海外勤務者の安全対策の実態
――海外勤務の状況、緊急事態発生時を想定した安全対策など
企業の海外進出が進み、海外で勤務する社員が増える一方、テロや誘拐、自然災害、感染症など、さまざまなリスクも増えています。古くは2001年のアメリカ同時多発テロ事件をはじめ、SARS、インドネシア・スマトラ島沖地震、最近では中国での暴動やアルジェリアでの人質事件が記憶に新しく、日本人を巻き込んだ一般犯罪も後を絶ちません。こうした世間をにぎわせた事件を契機に海外勤務者の安全対策の整備・見直しに取り組んだ企業も少なくないものと思われます。
一般財団法人 労務行政研究所(理事長:矢田敏雄)では、2013年3月に「海外勤務者の安全対策に関するアンケート」を実施。海外勤務者の安全対策に企業がどのように取り組んでいるのかを調べました。本記事では、その中から「海外勤務の状況」「海外勤務の安全対策」を中心に取り上げます。
※『労政時報』は1930年に創刊。80年の歴史を重ねた人事・労務全般を網羅した専門情報誌です。ここでは、同誌記事の一部抜粋を掲載しています。
◎調査名:「海外勤務者の安全対策に関するアンケート」
1. 調査対象:全国証券市場の上場企業(新興市場の上場企業も含む)のうち、東洋経済新報社『2011海外進出企業総覧』所載の(1)海外現地法人を有する企業、または(2)海外支店・駐在員事務所を有する企業――計1686社。
2. 調査期間:2013年3月4日~27日
3. 集計対象:前記調査対象のうち、回答のあった100社。
海外勤務の状況
海外拠点・海外出張がある地域
海外拠点・海外出張とも「中国・台湾・香港」が9割台で最多。「東南アジア」がこれに次ぐ
海外勤務者の安全対策について見る前に、まずは今回の集計(回答)企業における海外勤務の状況を見ておきましょう。
現地法人、支店、駐在員事務所といった海外拠点がある地域は、「中国・台湾・香港」が最も多く、94.0%と9割台に上りました。以下、「東南アジ ア」82.0%、「北米」74.0%、「西ヨーロッパ」57.0%と続きます(複数回答)。一方、「中東」20.0%や「アフリカ」10.0%は1~2割 にとどまりました。
海外出張がある地域も、「中国・台湾・香港」が最も多く95.0%。以下、「東南アジア」92.0%、「北米」80.0%と続くところは、海外拠点と同様です。海外出張では、「韓国」78.0%が「西ヨーロッパ」75.0%を上回り、4番目となっています。
海外勤務の安全対策 -1
緊急事態発生時を想定した実施事項
「安否を確認する体制整備」は59.0%、「危機管理マニュアルの作成」は43.0%が実施
海外でテロや自然災害等が起こるなどの緊急事態発生時を想定し、何らかの施策を実施している企業は77.0%に達しています(後述しますが、「緊急事態発生を想定して、実施している事項は特にない」が23.0%であるため)。
具体的な事項を尋ねたところ、最も多く実施されていたのは「現地で勤務している者の安否を確認する体制整備」で、59.0%と約6割。以下、「緊急 事態発生を想定した危機管理マニュアルの作成」43.0%、「社内・社外への情報発信の体制整備」41.0%、「事業停止リスクへの対応」20.0%、 「日本に残留している家族への対応ルール整備」19.0%、「関係行政機関への対応ルール整備」10.0%と続きます(複数回答)。「その他」8.0%と して、“緊急事態を想定した訓練の実施”“鳥インフルエンザ等に備えた薬品や体制の確認”といったものも挙げられました。
各事項とも、おおむね規模が大きいほど実施割合は高い傾向にあります。特に「危機管理マニュアルの作成」は、1000人以上では56.3%と過半数が実施しているのに対し、300~999人では23.1%、300人未満では10.0%と格差が顕著になっています。
一方、「緊急事態発生を想定して、実施している事項は特にない」ところも23.0%と2割超見られました。特に、300人未満では80.0%と大半 が「特にない」と回答。その理由は尋ねていませんが、規模が小さいところでは相対的に海外赴任や海外出張が少なく、緊急事態への対応について事前に組織的 な対応を講じる必要性を認識していなかったり、必要性はあっても人員の都合で対応が後回しになったりしているのではないかと推察されます。
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