないようにする
  • 面接では、適性と能力に関係のない事項を尋ねないように留意する
  • 障害者、難病のある人、LGBTなど特定の人を排除しない
採用選考時に配慮すべき事項
  • 本籍・出生地、家族、宗教、支持政党など、適性と能力に関係のない事項を応募用紙に記載させたり面接で尋ねて把握したりすることや、身元調査、必要性のない健康診断などを実施することは、就職差別につながるおそれがある

2014年度に本人の適性・能力以外の項目を応募用紙や面接などで把握された件数は1223件に上り、前年の989件を大きく上回った(ハローワークに相談にあったケースの集計)。特に「家族」に関することの質問が多かったが、企業からは「応募者の緊張を和らげるために尋ねている」「昔から使用している応募用紙に家族欄が残っていたから」「慣習として戸籍謄(抄)本を求めている」などの理由が聞かれた。いずれの回答も、採用コンプライアンスに対する意識が欠けていることがよくわかる。

【就職差別につながるおそれのある事象(2014年)】
件数構成比(%)
本籍・出生地 59 4.8
家族 625 51.1
住宅状況、家庭環境 103 8.4
宗教 12 1.0
思想 130 10.6
戸籍謄(抄)本の提出 3 0.2
理由なき健康診断 22 1.8
その他 269 22.0
合計 1223 100.0
出所:厚生労働省「公正な採用選考の基本」より

 


この記事は会員限定です。会員登録(無料)をすると続きを読むことができます。
登録10秒!メールアドレスだけで簡単にご登録ができます
会員の方はこちら
次のページ
労働条件が「合法」であると同時に、「明示」する義務を忘れてはならない
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページ

記事のオススメ、コメント投稿は会員登録が必要です

人事マネジメント解体新書のバックナンバー

人事マネジメント「解体新書」第118回
「法改正」が進む中で人事部に必要な「法対応」スキルとは(後編)
「公的資料」を使って「働き方改革関連法」を徹底理解する
近年、労働に関する「法改正」が進展する中、人事担当者の「法律」(労働関連法令)への正しい理解と適切な対応は、需要なスキルとなっている。「後編」では「働き方改革関...
2019/11/21掲載
人事マネジメント「解体新書」第117回
「法改正」が進む中で人事部に必要な「法対応」スキルとは(前編)
厚生労働省などの「公的資料」をいかに読み抜くか
近年、「働き方改革関連法」の施行や「パワハラ防止法」の成立に代表されるように、人事部の業務に関連する「法改正」の動きが一段と活発化している。そのため、人事の仕事...
2019/11/13掲載
人事マネジメント「解体新書」第116回
「パワー・ハラスメント防止」を義務付ける関連法が成立、
企業は「パワハラ防止法」にどう対応していけばいいのか?(後編)
職場での「パワー・ハラスメント(パワハラ)」の防止を義務付ける関連法が2019年5月29日、参院本会議で可決・成立した。大企業には2020年4月から、中小企業は...
2019/10/22掲載

関連する記事

「ひとまず採用」では成功しない。
定着・活躍を実現する障がい者雇用支援サービスの選び方
2018年4月、障がい者の法定雇用率が引き上げられました。重要な戦力として積極的に障がい者を雇用する企業も増え、実雇用数は上昇傾向にあります。一方で、障がい者の...
2020/06/05掲載人事支援サービスの傾向と選び方
職場のモヤモヤ解決図鑑【第4回】
新卒採用面接、応募者に何を聞けばいいのかわからない
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決...
2020/06/02掲載編集部注目レポート
ハローワーク新システム開始!
人を集める求人票の書き方
今、人手不足はあらゆる業種で大きな問題となっています。特に中小企業では、大企業のように求人募集に割ける費用にも限りがあり、人手不足に頭を悩まされている企業も多い...
2020/05/22掲載人事・労務関連コラム
酒場学習論【第8回】千葉「奈種彩」とリファラル採用
千葉駅から15分は歩くでしょうか。蓮池という粋なエリアに「奈種彩(なたねいろ)」はあります。初訪した日は、今ではめったにない三姉妹そろい踏みの日。店名の「奈種彩...
2020/05/20掲載編集部注目レポート
職場のモヤモヤ解決図鑑【第3回】
新卒採用の面接官を任されたけれど、若手には荷が重い……
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決...
2020/05/19掲載編集部注目レポート

会員として登録すると、多くの便利なサービスを利用することができます。

あなたの会社の健康労務費見直しませんか? 従業員の自律的なキャリア開発を支援する

記事アクセスランキング

注目コンテンツ

【人事の日制定記念企画】
オピニオンリーダーからのメッセージ

HR領域のオピニオンリーダーの皆さまから全国の人事部門に向けてメッセージを頂戴しました。


人事メディア情報

人事メディア情報

人事・労務関連の代表的なメディアをご紹介いたします。


採用はダイレクト・ソーシングの時代へ。 求められるのは企業の「自社採用力」。

採用はダイレクト・ソーシングの時代へ。 求められるのは企業の「自社採用力」。

リーマンショックで冷え込んだ中途採用市場は、ここ数年で順調に回復し、完...