健康経営は継続的な取り組みが重要
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 研究員 森下 千鶴氏
【要旨】
2021年3月4日に「健康経営銘柄2021」が発表された。7回目となる今回は29業種48社が選定され、そのうちの6社は2015年の表彰開始から7回連続の選定となった。
従業員等の健康維持・増進に取り組むことは、企業のブランド力向上、業務の生産性を上げるなどの好循環を生むための一つの手段である。健康経営の効果は業績や株式価値に即座に反映されるとは限らない。しかし、継続的に取り組むことで、組織の活力や生産性が向上し、その結果として将来の企業価値向上や株式価値向上につながることが期待される。
1――評価ポイントはPDCAサイクルの確立
「健康経営※1」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することを指す。経済産業省と東京証券取引所は、日本再興戦略に対する取り組みの一環として、「健康経営銘柄」を選定し、2015年から毎年表彰している。2021年は29業種48社が選定された。
2021年に選定された企業の取組みを見ると、企業グループを横断した健康経営推進チームの組織、健康管理システムの運営、生活習慣病対策やメンタルヘルス対策に関する具体的な目標数値と行動指針を定めている企業が多い。さらに、これらの行動指針を定めたうえで、PDCAサイクルを回すことにより着実に数値が改善している企業が目立つ。
また、連続で「健康経営銘柄」に選定されている企業のなかには、健康経営銘柄選定を受けるまでの過程で得られたノウハウや知見を、社内のみではなく、講演等を通して他社に提供しようという先進的な取り組みをしているところもある。
2——企業の健康経営度の高さは株式価値に反映されるか
健康経営銘柄に選定された企業について株式市場はどのように評価しているのだろうか。
図表2は健康経営銘柄に選定された企業の選定前後の超過収益率をまとめたものである。2015年から2018年の4年間に健康経営銘柄に選定された企業の合計97社のうち、複数年選定された企業の重複分を除いた50社を用いて集計した。企業ごとに健康経営銘柄に初めて選定された年の3月末の株価を基準として選定前3年、選定後3年の年度ごとに対TOPIX(配当込み)年間累積超過収益率を計算し、50社の単純平均をとっている。
健康経営銘柄に選定される1~3年前はTOPIXを劣後する傾向が見られたが、健康経営銘柄に選定された1年後はTOPIXをやや上回る上昇となった。それ以降は、2年後はTOPIXに劣後したが、3年後はTOPIXを上回って上昇する傾向が見られた。
健康経営銘柄に選定されたということは、健康経営への取り組みが従業員一人ひとりの活力向上や組織活性化につながっていると評価されたということだ。もちろん、単年度の株式価値には、業績や金融政策といった要因が大きく影響する。それでも、企業の健康経営度の高さが、組織活性化や生産性向上を通して、少なからず株式価値の向上にも影響していると言えるかもしれない。
3——長期的な視点での企業価値向上、株式価値向上に期待
今回、健康経営銘柄に選定された48社のうち6社は7回連続で選定された企業である。この6社については、健康経営に関する積極的、継続的な取り組みが実施されており、健康経営銘柄に選定された企業のなかでも特に取り組みが形式・中身ともに伴っている会社と考えられる。そこで、最後にこの6銘柄に2010年3月から金額均等投資した場合の時価の推移をTOPIX(配当込み)と比較したところ、時価は安定的にTOPIXを上回っていた(図表3)。
健康経営銘柄に7回連続選定されることは、以前から従業員の健康管理を経営戦略の一環として取り組んでいた企業でなければ難しいだろう。株式市場は、企業の健康経営への取り組みと効果について、その努力の成果を長期的に反映していく、つまり、継続的に従業員等の健康維持・増進に取り組み、それが実際に企業のブランド力、業務の生産性、業績の向上につながり、結果的に将来の企業価値向上や株式価値向上につながるということを表しているのかもしれない。
※1 「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標
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