人事マネジメント「解体新書」第99回
「採用コンプライアンス」を適切に進める方法とは
――法令を遵守し、リスクを回避するためのポイント・留意事項(前編)
少子高齢化が一段と進む中、人材不足が深刻化し、採用戦線は混乱を極めている。このような状況下、採用活動に関する法令遵守、すなわち「採用コンプライアンス」の重要性が一段と高まっている。リクルーター活動や面接選考などで人事部以外の社員が採用活動に関わることは多いが、コンプライアンス意識が希薄なため、思いがけない問題を引き起こす可能性があるからだ。問題が表面化してからでは手遅れであり、社内で事前に万全の対策を講じておかなければならない。では、採用コンプライアンスを実践していくため、具体的にはどのように対応すべきなのか。「労働基準法」など採用に直接関連する法律を中心に、2回に分けて、法令遵守・リスク回避に関するポイントや留意点を解説する。
全社的に法令遵守への理解を深め、意識・行動を統一する
◆法令違反などに関するトラブルは瞬く間に広がり、採用活動に影響を与える
人事関連の業務の多くは「法律」によって規定されているが、「採用」に関しては、問題がたびたび起きている。その原因のいくつかは、採用選考プロセスの一部を担当することになった「人事部以外の社員」の対応によるものだ。人事業務に直接関わったことがないので、採用関連の法律に関する知識が不足していたり、コンプライアンスに対する意識が希薄だったりする社員は少なくない。担当業務において優秀な社員が、採用コンプライアンスに関しても万全であるとは限らない。そのため、問題が起きる前に研修を実施するなど、採用コンプライアンスに関する啓発活動を行う必要がある。もちろん、それは人事部員に対しても同様だ。
最近では応募者側でもコンプライアンスへの意識が高くなっており、自社社員の対応や説明の仕方によっては、企業の評判・評価に大きく影響することもある。採用ブランディングの面においても、十分に気を配る必要があるのだ。実際、近年は法令違反などに関するトラブルが、SNSなどによって瞬く間に広がっていく。選考段階にいる応募者がトラブルを知れば、その企業での選考を辞退するかもしれない。また、求人メディアや人材紹介会社から、求人広告の掲載や求人申込みを断られることも考えられる。
このような事態を引き起こさないためにも、日本国憲法が定める「基本的人権」の下、厚生労働省が示す「公正な採用選考の基本」を、採用に関わる社員全員が正しく理解し、具体的にどのような言動をすればいいのか、きちんと知っておく必要がある。もちろん企業には「採用の自由」があるが、その一方で、守らなければならない法律があることを忘れてはならない。全社員が採用コンプライアンスに関する理解を深めることで、意識・行動のレベルを統一していくのだ。その際、具体的な事例やQ&Aを交えた分かりやすいマニュアルを作成し、事前にレクチャーや研修などを実施することが望ましい。
採用選考の基本的な考え方 |
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公正な採用選考を行うためには |
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採用選考時に配慮すべき事項 |
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2014年度に本人の適性・能力以外の項目を応募用紙や面接などで把握された件数は1223件に上り、前年の989件を大きく上回った(ハローワークに相談にあったケースの集計)。特に「家族」に関することの質問が多かったが、企業からは「応募者の緊張を和らげるために尋ねている」「昔から使用している応募用紙に家族欄が残っていたから」「慣習として戸籍謄(抄)本を求めている」などの理由が聞かれた。いずれの回答も、採用コンプライアンスに対する意識が欠けていることがよくわかる。
件数 | 構成比(%) | |
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本籍・出生地 | 59 | 4.8 |
家族 | 625 | 51.1 |
住宅状況、家庭環境 | 103 | 8.4 |
宗教 | 12 | 1.0 |
思想 | 130 | 10.6 |
戸籍謄(抄)本の提出 | 3 | 0.2 |
理由なき健康診断 | 22 | 1.8 |
その他 | 269 | 22.0 |
合計 | 1223 | 100.0 |
出所:厚生労働省「公正な採用選考の基本」より
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