DXの視点『御礼メールAIがもたらすビジネス変革』
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー 柏村 祐 氏
1. 御礼メール作成の課題
御礼メールの作成は、多くのビジネスパーソンにとって意外に面倒な作業である。適切な言葉遣い、丁寧な表現、相手への感謝の気持ちを込めることなど、考慮すべき点が多岐にわたる。特にビジネスシーンにおける御礼メールは、単なる礼儀や社交辞令ではなく、相手との信頼関係を構築し、将来のビジネスチャンスにつなげるための重要なコミュニケーションツールでもある。効果的な御礼を伝えるには、定型文ではなく個別の状況に合わせた文章で、タイミングよく送ることが求められる。できるだけ早く、明日より今日、午後より午前中に送った方が印象が良い。また、場面や相手に合わせて感謝の気持ちを的確に伝えることも重要である。一見簡単そうな作業に思われるが、実際には意外と時間がかかる。多忙な業務の中で、一つ一つの御礼メールに時間をかけて丁寧に作成することは大きな労力を要する作業である。このような御礼メール作成の困難さに直面している多くのビジネスパーソンにとって、自分の手間を最小限に抑えつつ、大きな成果を上げるためのツールとして、いまAIの活用が注目されている。
2. 御礼メールAIの実際の能力
実際の御礼メールAIの能力を検証するため、筆者自身が経験した事例をもとに、AIによるメール作成を紹介する。今回は営業訪問後の御礼、会食後の御礼について、AIに指示を与えてメールを作成させた。まず、営業訪問の御礼メールでは、「営業で訪問した会社への御礼メールを作成ください。訪問した日付は7月12日でした。1時間も時間を作ってくれたこと、提案内容を検討いただけることに感謝した内容としてください。提案した内容はAIに関する講演でした」という指示を与えた。AIは、7月12日の訪問日や提案内容などの情報を的確に反映し、丁寧な言葉遣いと適切な感謝の表現で文章を構成した(図表1)。会社名、部署名、氏名などは自分で修正し、内容についても必要に応じて加筆修正もできる。
次に、会食の御礼メールでは、「ある会社との会食の御礼メールを作成ください。会食した日付は7月22日でした。皆様と時間をとり、リラックスした雰囲気の中、御社における課題や現場の生の声をお聞きすることができたこと、食事も大変美味しかったことに感謝した内容としてください」という指示を与えた。AIは、7月22日の会食を踏まえ、和やかな雰囲気と美味しい食事への感謝を自然な文章で表現した(図表2)。
これらの事例から、AIは与えられた情報をもとに、それぞれの状況に応じた適切な表現で御礼メールを生成できることがわかる。AIの高度な言語生成能力は、御礼メール作成の負担を大きく軽減し、効率的かつ効果的なコミュニケーションを可能にするといえる。
3. 御礼メールAIがもたらすビジネスコミュニケーションの変革
御礼メールAIは、従来のメール作成とは一線を画す多様な言語生成を実現する。膨大なデータから学習した知見を活用し、個々の状況に合わせて最適な表現を選択することで、人間が丁寧に作成したかのような自然なメールを生成できる。この能力は、ビジネスコミュニケーションに大きな影響を与える。効率化の観点からも、御礼メールAIの導入は意義がある。たとえば、営業担当者が訪問先への御礼状をAIで即座に送信できれば、帰社後すぐに持ち帰った課題に取り組むことができる。新規契約時も、迅速な御礼メールを送ることで、直ちに次の業務に着手できる。こうした効率化により、限られた時間を有効活用し、生産性を大幅に向上させることができる。
ただし、AIの活用には課題もある。AIには的確に指示を与える必要があり、必要な情報を適切に伝えないと、意図しない内容のメールが生成されてしまう。また、プライバシーや個人情報の保護、AIの予期せぬ判断によるトラブルなど、現時点での課題も少なくない。AI活用の恩恵を享受しつつ、これらの課題を念頭において活用する必要がある。
御礼メールAIがもたらす変革は、ビジネスの効率化と高度化の両面で重要である。効率化によって生み出された時間を活用し、人間ならではの創造的な業務に注力することで、イノベーションの促進と新たな価値創造につながる。また、これまでにない戦略的コミュニケーションによりビジネスの高度化にも資する。
このように、御礼メールAIの活用により、ビジネスコミュニケーションの大きな変革と発展の機会がもたらされる。ビジネスパーソン一人ひとりが、AIを味方につけ、新たなコミュニケーションの形を創造していく時代に入りつつあるといえるのではないだろうか。
第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
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