女性が活躍できる組織作りとは?
~女性の覚悟、企業の覚悟~
NPO法人 J-Win(ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク)理事長
内永 ゆか子さん
「女性活用は企業戦略である」と考える経営者が増えています。ところが、初めて経験する役職に抜擢された女性たちは不安で一杯。肩に力が入るあまり、組織の中では疎まれ、部下たちからは嫌われてしまう、というケースも少なくありません。2007年春、そんな企業や女性リーダーたちを支援しようと、NPO法人「J-win」が誕生しました。初代理事長は、元日本IBM専務で現在は同社技術顧問でもある内永ゆか子さん。パイオニアとしての豊富な経験から、女性が組織人として生きるための極意もお話しいただきました。
うちなが・ゆかこ●1947年、香川県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業後、日本IBM入社。95年、同社初の女性取締役(アジア・パシフィック・プロダクツ担当)に就任。2000年、常務取締役ソフトウェア開発研究所所長。04年、取締役専務執行役員開発製造担当。07年、日本IBMを定年とともに退職し、NPO法人「J-win」の初代理事長に就任。企業のダイバーシティ推進を支援しつつ、女性リーダーを増やす活動を続けている。近著に『部下を好きになってください』(勁草書房)がある。(NPO法人「J-win」ホームページhttp://www.j-win.jp/)
企業の枠を超えた女性たちのネットワーク作りを支援
内永さんは07年春、NPO法人J-Winの初代理事長に就任されました。J-Winとは、どのような組織なのでしょうか?
活動の目的は大きく三つあります。一つは、女性たちがそれぞれ切磋琢磨してキャリアアップできるよう、サポートすること。二つ目は、企業がダイバーシティを促進できるようにサポートすること。三つ目は、個性を持った多様な個人が活躍できるよう、社会が変わっていく支援をすることです。
はじまりは1998年、日本IBM社内で「ジャパン・ウィメンズ・カウンシル」がスタートしたことでした。「女性活用は企業戦略である」という全世界のIBMの戦略に従い、各部署から11名の女性が集められ、女性活用の問題点を探り、数値目標を立てていったのです。当時、女性で唯一の取締役だった私は、そのリーダーでした。
当初は「女性ばかりを集めて何をするのか」「男性にこそ、カウンセリングが必要なんじゃないか」という声も多く、私自身、女性だけが集まるということに対して強い抵抗感もありました。ただ、いろいろと調べ、話し合っていくうちに、「女性ばかり集まって気持ちが悪い」と言われるほど、女性は登用されていないし、活かされてもいないんじゃないか、ということに気がついたんです。良くも悪くも注目され、肩肘はって、突っ張って、無意識のうちに孤独感や孤立感を深めていた女性たちが、集まることで悩みを共有できた。この効果は、予想以上に大きいものでした。
個人的にも助かったのは、この活動を通して社内のネットワークが広がったことです。組織の中で点として存在している女性たちは、なかなか男性のネットワークに入ることができません。「なんだ、孤独なのは私だけじゃなかったんだ」と気づき、女性同士でつながることができたのは、非常に大きなメリットでした。
社内のネットワークとして始まったウィメンズ・カウンシルが、どのようにしてJ-winへと発展していったのでしょうか?
ウィメンズ・カウンシルの活動をはじめてしばらくすると、いろいろな企業から「うちに来て話をしてくれないか」というお話をいただくようになりました。行ってみると、どの企業も同じような組織を作りたいのに、ターゲットになる女性の数が少なくて困っている。それなら、個々の企業でどうこうするよりも、まずは、企業の枠を超えた女性たちのネットワークを作りましょうということで、J-Winが始まったんです。
最初の2年間は任意団体で、専任のスタッフもいない。みな、ボランティアで運営していました。私も仕事をしながら、直接各社のトップと交渉をして、賛同企業を増やしていきました。
そうした活動をもっとアクティブにやっていきたいと考えた時、任意団体では限界があります。施設や事務作業などIBMに頼る部分が多く、「IBMの出先じゃないか」と思われるデメリットもありました。それで、07年3月に私が日本IBMを定年になったのをきっかけに、組織をNPO法人にして専任スタッフを置き、中立性を明確にして活動していこう、ということになったんです。
NPO法人になって約1年。現在の活動状況を教えて下さい。
07年12月現在で83社、241人の女性リーダーたちが活動に参加しています。参加母体はあくまで企業です。女性が個人で参加すると、その人がいくら頑張っても企業が変わらず、辛くなって辞めてしまいます。そこで、あえて企業にメンバーとして出資してもらい、そこから派遣された女性にサービスを提供するという形をとりました。そうすることで、女性管理職個人だけではなく、企業戦略としての女性活用、ダイバーシティの推進も支援できます。
参加資格は特に決めていませんが、企業には「できれば管理職かその候補者を参加させて下さい」とお願いしています。年齢的には、30代から50代までさまざまです。企業の中でダイバーシティ担当や人事担当をされている方なども多いですし、「会社に言われたから仕方なく参加した」という方もいるでしょう。でも、そういう女性たちが、会社や業種の枠を超えた仲間とつながることで、自分たちがいかに孤独であったかを再発見し、お互いに刺激を受けています。
具体的には、月に1回全体で集まる定例会のほかは、国や企業、学校教育のあり方などテーマごとに七つの分科会を設け、それぞれが毎回テーマを決めて自由に議論しています。一つの分科会には書記もいれば、経理担当や広報担当もいます。みな、仕事との両立で大変ですが、分科会ごとにSNSで交流したりもしています。11月は70人が参加し、4泊6日の米国研修旅行にも行きました。そうした活動の成果は、ある程度まとまった時点で情報発信していこうと思っています。
女性活用は「ゴール」ではなく「リトマス試験紙」
厚生労働省の「女性雇用管理基本調査」によると、企業で働く女性の割合は増え続けているにもかかわらず、係長以上の管理的な立場に就く女性の割合はまだ1割。女性の管理職が育たない一番の要因は何でしょう?
一般的には、中間管理職にある男性の理解が少ない、女性たちの意識がキャリア志向とそうでない派に二極分化していることなどが指摘されています。しかし、私はそれだけではないと思っています。管理職として働く女性たちの悩みを聞いてみると、国や業種の違いを超えて、驚くほど共通しているからです。
では、日本の何が特殊だったのかといえば、米国に次ぐ巨大な市場を持ち、非常に恵まれたビジネス環境にあった、ということだと思います。これまでは、国内市場に製品を投入し、それを輸出することで十分に事業や利益を拡大していくことができたため、あえて組織の中に多様性を持たなくても対応できました。ところが、最近では中国やインドといった新興国がどんどん力をつけ、経済大国としての日本の地位が危うくなってきています。少子化で、国内市場は小さくなり、海外での競争はますます激しくなっていくわけですから、同じ利益をあげようとすればどうしても、海外での競争力を強化していかざるを得なくなります。
そうした状況の中、男性中心のモノカルチャーでビジネスをしていると、異質な文化やマーケットを理解することはできませんし、相手に受け入れてももらえません。さらに、少子化で労働力は減っていくわけですから、女性にもっと活躍してもらわないと、労働力さえ確保できなくなってきています。
トップの方たちは、多かれ少なかれこうした状況を理解されていますから、皆さん、なんとかして女性管理職を増やしたいわけです。女性活用はゴールではなく、日本企業が今後、多様性を抱えてうまくやっていけるかどうかのリトマス試験紙。そういう意識を持った企業はすでに、本気で女性を育てようと動き始めていると思います。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。